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HERO  作者: awa
Over and over
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45/48

SCENE 45

 灰色のスウェットに着替えたジャックは、笑い声のするリビングには顔を出さず、黒いタオルで濡れた髪を拭きながら自室に戻った。

 タオル首にかけて部屋の照明をつけると、冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを取り出し、蓋を開けながらソファに座った。

 ──まずい。

 ペットボトルと蓋をテーブルに置き、写真を飾っているコルクボードを掴むと、急ぎつつもそっと、クローゼットの隙間に入れた。

 扉を閉めると、安堵の息が漏れた。

 改めてシングルソファに座り、スポーツドリンクを飲む。

 ──ちゃんと、話をしなきゃ。

 ソファに背と頭をあずけ、目を閉じた。

 落ち着け。落ち着け。落ち着け。

 ドアがノックされ、開いた。

 「いい?」レイシーだ。髪が濡れている。彼女もシャワーを浴びたらしい。

 「うん」

 ジャックは蓋を閉めたペットボトルをテーブルに置いた。

 「──ずっと、思ってたんだけど」ドアを閉めたレイシーは、照明スイッチの横に備えつけられたホルダーにある照明リモコンを示した。「これ、ここに置いておくものじゃないわよね」

 確かに、とジャックは思った。ライアンはたまに使っているが、自分では使ったことがない。「使わないよ、そんなの」

 レイシーは吐息をつくと、リモコンをホルダーからはずし、三人掛けソファに腰をおろした。

 彼女のリモコン操作で、照明は完全に落とされた。

 「──なんで真っ暗?」ジャックが訊いた。

 「顔を見られたくないから」

 「ああ」名案だ。

 「とりあえず、報告します」

 事務的だ。「はい」

 「ゲイルは、カウンセラーなんですって」

 彼はぽかんとした。「うん?」

 「私の反応を見るために試したらしいの」

 子供か。「じゃあ、なんの障害もなかったわけだ」

 「そうね。パパとママがちゃんと話し合ってれば、こんなことにはならなかった」

 ──三年間。それを考え、思わず顔が引きつる。「まあ、よかったよ」

 「うん。ありがとう」

 「なにもしてない」なにも見えない。

 「パパに聞いたの。あなたが会いに来てくれて、色々話してくれたって。何度もあやまられちゃった」

 言わなくていいことを。「うん」

 「──なんか、夢みたい──だよね」レイシーが苦笑って言った。「今日一日で色々ありすぎて、なにが起きてるのかよくわからない」

 「うん。僕も」色々と、急展開。

 「──遠い、よね」

 「うん、遠い」

 「もう、会えないね」

 「会おうと思えば会えるよ」

 「もう、会わない」

 ──また、心臓が大きな音をたてる。

 「あなたはここで幸せになるの。私はリトル・バレルで幸せになる」

 「──うん」

 「彼女と幸せになってね」

 「つきあってない」

 「手をつないでたのに?」

 「はぐれないように」

 「そう。──でも彼女、あなたのこと好きよ」

 なにを言いだす。「なにを根拠に」

 「顔が真っ赤だったから」

 「意味がわからない」

 「女の勘」

 いや、もっと意味がわからない。「勘なんて──」

 「あなたを好きになった女同士のシンパシー」

 ──胸に激痛が。

 「ねえ」レイシーが切りだした。

 「ん」

 「告白してね」

 「どうかな」

 「幸せになるって約束して」

 「君が約束するなら」

 「そうね。あなたより素敵な人はなかなか見つからないかもしれないけど、ライアンより素敵な人なら、何人かはいると思うから」

 「──なんでライアン?」

 「手が早いから」

 「いい奴だよ」

 彼女が吐息をつく。

 「──まあ、どこかの誰かさんは、真面目すぎだと思うけど」

 なんかすごいこと言いだした。「なにを──」

 「違う。そういうのじゃなくて。──唇にキスくらいは、してくれてもよかったと思うんだけど」

 ──見逃してたのか。

 「そこがあなたのいいところでもあるんだけど」

 ジャックは小さく深呼吸をした。

 「──なんか、ごめん。いろいろ」

 「あやまらないでよ。悪いことじゃないんだから」

 「うん」

 「火曜日まで、友達でいてね」

 「そのあとも」

 「今持ってる携帯電話は解約するわ。あなたの番号は移さない。だから、あなたも消して」

 「極端だな」

 「背中を押してよ、ジャック」

 ──背中、を。

 「ママたちからは連絡がいくかもしれないけど──私はしない。火曜日、私たちは一度、すべてを白紙に戻すの。次に会うときは、ただの懐かしい友達」

 ──白紙、に。

 「おやすみ、ジャック。いい夢をみてね」

 そう言って、レイシーは部屋を出た。

 自室のドアが閉まると、すぐに隣のゲストルームのドアが閉まる音がした。

 ジャックは膝をかかえ、込み上げるものを押し戻した。じきにベッドにもぐり込み、眠った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 日曜日、リビングに行くと、すでにみんな起きていた。

 レイシーはキャシーと二人でキッチンに立ち、朝食の準備をしていた。懐かしい光景だった。

 その後、六人で再びレイシーの家に行き、荷造りをした。

 レイシーは何事もなかったかのようにジャックに笑いかけ、話をした。別れ話に触れることさえなかった。照れることも、怒ることも、あやまることも、泣くこともしなかった。最初につきあう前の、友達だった頃に戻ったようだった。

 月曜も同じような感じだった。クリスは仕事に、レイシーとキャシーは学校と会社に行ったが、二時間ほどで帰ってきた。クリスの知り合いのグレゴリーが数人のスタッフを連れて駆けつけ、めまぐるしいスピードで荷造りを手伝った。

 ジャックはどうにか動いていたが、まだ思考が追いつかなかった。

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