第5話
俺のクラスには、中原瑞希という女の子がいる。
サラサラしている黒髪セミロングで、目はくりっとしている。背は小さくて、華奢で、何というか小動物っぽい感じの女の子。
初めて見た時、ただ可愛い子だなと思った。
けれど他のやつは中原瑞希よりも、双子の姉である中原夏希の方に目がいっているらしい。
俺も男だから、可愛いと言われる女の子は見てみたい。
友達に連れられて姉を見に行ってみると、何というか全然妹とは違った。
瑞希の方はストレートの黒髪セミロングだが、夏希の方は少しだけカールがかかっていてこげ茶のロング。
背丈も夏希の方が少し高いように見えた。
顔も全然似ていない。言われなかったら姉妹だとも思わないだろう。
確かに、これは可愛い。学年1可愛いと言われるのも無理はないだろうと思った。
けれど、何だろう。タイプじゃないからだろうか。それ以上にもそれ以下にも思わなかった。
***
中間考査が終わり、結果が貼り出された。
「おい、和真!お前学年10位って書いてあるぞ!」
「おっ!まじで?」
驚いた。そこそこ頭はいいと自負してはいたが、張り出される程だとは思っていなかった。
これは予想外に嬉しいな。
ふと横を見ると、中原がいた。同じクラスの方の。
「夏希ちゃんすごいねー!3位だって」
…おお、本当だ。3位のところに中原夏希、と書いてあった。すげえな。あいつ頭もよかったんだ。
「瑞希は載ってないの?」
………は?おかしいだろ。何で姉が載っていたら妹も載ってるって思うんだよ。
中原は中原なのに。違う人間なのに。
「まあねー。私は夏希みたいに頭よくないから」
「双子なのにここまで違うとは…」
酷いこと言うなぁ。そう思ったけど、中原は笑って答えて、友達と教室に戻って行った。
何故だろう。その笑顔が頭から暫く離れなかった。
***
その日はたまたま、提出し忘れたノートを届けに職員室に行った。
職員室の近くに誰かいる…。
あれは中原と北山先生、かな。
近づくと話が聞こえてしまった。
「姉の方は今回の中間考査も学年3位だったじゃないか。お前ももうちょっと頑張ったらどうなんだ。双子なんだろう?」
………この間といい、今といい、みんな酷くないか?比べることないのに。
あの時、中原は笑顔で流していたから今回もそうするのかなとか思っていると、中原はその場で下を向いただけだった。
平気なのか?
……いや、肩が、震えて…
それを見た途端、俺の中で何かがプツンと切れた。
気がつくと北山先生と中原の前に立ち
「先生、その言い方はないと思うぜ。中原に謝れよ!」
そう言い出していた。
中原は相当驚いたらしく、潤んだ瞳で俺を見てぽかんとしていた。
結局、謝らせることは出来なかった。
あーくそ、イライラする。
聞くと、北山先生にはたまにああいうことを言われるらしい。
俺だったら絶対キレてるな。
何で中原は怒らないんだろう。言い返さないんだろう。
「言われてるのは全部本当の事だし。私が悪いだけだから、言い返そうと思ったことはないかな」
聞いた途端、気が抜けた。
こいつ、優しすぎやしないか…?
中原は中原だ。気にする必要ないと思う。
そう伝えると、中原は目を丸くした後、少し頬を染めてそれはそれは嬉しそうにありがとう、と言った。
……一瞬思考が飛んだ。
その笑顔は、今まで見たことない程可愛く思えて。鼓動が早くなるのを感じて。
何だ、これ。
中原が去ってからも、暫くそこから動けなかった。