中世ヨーロッパの人はパンツを丸出しにしていた? ―中世絵画より―
Wikipediaからの借用画像は各ページにリンクを貼っていたのですが
小説本文には外部リンクがつけられないため、URLをベタ貼りしています。
中世の珍妙な服を紹介するコーナー
今回は男性編です
ちなみにこのトピックは
バームベルク公爵領 第209話の補足なので
先にそちらをお読みいただくとより楽しめると思います
○中世にもダメージジーンズが流行った?
Jakob Seisenegger: Archduke Ferdinand of Tyrol, 1548
ダメージジーンズ……ではなく
ブリーチズにスラッシュ(かぎ裂き)というダメージ加工をして
裏地に張ってある白い布を下着の代わりにはみ出させているらしいです
なんだかティッシュみたいですね
世界服飾大図鑑 河出書房新社 P81
こちらは袖口にスラッシュを入れて
下に着ているシュミーズ(給食のスモック状の下着)を引っ張り出しています
やっぱりティッシュみたいですね
○中世の道化師
Thomas Davidson The Court Jester; 1877.
https://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_Davidson_(painter)
ミニスカートにニーハイソックス……ではなく
ダブレットに左右色違いのホーズです
○ルネッサンスの男性はパンツ丸出しで歩いていた?
白いブレー(パンツ)に赤いホーズ(ニーハイソックス)を重ね履きしている様子
『カトリーヌ・ド・クレーヴの時祷書』より
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B9
剣の練習をする若者
「左右の腿までのホーズを、ダブレットの裾に紐で結んで引き上げている。
下にリネンのドロワーズが見える。」
世界服飾大図鑑 河出書房新社 P73
当時の男性は本当にこの格好でウロウロしていたらしいです
おそらく14世紀
上着の裾が邪魔なのでブレー(パンツ)の中に仕舞い込んで
農作業に励む農民の図
※ブレー・ドロワーズ・ショースは
時代によってかなり形が違うので
あくまでも14世紀後半から15世紀初頭ぐらいの一形態と思ってくださいね
丹野郁 西洋服飾発達史
五世紀ごろ、初期中世のブレーはこの真ん中のような形状をしていて
初期中世でズボンというとこのブラコ(ブレー)のことを指すことが多いですが
(BNF) MSS Francais 15944 f.37v
中世末期ごろのブレーはこのようにブリーフのような形をしていることが多いです
時代によってちょっとずつ形が違うのだな、ということだけ覚えておいていただけますと
中世ヨーロッパもののズボンを見る目が変わると思います
「お、この本で言うズボンは一体どれのことだ?」と…。
ちなみにうちの本で言うところのズボンは
だいたい現代的なズボンの形状をしています
理由は後述します
○コッドピースとは?
コッドピースの前にドロワーズのお話を少し
ドロワーズというとファンタジー作品の女性用パンツとして有名ですが
当時のドロワーズって実は男性専用だったんですよね
どうして男性専用だったのかを説明するととても長いので
またいつかの機会にお話したいと思います
EMBROIDERED LINEN DRAWERS. LATE 16TH CENTURY (ITALIAN)
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/83868
前開き? の男性用ドロワーズ
探したんですがこれより古いものは見つかりませんでした…。
お話の本文でも書きましたが
ダブレットが出てくる以前の中世の伝統的な上着は
丈が長くて、膝ぐらいあったんですよ
それが一番最初に図示したイラストのようにミニスカート状になって
パンツが見えるようになってしまったわけです
そこでホーズの後ろは縫われるようになって
お尻は守られるようになったんですが
前は相変わらず全開だったらしいんです
Battle between Heraclius and Chosroes (detail) 1452-66 Fresco San Francesco, Arezzo
お尻が守られるようになった例
激しい戦いのせいでズボンの後ろが裂けてパンツが丸見えになった図…ではなく、もともとこういうデザインの服です
この人はパンツを丸出しにして、大真面目に戦っているのです
真剣な戦いなのです(大事なので二回言った)
この図だとまだホーズ(ショース/ニーハイソックス)が鼠蹊部から伸びている過渡期ですね
もう少し経つと完全にお尻が覆われます
ホーズが全開でパンツが見えているぐらいならまだしも
この時代はなんとドロワーズも前が開いていたらしいんですよね…。
開き具合が分かる画像は上のものしかなかったんですが
確かにスリットが入っています
なぜドロワーズの前を縫わないのか?
一説によるとトイレがしやすいためということですが…。
ブレー(パンツ)の前を閉じているように見える画像はたくさんあります
Juan Sanchez, Galeria Caylus, Madrid (details). Second half of 1400’s
おそらくちゃんと前を閉じていると思われるブレー(パンツ)
この直後にホーズの前股に三角形の布を縫い付けた
近代的な『ズボン(ブリーチズ)』が誕生しますので、
Marten van Cleve (1527-1577) ? The Blessing of the Bridal Bed (detail)
ホーズ(ニーハイソックス/この当時はすでに股割れズボンと呼べるほどに丈が伸びて、お尻も縫われるようになっていました)の前に三角形の布を縫い付けたブリーチズ
飛び出ているのは紐
当時はファスナーがないので、服のあちこちにこういう紐が無数についていたんですね
これを結びあわせて、体にぴったりフィットさせて着るのがおしゃれでした
縫製の技術的にはやろうと思えばできたはずなんですが
ドロワーズの前開きはその後16世紀の終わりまでずっと続きました
17世紀になると前開きながらもボタン留めする工夫がみられるようになります
理由は不明なれども
前が露出全開のドロワーズ(パンツ)
超ミニスカート丈のダブレット(上着)
鼠蹊部までしかないホーズ(ニーハイソックス)
全部が組み合わさると大変なことになるんですよね…。
パンツ丸出しどころか
生まれたままの姿をさらけ出すというようなことにもなり…。
私のような凡人は
「いや、じゃあ前を縫ったらいいんじゃない?」
と思うんですが…。
(繰り返しますが技術的には可能なんです)
この不具合を解消するために生まれたのが
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%B9
かの悪名高き『コッドピース』だったという
まことにしょうもないトリビアを皆様にお届けして
今回の記事を終わりたいと思います
よく見るとスカート(ジャーキン下部)の中央にスリットが入っていて
コッドピースがいい具合に見えるように
わざわざ細工してあるのがお分かりでしょうか
本当にいい具合ですね…。
当時の衣服はこのように前開きであることが多いのですが
(前開きの服は東洋の特徴で、十字軍により西洋に伝わり、ダブレットに取り入れられました)
中世にはちゃんと閉じていた部分ですので
技術が退化した…というよりは
わざわざ開けて見せびらかしていた
という方が正確なのかもしれません…。
まあ…。
ひどいなと…。
中世の服は史実通りにするとろくなことにならないな、と…。
そんな私の気持ちをね…。
皆様と少しでも分かち合えましたら幸いです…。
うちの話のテーマは一貫して
『文化が違うと常識も違う』
になっておりますので
異世界の人たちが珍妙な魔法少女服を貴族の正装に採用していても
別におかしくないと思うんですよね
思うんですよね
おかしくないはずなんですよね
…。
常識が行方不明のバームベルク公爵領です
どうぞよろしくお願いします
初出:
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/249964/blogkey/2094985/




