『10、応接間での会議』
応接間に集まったのは、王族からは俺、アスネお姉さま、アリナお姉さま、母上、父上。
フォルス家からはラオン公爵、マリサ夫人、イグルくん。
その他にパーティーの最高責任者であるホブラック宰相が参加している。
会議の開始は宣言されたものの、気まずいのか誰も口を開かず、しばらく沈黙が流れる。
やがて、会議開始の口火を切ったのはアスネお姉さまだった。
「まず、フォルス家の皆さんを別館に泊める許可を頂きたいのですが」
「分かっている。許可しよう。今回の屋敷崩壊の原因が分かるまでは泊まっていくといい」
父上も二つ返事で許可したため、一つ目の問題が解決。
次に発言したのはラオン公爵だった。
「ありがとうございます。そして……あのクラスがパーティーに来たとしたら、正直リレン王子の命は保証できませんね」
ラオン公爵の言葉にイグルくんが頷き、父上と母上、ホブラック宰相が揃って顔を顰める。
襲撃者の魔力はそれほどまでに異常だった。
あれほどの実力があれば、どれだけ参加者がいても、全員を煙に巻くなど容易い。
それを理解しているのか、ホブラック宰相の顔も硬い。
「魔力計測を行うという手もありますが……」
「例え魔力が多くても、そいつが襲撃者だという証拠がない。間違いなく不満が出るな」
「それに、初級魔法でも命を奪うことは可能ですわ。ハッキリ言って無駄でしょう」
父上やマリサさんも魔力計測には懸念を示しているらしい。
提案したホブラック宰相も難しいと分かっていたのか、あっさりと引き下がった。
するとアスネお姉さまが最善だと思われる策を提案する。
「やっぱり舞台上に位置人で上がる機会を無くせばいいのでは?」
「いや、さすがに主役が一度も参加者全員の目に触れないのはマズイですね」
「――というか、それじゃパーティーを開く意味がないんじゃない?」
予想外の角度から撃たれたイグルくんの援護射撃に、全員が口を噤むしかない。
確かに、パーティーは貴族たちとの顔合わせのために行うもの。
全員と顔を合わせないのはパーティーの趣旨に反しているといえるだろう。
だけど人の命には代えられないだろ。俺だけでなく参加者が襲撃されたらどうするんだよ。
何だか考えが傲慢な気がするが、命を狙われているので勘弁してもらおう。
「じゃあ、どうしたらいいの? 君は僕に死ねと?」
「答えは単純明快です。一人にならなければいいんですよ!」
「矛盾しているね。参加者全員の目に触れないといけないんじゃないの?」
俺とイグルくんの直接対決の様相を呈している応接間。
全員が固唾を飲んでこの攻防戦を見守る中、イグルくんが呆れたようにため息をついた。
俺のイライラ度がさらに上昇するが、必死で平静な表情を保つ。
「どこも矛盾していないんですよ、それが。ホブラック宰相、申し訳ないですがパーティーの目的を言ってくれませんか?」
「ああ、参加者全員と主役を引き合わせる事だ」
胸を張って答えるホブラック宰相。そこ胸を張るところじゃないですから。
しかし、イグルくん的には満足のいく答えだったのか、大きく頷いてから話を続ける。
「つまり、主役が一人だけで舞台に上がる必要はないってことですよ。例え脇に護衛がいたとしても、舞台に上がれば、主役の姿は参加者全員から見える。すなわちパーティーの目的は達成されるでしょう?」
ああ、確かにそうだ。なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
自信満々の言葉には、もはや反論の余地が無い。俺はガックリと項垂れる。
勝負あり。応接間攻防戦の勝者はイグルくん。
この提案は、みんなの意表を突くには十分すぎるくらいインパクトがあったのだろう。
全員が驚き半分、悔しさ半分といった感じでイグルくんを見ている。
簡単な策だったからな。自分で考えつかなかったのが悔しいのだろう。
父上も感心したように呟く。
「考えてみればそうだな。これでこの問題も解決だ……」
「前例がないですからね……。どうやってこんな案を思いついたのです?」
ホブラック宰相がかぶりを振って尋ねる。
質問を受けたイグルくんは、自分の正面に座っている父上を見据えた。
父上には心当たりはないらしく、キョトンとした表情だ。
「以前、僕のお披露目パーティーに来てくださいましたよね?」
「ああ、それがどうした?」
「そのパーティーで国王様が挨拶した時、舞台の上だったのにも関わらず一人ではありませんでした。横にホブラック宰相と騎士みたいな人が立っていましたよね?」
そりゃ、国王なんだからそうなんだろうけど。
それに、その三人は執務室ではセットみたいなもんだからな。
誰がが欠けるときは出張か欠勤かという感じで、大概の時間を三人で過ごしている。
今、近衛騎士団長がいないのも出張が原因だ。
「そうだな。――ってまさか……」
「これですよ。国王様が挨拶をする理由も参加者全員の目に触れるためですから、今回と変わりません。護衛対象が国王か王子かってぐらいしか違わないんじゃないんですか」
