表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HERO  作者: awa
Over and over
46/48

SCENE 46

 火曜は、朝から澄みきった空が広がっていた。

 ランチのあと、スタッフの人数を増やしたグレゴリーが到着した。荷造りはすでに終わっていて、あとはトラックに荷物を積み込むだけだった。

 プロの手際のよさに感心しながら、その光景を眺めていた。そこでやっと実感した。レイシーが引っ越す。

 せっかくだからと、彼らは船旅を選んだ。乗り継ぎの連続だが、三人でゆっくりと話すそうだ。

 エレンはキャシーを抱きしめた。

 「元気でね、キャシー。もうお酒はダメよ」

 彼女は涙目で笑う。「約束するわ、エレン。二度と飲まない」

 「元気で、レイ。レストランの成功、祈ってる」

 「ああ。色々ありがとう、クリス。君たちを見習って、今度こそいい家族になる」

 二人は握手を交わし、ハグをした。

 エレンはレイシーのことも抱きしめた

 「レイシーも元気でね。困ったことがあったらいつでも言って。駆けつけるわ」

 「元気で、レイシー」

 「ええ。ありがとう。キャシー、クリス。元気で」

 「ええ、ありがとう」

 「ジャック、君も元気で。ありがとう」

 「今度レイシーを泣かせたら、その時は殴りに行く」

 ジャックの言葉にレイは笑った。「ああ、覚悟してるよ。」

 今度はキャシーがジャックを抱きしめた。

 「元気でね、ジャック」

 「元気で、キャシー。もっと身体を大事にして。故郷の暮らし、楽しんで」

 「ええ。でも、大変なのよ、雪国って。でもそうね、大変だけど、楽しむわ。ありがとう」

 レイシーが微笑んで彼に声をかける。「ジャック」

 「レイシー。元気で」

 「あなたも。ハグはしないけどね」

 彼は笑った。「うん」

 「番号、消してくれた?」

 「今日の朝。背中を押すって意味で、ね」

 「ありがとう。やっと前に進める。私も、あなたも、パパとママも」

 「うん」

 「──解約するまえ、メールを送ったの」

 「うん?」

 「午前中、私、携帯電話を解約しに行ったでしょ。その前に、メールした」

 「電源おとしてるんですけど。なんて?」

 「言わない。読めばわかる。でも、読んだら消して。背中を押すって意味で」

 「うん、わかった」

 後方で、トラックの荷台を閉めたグレゴリーが声をかけた。「準備できましたよ」

 「行かなきゃ」と、レイシー。

 「元気で、レイシー。幸せになって」

 「あなたもね」

 ジャックとレイシーという組み合わせを除いて六人はそれぞれに最後のハグを交わし、レイシーとキャシーは車の後部座席に乗り込んだ。そのドアを、レイモンドが閉める。

 運転席にまわりこもうとした彼をジャックは呼び止めた。

 「レイ、いいものあげる」

 取り出したポケットから薄いブルーのメッセージカードをレイモンドに渡した。

 「これは?」

 「見ればわかるよ」

 レイモンドは二つ折りになったメッセージカードを開いた。とたん、息を呑んだ口元を手で覆った。

 「あの日、レイシーがクッキーと一緒に渡そうとしたものだ。クッキーは僕が食べたけどね。それは捨てられなくて、ずっと持ってた」

 二度うなずくと、クリスはジャックを抱きしめた。

 「本当にありがとう、ジャック。なにからなにまで──」

 「いいから、行って。元気で」

 「ああ、君もな」

 レイモンドはまたクリスとキャシーにハグをし、運転席に乗り込んだ。先に走り出したトラックのあとに続いて、彼はゆっくりと車を走らせた。後部座席から、レイシーとキャシーはジャックたちに手を振った。

 それを見送りながら、クリスはジャックの肩を抱き、その反対側でエレンが腰に手をまわした。

 「で、あれにはなんて書いてあったの?」エレンがジャックに訊いた。

 「“大好きなパパへ。お仕事おつかれさま。ずっと元気で素敵なパパでいてください。レイシーより”」

 「わお、感動的ね。涙が出ちゃう。で、あなたは私にああいうの、くれないの?」

 「男はそんなことしない」

 「エレンが僕にくれればいいんじゃないか?」クリスが言った。

 「じゃああなたは私にくれるの?」

 「男はそんなことしない」

 「ひどい!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 自宅に向かう車の中、ジャックは携帯電話の電源を入れ、センターに問い合わせた。

 とたん、三十二件のメールが入ってきた。

 ──日曜から、ずっと電源おとしたままだったしな。

 ほとんどは友人からだったが、最新の一通だけは登録されていないアドレスで、すぐにそれがレイシーからのものだとわかった。彼女のアドレスはずっと、“レイシア・フォー・ナイン”だ。

  《ジャックへ。

     あなたは私のヒーローよ。

     今も、これまでも、これからも、ずっと。

     元気でね。あなたの幸せを、雪国から祈ってる。

                         レイシー》 

 思わず、口元がゆるんだ。背中を押すという約束だ──削除、と。

 ジャックは走る車の後部座席から、窓の外の空を見上げた。

 ──雪国に着くまでは、幸せを祈ったりしないってことか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