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呂布伝(いや、貂蝉伝やないかい)  作者: マぬけのキンタ


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1/2

水攻めの夜、動くのは知略ではなく涙

人は一言で人生が変わる。

だが、ある男の“勇気ある一言”は――

一人の美女の魔性を覚醒させ、歴史をひっくり返した。


これは、貂蝉が静かに目を覚まし、

呂布軍と三国志そのものを動かし始める物語。

西暦198年冬、下邳城。 曹操軍の包囲で、明日にも水没する絶望の夜。

貂蝉の部屋を、目の下にクマを作った陳宮が訪れた。

「……夜分にすまぬ、貂蝉殿。不躾な訪問を許してくれ」

「まあ陳宮様。このような夜更けに、女子の部屋へ何の御用で?」

陳宮は、怒りと焦りで震えていた。

「聞いてくれ! 曹操の包囲を破るため、私が命を削って編み出した至高の計略『掎角の勢』を提案したのだ! 私が城を守り、将軍が外から挟み撃ちにする――これしか勝機はないと!」

だが呂布は、正妻の厳氏に泣かれた途端、

『うむ、一理ある。出陣はやめだ!』

と言い放ったのだ。

陳宮は叫ぶ。

「なぜだ! なぜあの男は、妻の涙一滴で戦略を捨てるのだ!!」

貂蝉は、呂布を悪く言われると殺気を放つ。

「陳宮様。将軍様を“筋肉ダルマ”と呼ぶのは、私だけにしてくださる?」

「ひっ……!? す、すまぬ……!」

陳宮はついに頭を下げた。

「頼む、貂蝉殿。呂布様を動かせるのは、もう貴女しかいない。 あの男は正論では動かん。だが美女の涙には驚くほど弱い!」

その瞬間、貂蝉の“天然の仮面”が外れた。

「……一つ、確認させて」

声色が変わった。 空気が変わった。 部屋の温度すら変わった気がした。

「呂布様は戦えば最強。でも政治のセンスは皆無。 放っておけば、また誰かに騙されて囲まれて終わるわ」

陳宮は息を呑む。

(……この娘……天然ではない……?)

貂蝉は静かに宣言した。

「呂布様は――私が名君にしてあげる。 あなたは名軍師として後世に名を残せばいいの」

陳宮の脳裏に、洛陽で聞いた噂が蘇る。

――董卓を滅ぼした影に、一人の女がいた。

(……まさか……この女……!)

貂蝉は涙を作り、呂布の寝室へ向かった。

■ 呂布の寝所

呂布は寝巻きのまま、赤兎馬とチャーハンの夢を見ていた。

「むにゃむにゃ……赤兎馬、そこは俺のチャーハンだ……」

貂蝉は完璧な泣き声を作り、そっと呂布の手を握る。

「将軍様ぁ……悲しゅうございます……」

「んあ!? ど、どうした貂蝉!?」

貂蝉は涙をこぼしながら訴える。

「将軍様が城に閉じこもるなんて……曹操が喜びますわ……」

呂布の眉がピクッと動く。

「曹操が……喜ぶ……?」

「はい。曹操は知っているのです。 『呂布将軍が外へ出たら、我々は一瞬で消し飛ばされる』と。 だから祈っているのです。 “どうか呂布が城に引きこもっていますように”って」

呂布の脳内で何かが爆発した。

「な、なんだと……!? 曹操め……俺を恐れているのか……!」

貂蝉はさらに畳みかける。

「陳宮殿の『掎角の勢』は、天が将軍様に授けた舞台です。 民たちに、名君の雄姿を見せつけるのです!」

呂布の目がキラキラ輝き始めた。

「名君……俺が……?」

「ええ。 世界一強くて、世界一優しくて、世界一カッコいい名君・呂布様ですわ」

呂布は完全に覚醒した。

「うおおおおおーーーっ!! 陳宮ーーーっ! 鎧を持ってこい! 今すぐ出陣だーーー!!」

廊下で聞いていた陳宮はガッツポーズしつつ震える。

(……貂蝉殿……やはり怪物……!)

こうして、 “天然に見える怪物”と“名軍師扱いの胃痛おじさん” による影の二頭政治が幕を開けた。

(第1話・了)


作品の裏話や、貂蝉の魔性が暴走した理由などは

X(@manukenokinta)でぽつぽつ流しています。

気が向いたら覗いてみてください。

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