「なるほど。国王がそうなら王子もそうしていいのではないかと……」
マリサさんの補足に大きく頷くイグルくん。
解説を聞いてる最中、ふとポケットに違和感を感じて漁ってみると、一枚の紙が出てきた。
お茶会で二人っきりになった時にイグルくんに渡された紙である。
ここは王城だし、読んでもいいか。
そう思って紙を開いて読んでいくうちに、俺の顔から血の気が引いていく。
途中まで読んだが、書いてあることが凄惨過ぎる。
ちょっとしたホラー小説といった感じではなく、もはやスプラッタの域だ。
「ちょっとリレン、顔色が悪くなっているわよ。大丈夫?」
「具合が悪いのなら休んだ方がいいわよ」
母上とアスネお姉さまに心配され、ハッと我に返った。
これはマズイ。
俺だけで読むのはよろしくないし、一応注意喚起をしてから読んでもらおうか。
「皆さん、今から極秘資料を見せます。決して声に出して読まず、会話を続けているふりをしながら黙読してくださいね。あと読むときは覚悟を決めてください」
小さい声でそう忠告してから、テーブルに件の紙を広げていく。
一言で言うと、その紙の内容は殺害計画書だった。
俺が舞台に上がった時、闇魔法で作った毒の矢で射貫いて殺害すると書かれている。
本当に恐ろしい。
その他にも、目撃者への対処や事後処理の手順も書いてあったのだが、描写が生々しく、読んでいるうちに胸糞が悪くなったため途中で読むのを止めた。
みんなが殺害計画書に視線を走らせる。
俺は演技をスタートさせるべく、出来るだけ穏やかな声で話し出した。
「いえいえ、心配には及びません。ちょっと考え事をしていただけですよ」
「そうですか……。ここは蝋燭の光しかありませんもんな。顔色も悪く見えるんでしょう」
ラオン公爵が顔を引きつらせながら言葉を絞り出した。
「ええ。思わず、体調が悪いのかと疑ってしまいましたわ」
アスネお姉さまが強く拳を握りしめながらも穏やかな声を出す。
そのギャップはただただ怖い。
残りの面々は顔を顰めたり、青ざめさせてほぼ全員が椅子の背もたれに体を預けていた。
しばらく無言の時間が流れた後、父上が何とか声を絞り出す。
「イグルくん、あの紙に書かれていたことは本当かい?」
「本当ですよ。二日前にある人物の机の上に置いてあったんです」
「あの人っていうのは誰なの?うちの人たち?」
マリサさんの言葉を聞いた途端、イグルくんが苦しそうな表情で顔を伏せた。
誰が見ても訳ありだと分かる。
しばらくして、意を決したかのような表情をしたイグルくんが、ポツリポツリと話し出す。
「詳しい情報は言えないんだ。そいつは隠しているけど闇魔法の使い手だから」
「ちっ……禁句魔法と監視魔法か。どちらも中級魔法だが、二つならギリギリ扱い切れないこともないからな。破ったら恐らく死だろう」
ホブラック宰相が憎々しげに吐き捨てた。全員の顔にも嫌悪の表情が浮かぶ。
禁句魔法は、禁句が設定されており、対象者が禁句を話した瞬間に制裁を受けるというもの。
監視魔法は盗聴器と発信機を合わせたもので、対象者がどこで何を話したのかが相手に筒抜けになってしまうというものだ。。
どちらも闇魔法の中では惨い魔法と言われており、他国では禁止しているところもある。
グラッザド王国では、残念ながらまだ合法だ。
禁止しなかったことを悔やんでいるのか、父上が歯軋りをしながらイグルくんを見た。
「聞き出そうとするのは止めた方がいいな。どこまでが禁句魔法の範囲か分からん」
「そうですね。イグル殿が死んでしまったらシャレになりませんよ」
アスネお姉さまが怒りに顔を染めていく。
イグルくんに闇魔法を掛けて服従させるなんて許せない、とでも言いたげな表情である。
執務室が重々しい空気に包まれたとき、ジャネがドアをノックしてきた。
「会議中失礼します! 国王様、侵入者が門の警備を突破して城内に乱入しました」
「何だと!? すぐに近衛騎士団の第三隊から第七体までを投入しろ!」
「すでに投入したのですが……第四隊と第六隊が壊滅したと連絡が」
ジャネの言葉に、父上が表情を曇らせた。
門の厳重な警備を突破して、なおかつ近衛騎士団を二隊分も壊滅させるなんてヤバい。
一刻もあればここまで乗り込んできそうだ。
「そして侵入者の要求は一つだけ。“国王とリレン王子を中庭に呼べ”だそうです」
「ふざけているとしか言いようがありませんな」
ラオン公爵がイライラしたように吐き捨てる。
しかし、俺はジャネの言い方に違和感を覚え、まさかとは思いながら尋ねてみる。
「ねえ、もしかして……侵入者って一人なの?」
「はい。侵入者は一人です。一人で門の警備を突破し、近衛騎士団を相手に善戦しているのです」
ジャネの言葉に、この場にいる全員が硬直した。
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