『89、誕生日の舞踏会』
今回から一気に戦争モードになります。
俺が6歳になる誕生日の夜のこと。
闇に支配されたホールに、淡いオレンジ色の光が灯された。
赤いテーブルクロスが敷かれたテーブルに趣向を凝らした料理が置かれる。
今回は重要な話し合いも行われる予定で、護衛はいない。
時刻が19鐘を過ぎたころ、父上が舞台に登壇した。
「これより、我がグラッザド王国主催の舞踏会を開催いたします!」
控えめな拍手が広い会場に物寂しく響く。
思ったよりも反応が薄かったからか、父上は不満げな顔をしながら降壇した。
俺とリアンが座っているテーブルへとやってきた父上は、席に座る前に頭を下げる。
「リレン、誕生日に済まないな。お前だって面倒だろうに」
「大丈夫ですよ。余計な邪魔さえ入らなければ、舞踏会も案外楽しいじゃないですか」
俺はさりげなく4国連合からの代表者を見る。
父上も視線に気づいたのか、酷く残念そうな顔をして首を横に振って見せた。
「さすがに何も無しというわけにもいかないだろうな:
「あの人たち、しつこそうな感じがするしね」
社交界に初参戦したリアンが嫌悪感丸出しで吐き捨てる。
綺麗にセットされた銀髪が、淡い光に照らされて妖しく光っていた。
「リアンもあの人たちには気を付けてよね」
「ああ。下手に近付いて誘拐でもされたら面倒な事態になるからな」
軽く頷いた俺がテーブルの料理に目を移すと同時に、アラッサムの代表が向かってきた。
気配を消しているようだが、視界の端にバッチリ映っている。
他の2人も気づいているようなので、お互いに顔を見合わせて視線を交わす。
――確実に近づいてきてるよね。何だろう。
――面倒だね。文句でも言う気か?僕も嫌味の1つは言われそうだね。
――その年だからな。それよりも会話は私に任せろ。お前たちは黙っていればいい。
国王なら下手な使者より立場は上だ。
父上に会話を頼んだ俺たちはテーブルの料理を皿に盛りつけていく。
決してアラッサムの代表は見ないように・・・。
「失礼ですが、私はアラッサムの者でございます。リレン王子と言うのはどちらかな?」
「は?目的は私ではなく王子なのか!?」
事態の大きさを把握した父上が周りも憚らずに素っ頓狂な声を上げた。
しかし腐っても1国の王。即座に持ち直した父上がやや警戒したように問いかける。
「うちの息子に何の用でしょうか。答え次第では・・・」
「話と言うのは、我が国の第4王子のことでございます。何でも牢屋に投獄したとか」
俺は平静を装いながらも冷や汗をかく。
マズイ・・・父上に報告するのをすっかり忘れてた。
今もアラッサムの第4王子は宿場町ステイズの教会にいるだろう。
「は?何のことかさっぱり分からないのですが」
「とぼけないで下さい。リレン王子が第4王子を投獄したのは分かっているんですよ!」
アラッサムの代表に詰め寄られながらも、父上がこちらを睨んでくる。
話していないのだから、知らないのも当然というものだ。
何はともあれ、まずはこの事態を収拾しないと4国連合が揃ったら厄介すぎるな。
「使者様、申し訳ございません。私が王子のリレン=グラッザドでございます」
「あなたがリレン王子でしたか。なぜ第4王子を投獄したのを教えてくれませんか?」
優しい言葉だが、俺に拒否権はなさそうだ。
というか、アラッサムは自国の王子が国境を越えたかどうかも分からないのか?
