SCENE 33
ジェニーを避けるということは、レナを避けるということでもあった。彼女は違和感を感じたらしく、昼にメールを送ってきた。考え事をしているのと忙しいのとで、とジャックは返した。嘘ではない。
学校では何事もないかのように振る舞い、できるだけ教室を出ず、彼女たちの教室がある校舎にも行かないようにした。幸いあちらの校舎には、普段の授業で使うような特別教室がない。
やはり違和感があるらしく、ライアンもふいに、なにか訊きたそうな顔をする。だがジャックに話す気がない時はなにを言っても無駄だとわかっているので、無理に問い詰めたりはしないのだが。
月曜にレナから聞いたらしく、ジェニーのパーティーには参加するんだろと言われたが、ジャックは言葉を濁すしかなかった。ひとまず今日、レイモンドの話を聞いて、それが終わったら仕事が休みだろう土曜にキャシーのところに行き、彼女にも話を聞くつもりだからだ。できれば土曜の朝から行って、パーティーに途中参加できればとは思っていたが──そううまくいくとは限らない。今はなんとも言えない。
放課後、ジャックはまたもマイキー・シューズに足を踏み入れた。マイクはもはやお馴染みと言えるしかめっつらで出迎えてくれる。
ジャックはライアンへの靴を探しながらマイクに質問した。
「子供は?」
彼はカウンターの向こうで電卓を叩いている。「おらん」
だからジェニーを娘のように可愛がるわけだ。「ジェニーへのプレゼントは用意しました?」
「今してる」
無視はされなくなったが、相変わらず冷たい。「見せてもらっても?」
「お断りだ」即答だった。
だがいちいち反応したりはしない。「彼女の名前を入れるとか?」
「高校生だぞ」
「ああ、間違えた。イニシャルだ」
電卓を叩く手を止めると、マイクはジャックへと視線をうつした。
「なに言われても売らん」
反応したような気がした。「僕が破産する前に売ってもらえると助かるんだけど」
そう言いながら、ジャックは棚からオレンジ色のタグがついたカーキ色の靴を手に取った。カウンターへと向かう。
「親の金だろ」
「まあそうだけど。でも彼女の靴を買うお金は自分でバイトして稼いだものですよ」
「なんのバイトだ?」
めずらしく喰いついた。靴をカウンターに置く。
「CDショップ。叔父の店で」
マイクは鼻で笑った。
「コネじゃねえか」
「でもちゃんと働いた。客に笑顔を振りまいたおかげで、二週間で一ヶ月分の売り上げを記録」
彼は眉を上げた。またも反応あり。話の内容は少々盛ってある。というか、売上が上がったということ以外正確には知らない。
「今度はここでバイトしましょうか。あの靴を売ってくれたら、一週間は無給で」
「お断りだ」
提案にそう即答すると、マイクは靴を持って店の奥へと引っ込んだ。
手ごわい。実はそろそろ売ってもらえるのではないかと思っていたのに。
カウンターに両腕を乗せ、ジャックはまたも壁に立てかけられたコルクボードを眺めた。小学生の時、ジェニーはどんな子供だったのだろう。どんな子供だったとしても、可愛かったに違いないが。
奥から戻ってくると、マイキーは白い箱を紙袋に入れはじめた。
「今度は誰にだ?」
「親友に」
「誕生日か?」
「いいえ」
「じゃあなんの記念だ?」
「友情」
ジャックは微笑んで言ったが、彼はぽかんとした。
「靴を買うのに記念日とか関係ないでしょう。友達になにかあげるのに、記念日なんてのも必要ない。まああえて言うなら、交渉失敗四日目記念かな。その親友には関係ないけど」
「お前、俺を説得するために毎日靴を買ってるわけか?」
気づいていなかったのか。「それもあります。でも、両親への靴は別の理由も兼ねてる」
「別の理由?」
また喰いついた。興味の基準がよくわからないな。「別の交渉を」
「結果は?」
「おかげさまで」
ジャックが微笑むと、彼は口元を緩める代わりに眉を上げた。
もう嫌われてはいないか。「じゃあ、今日はこれで」言いながら、カウンターの上に置かれた紙袋に手をかける。「また明日」
後方で彼の溜め息が聞こえたが、かまわず店を出た。
こちらはやっと一歩というところか。
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数時間後、ジャックは帰ってきた両親と共にレイモンドが経営するレストランに向かうため、車に乗り込んだ。
「ジャック、金曜の夜、急な出張が入ったの」走る車の中、助手席からエレンが言った。
「急な出張じゃなくて、君が忘れてたんだよ」
運転するクリスの訂正に、彼女は天を仰いだ。
「違う。あなたの優秀な秘書が私のデスクのメモ書きの上に書類やらなんやらを置いてってくれたから、そのメモ書きが見えなくなってたのよ」
ジャックは口をはさんだ。「どっちでもいいよ。泊まり?」
「ええ。インセンス・リバーまでね。高速でも二時間はかかるかしら」
クリスが補足する。「そんなものだな。帰りは早ければ昼、遅ければ夕方になる」
ということは、土曜にキャシーに会うことはほぼ不可能ということだ。
身体をひねり、エレンが後部座席にいるジャックに言う。
「そんな顔しないで。仕事の上がりしだいでは、夜にでもキャシーのところに行きましょう。それが無理でも、日曜には絶対。ね?」
ジャックは控えめに微笑んでうなずいた。
キャシーに会えないのなら、パーティーには行くべきではないのかもしれない。




