210話 魔法が使えない俺と終結
闇を裂き、パルスの中にある権能を破壊する。
彼女から出ていた黒い魔力は散りとなり、跡形もなく消えた。
「ふぅ、終わったー」
俺が独り言を呟くと、そっとシーンがこちらに近づいて、パルスの様子を見守る。
「お前は、何をしたんだ」
「え?うーん、ざっくり言うと魔王の力を消したってところ?」
「そんなことが、可能なのか・・・?」
信じられねえって顔をしつつも、それを無理やり飲み込む。
そして、自分の妹の元へと歩いていく。
パルスはその場に立ち尽くしたまま目を閉じ、まるで死人のようにピクリとも動かない。
殺してねえよな?
「ぱ・・・パルス・・・?」
シーンは彼女の両肩に手を置き、少し揺さぶる。
「い、生きてる・・・よな?」
・・・
「すぅ」
静寂の中で、空気を吸う音が聞こえた。
「パルス!」
彼の声に呼応するかのように、瞼に力が入りゆっくりと瞳が開かれる。
「パルスか・・・?」
目が完全に開き切り、じーっと彼を見続ける。
「おにい・・・ちゃん」
抱擁。
兄の言葉を呼ばれ、小さな体を強く抱きしめる。
何年もの時間を待たせた兄からの熱い抱擁は、彼女への贖罪に加え、兄妹の絆を再確認させるような、そんな光景だった。
まあ、戻ってよかったよね。
「ウチは、とんでもない事をした。おとうさんも、お母さんも、人も、街も・・・」
「今はいい。今はいいから、あとでゆっくり話をしよう」
2人の身体が震えている。
多分これは、平行線が交わったことの証なんだろうね。
やー!とりあえずなんとかなってよかったわー!
色々とやる事は山積みだけどね。
さて、これから・・・
「だぐやざぁん!、よがっだでずねぇ!!」
「ゔばぁ゛ぁ゛よ゛がっ゛だよ゛ぉ゛!!!!」
「わーい!よかったのですー!」
アンジェとミュラは号泣して、ニナはぴょんぴょん飛び跳ねてる。
感情移入してるんだなぁ。
いや、感動的なんだけどね。
なんというか、これ見て泣くのが恥ずかしいと言うかなんと言うか。
それよりも、違うことに引っ掛かりがあるんだよな。
のわ!3人で乗っかかってくんな!!
「ゔぁぁぁぁあ!!!」
「わ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ん゛」
「ご主人様の服、濡れて気持ち悪いのです」
やめろ!服に鼻水つけんな!
まじでやめろ!!!
◇◆◇
さてと。
ひと通り落ち着いたみたいだし、これからどうするかって感じ。
「結局街の人は、ここにいるのと村にいる人たちだけ?」
「うん・・・、ウチが賢者の石に変えたり・・・あと・・・」
「いや!いい!悪い!・・・とりあえずここにいる人達を村に連れてがないとな」
いやー、なんか今は下手な事パルスに言えないよなぁ。
悪いっちゃ悪いんだけど、そもそも魔王配下の権能のせいだし、一概にパルスが悪いとも言いづらい。
あの過去も他言したくないし。
「それなら俺に任せろ。ワン太郎!」
シーンがなんとか出来るらしい。
「ワン!」とか言って、どこからか出てきた犬。
今までどこに居たんだろう。
「ワン太郎さんがどうしたんですか?」
「なんか特殊能力でもあるのかな?」
アンジェ達が見守る中、シーンは徐ろに字がびっしり書かれた魔法陣を展開。
そして、ワン太郎の体に触れると・・・え?
犬がドンドンでかくなってくんだけど!?
3メートルか、4メートルくらいじゃない!?
てか、こんなんなれるなら、戦闘に参加させてもよかったじゃん・・・
「わー!おっきいのです!!」
「錬金術って、便利ですねぇ」
「それだけではない」
え?周りの瓦礫が集まってって、それが合体してって・・・
馬車の荷台になった!?
錬金術ってマジで便利じゃん!!
「これに乗せて、ワン太郎に引いてもらう。いいなワン太郎?」
「ワオン!!!!」と先ほどのちっさい犬だったころの面影は何処へやら、町中が震えるほどの雄たけびを上げている。
理解が追い付かねえよ・・・
そしたら、倒れてる人たちを荷台に積んでっと。
・・・よし、これでオッケーだな。
「これで準備完了ですね!」
「さて、私達も乗ろっか!」
アンジェとミュラが先に荷台に乗り、あとから俺とニナが乗ろうとした時。
「ん、パルスは乗らないのですか?」
ニナが気付く。
パルスがその場から動く素振りを見せずに、ただそこに突っ立ってる。
あー、まあ確かに行きにくいよなあ。
本人的にはどの面下げてって感じだろうし。
「ウチ、行きたくない。ここに残る」
「何を言ってるんだパルス」
「だって、町をこんなんにしたのに、戻るなんて・・・」
確かに気持ちは分かるけどね。
でも、これじゃ何も変わらないし、一言伝えとかないとな。
「なあ、パルスは本当に申し訳ないって思ってる?」
「あ、当たり前でしょ!」
「じゃあ、まずは謝らないといけないよね」
人として当たり前のことを伝える。
まあ実際、やったことがやったことだし、しかも過去の環境が劣悪だっただけあって、謝るべきはあっち側なんだけどね。
「でも、皆絶対許してくれないし、ウチの事なんて」
「そんなの話してみなくちゃ分からないじゃん。きっかけは環境のせいだし、パルスだけが悪いとは言わないけど、それも全部含めて話さないと、何も解決しないんじゃないの?」
「・・・」
黙っちゃったよ。
俺が言うのって、どの口がって話ではあるんだけどね。
するとシーンがパルスに近づいて、諭すように話す。
「俺は何があってももうお前を手放さない。罵声を浴びせられようと、石を投げられようと、俺はお前の味方だ。だから、まずは何がどうなのかをみんなと話さないか?もしそれでお前が断罪されるのなら、俺も一緒に罰を受ける」
「・・・そんな!お兄ちゃん!」
アイツはアイツで、相当責任感じてるっぽいよなあ。
シーンが出ていかなければ、こんなことにはならなかったかもしれないって後悔もあるんだろうし。
「・・・分かった。ウチ、行く。ちゃんと話すから」
「パルス!」
また抱擁。
うーん、感動的なのは分かるんだけど、そろそろ胃もたれ起こしそうなんだよなあ。
これって俺が冷血なのかなぁ。
いや、仕方ないんだよ?仕方ないんだけど・・・うーん、なんだかなあ。
「だぐやざぁん!!」
「ゔわ”ぁ”ぁ”ぁ”!い”い”ばな゛じだな”あ”!!」
ああ、また泣いてるよ。
泣くところなんだろうなあ多分。
「ご主人様、良かったのですね」
「そうだね。俺の出る幕じゃなかったのかも」
「ご主人様はもう少し、人の事を考えた方がいいのです」
「え、ニナが言う?」
何はともあれ、これで村に戻れるね。
さて、俺も荷台に乗ってゆっくりしようかなあ。
・・・あれ、俺らの本来の目的ってなんだっけ?