随分と杜撰な管理なことで。
「なぜって・・・あなた達の国は王子が他国で何をしているのかも知らないのですか?」
「誤魔化さないでください。理由は何なのですか?」
俺と話したくないのか、冷たい表情でこちらを見つめて来るアラッサムの代表。
話術は使いたくなかったがしょうがないか。
俺たちの他にも襲われた馬車があったかもしれないし、容赦なく攻めさせてもらおう。
「彼は盗賊のリーダーをしていました。僕たちも旅の途中に襲われたんです」
「そうなのですか。それで投獄したのはなぜです?」
「何を言っているんですか?王族を襲ったのですからこれくらいの罰は当然でしょう?それとも、あなたの国では王族を襲った者は無罪なのですか?」
同じ質問を返してくるから、思わず攻め立ててしまったがどうなのだろう。
確認すると、アラッサムの代表は苦々しい顔をしながら別の人と話し合っているな。
やがてこちらを向くと、深々と頭を下げた。
「我が国の王族が申し訳ありませんでした。無礼をお許しください」
「分かっております。私どもも無意味に責任を追及する気はありませんから」
本人の反省次第では、この約束はどうなるかは分からないが。
アラッサムの代表が去っていくと、フッと照明が消えてシャンデリアが灯される。
明るさに慣れた俺の目が蝋燭を捉えた。
なるほどな。これをつけていたから淡い光が灯っていたのか。
やがて、あちらこちらからドレスで着飾った女性とエスコート役の男性が出て来る。
舞踏会が始まるということだ。
やけに軽快な音楽が流れだした途端、女性も男性も優雅にステップを踏みだす。
しかし、中盤を過ぎたあたりから次第に頭がクラクラしてきた。
それは踊っている人たちも同じらしく、ステップが甘くなって転倒するペアも出てきている。
異常に気付いた父上が部下に曲を止めるように命じたが、一向に止まる気配が無い。
首を傾げていると、指示を受けた部下が戻ってきた。
「国王様、曲を流す魔導具に細工が施されているのか、曲が止まりません」
「何だと!?まさか・・・音楽魔法か!」
つい1週間前くらいに魔法局の大臣がそんなことを言っていたな。
資料を渡してくれるとか言っていたのに貰えてないし。
とりあえず魔導具に詳しいツバーナと魔法局の誰かを連れてくれば事態が鎮静化するか。
「父上、リアンと一緒に人員を連れてきます」
「頼んだ。クソッ・・・こうなるんだったらアラッサムの妄言に乗るんじゃなかった」
どうやら今回の首謀者はアラッサム王国らしい。
護衛を排除することで、確実に音楽魔法をかけようとしたのだろう。
父上の言葉を聞くに、各国の首脳陣はその作戦に乗ってしまったんだろうな。
「リレンはツバーナさんを呼んできて。僕は魔法局に行ってくる」
「分かった。大臣のアロンさんがいたら、彼女が最も適任だと思うよ!」
「了解。お互いになるべく早く読んでこよう」
会場から忍び足で出ると、リアンが魔法局がある方向を向いて言った。
俺は頷いて温室に向かう。
「ツバーナ!舞踏会で魔導具が異常を起こした。回復を手伝ってくれないか?」
「え?具体的にはどんな感じなんですか?」
試験管が並ぶ部屋の奥にある机で、機械のようなものを弄っているツバーナに説明する。
症状を聞き終わったツバーナは目を見開いた。
「お祖母ちゃんから教えてもらった昔の魔法がかかっているかも。すぐ行きましょう」
「ああ。頼んだ」
急いで会場に戻ると、ちょうどリアンもアロンさんを連れて戻ってきたところだった。
2人の助っ人を控えさせた俺たちは重厚な扉を一気に開ける。
軽快な音楽が耳に入った2人の助っ人は、顔を見合わせると恐る恐る入っていく。
アロンさんが途端に眉をひそめた。
「魔力の流れが激しいな。どれだけの楽器を使えばこんな状態になるんだ」
「とりあえず解除してみましょう。、魔導具発動!」
首飾りのような魔導具が光ったかと思うと、軽快な音楽がピタッと止む。
あまりにも早く解決できたため、アロンさんが呆気に取られたような表情をした。
「クッ・・・アラッサムの代表はどこだ?」
「既に逃げてしまったようです。それよりも気分が悪くなった者の手当てをしましょう」
「そうだな。リレン、頼めるか」
顔色が悪くなった父上が視線を向けて来たので、俺は頷いて登壇する。
「それでは行きますよ。範囲解呪」
優しい光が会場を包み、倒れた人たちが次々と起き上がっていった。
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