2、1000万
冷や汗がしとしとと流れてきた。
黒服の男は、冷酷な目つきで信秀を見つめた。
「貴様・・誰だ?」
おもわず目をそらしてしまった。
呼吸のスピードが速くなり、気づけば口で息をしていた。
「お・・れ・・は・・・・」
言いかけたときだった。
「2!終わったか?」
奥のほうから小太りの男が歩いてくる。
その男も黒服を着ていた。
この2人の男たちは、なんらかの仲間らしい。
「誰だそいつ?」
「知らん。こいつの処理は俺がする。3と4連れて先に行け。」
「・・OK。」
小太りの男は再び奥のほうへ消えた。
「貴様、ここで働いていたのか?」
黒服の男の声のトーンは実に不思議だった。
妙に不気味で影を帯びている。
「働いて・・た・・・てか・・・・今日から・・だけど・・・。」
声が震えて、自分でも今、自分が何を言っているのかわからなかった。
「俺たちを追っていたのではないと・・?」
「そ・・・そんなぁ・・・めっそうも・・・・・なぃ・・・。」
黒服の男は黙って銃を首元から退けた。
そのときおもわず、信秀は尻をついた。
「悪意はないとしても、こんなもの見られてしまっては
貴様を何らかの形で処理しなければならない。」
黒服の男は再び銃口を、信秀ののどにあてた。
「うぅ・・ま・・て・・・・しにたくないぃぃ・・・。」
恐怖のあまり、涙が流れた。
そして、ふと、こんな一言を言った。
「あんた・・・たちに・・きょ・・きょ・・りょく・・・するか・・ら」
「協力?」
信秀はただ死にたくなかった。
「あぁ・・・今回の事件も・・俺は何も言わないし・・」
「協力・・・」
黒服の男は銃を信秀に渡した。
そして、
「貴様、殺人者になる覚悟はあるか?」
「殺人者?」
「そうだ。さっきの男も俺と同じ殺人者だ。」
「・・・なんで・・こんなこと・・・」
「理由?簡単だよ。金のためさ。」
「金?」
「今回俺はある人間から依頼を受けた。「イタリア料理店 「プリン」の
店長、犬井克俊を殺害してくれ」ってな。俺たちはいつもこんな依頼を受けては
任務を遂行している。なぜなら、もらう金の値段が莫大だからだ・・。」
黒服の男は不気味に笑いながら言った。
「一人につき、1000万・・・。」
「1000万・・・?」
「そう。俺たちは金のためなら何でもやる最低のゲスヤローなんだよ。」
この時、信秀はあることに気づいた。
今朝、ネットの掲示板で見た馬鹿馬鹿しいスレッド。
「おーいみんな!自給1000万のバイト発見したぞーwww」
おそらくあのスレッドの内容は、この男たちの事を言っていたに違いない。
とすれば、あのスレッドをたてた人間は、この黒服の男たちの存在を
知っていることになる。内部のものなのか、たまたま見かけたものなのか。
「一つ、いい情報がある。」
「ふん・・なぜお前が情報を持ってる・・・・言ってみろ。」
信秀はスレッドの内容を伝えた。
すると黒服の男は不気味に笑い出した。
「くっくっくっ・・・。」
「心当たりが・・?」
「あぁ・・先日うちを抜けた奴がいるんだが・・おそらく・・・。」
これが、殺人をこなした人間の姿だ。
到底この男の考えていることは理解できそうになかった。
「貴様、俺たちに協力するのであれば、俺らのところへ来い。」
「え・・・」
「貴様も今日から殺人者だ。」
「な・・・・」
「元ナンバー9・・・内田清 24歳 フリーター。」
「まさか・・。」
「貴様の獲物だ。今日の24時までに、首を斬ってこい。」
そう言いながら、黒服の男は奥へと歩いていった。