190話 魔法が使えない俺といらない客人
「目が覚めたか」
「・・・うん」
「俺の勝ちだ」
「・・・私の負け」
相変わらず、単語のみのコミュニケーション。
魔王配下の権能を破壊して普通に戻ったはずだけど、見た感じあまり対して変わらない様に見える。
「俺の能力で、ティニーの中の権能を破壊したよ。これでもう、お前は魔王の配下じゃない」
「・・・そう」
俺が戦っている時に見た、あの情景が本当にティニーのものなのだとしたら、ちょっと可哀想かも。
成り行きとはいえ、誰かに助けられて配下になった事で、今まで生きてこれたのも事実。
じゃあこれからどうするかってのも、酷な話だよなぁ。
「どうするんだ?またティニーは、魔王の配下になるのか?」
「・・・ならない」
意外にも、彼女は戻る事を望んでいないらしい。
「・・・もう、悪い事したくない」
性格面はまるで変わってないと思ってたけど、あながちそうでもないらしい。
権能を断ち切られた彼女の性格は、すぐに人を殺めようとする性格なとではない、優しい人物なのだと直感で感じるね。
「それじゃあ・・・」
俺が口を開こうとしたその時
「困りましたね」
「!?」
聞き覚えのある、シワ枯れた声が後方から聞こえてくる。
全く気配を感じなかったあたり、おおよそ誰か予想はつく。
俺は後ろに振り返り、やつの名前を呼ぶ。
「幹部の・・・マイフだったか?」
「おや、覚えていてくれたのですか。光栄です」
心臓当たりに手を当て、30度のお辞儀をしてくるあいつは、魔王幹部の1人、マイフ。
俺がミシアと戦った時と、キルスティンで現れた黒のシルクハットを被り、黒のスーツを着た老人だ。
「折角あの時助けてあげたというのに、まさかこんな事になってしまうとは。いやはや見積もりが甘すぎましたね」
「そんな事どうでもよくて、何しにきたの?大会は終わったよ?」
「ハハッ、ご冗談を。ゴミ共の催しに参加する意味が分かりません」
「そのゴミの大会に仲間を参加させるの、恥ずかしくない?」
若干空気がピリつく。
客席の奴らも困惑の声を漏らしつつ、今起こっている現状を理解するのに必死なご様子。
んで?こいつ何しにきたんだ?
「もう仲間ではありませんが・・・。なに、彼女がどうなっているか気になって、見にきただけですよ」
「へー過保護じゃん。んで?」
「はい、作戦は見事に大失敗ですよ。誠に遺憾ですが。この会場にいる奴ら全員皆殺しにしたい気分です」
このじーさんが言ってることは割と本気だ。
肌が痺れる様な殺気が、あいつから嫌でも伝わってくるね。
「皆殺しとか言って、そんな力あるんなら無理矢理にでも、魔剣を奪ったら良かったじゃん」
「あなただけならまだしも、私1人の力でランベルム、ヴォルゼアス、カバネ、フィラに加えて、ここにいる冒険者や騎士諸々と戦うほど、私も愚かではありませんよ」
「ふーん。じゃあ、失敗したついでにここで倒されてくんない?」
「ハハハ!全く笑わせないでください」
任務が失敗に終わったってのに、何でこのじーさんは嬉しそうなんだ?
気でも狂ってんのか?
それとも魔剣なんかどうでも良かったとか?
いやいや、あの魔剣が魔王のモノで、あいつの完全復活が近くなるってことなら、死に物狂いで取りに来るよな?
それなのにこの態度?うーん、分からん。
・・・もしかして、別の思惑があるんじゃ?
「なあ、お前らの目的は魔剣じゃねえのか?」
「・・・ふむ、まあ魔剣の方は、手に入ればそれに越したことはありません」
「じゃあ、別の狙いが・・・」
「ティニー、分かってますね?」
マイフはティニーに顔を向ける。
彼女はビクッと肩を震わせたかと思うと、ゆっくりとポケットに手を入れる。
そして、彼女はあるものを取り出した。
「よく持ってきてくれましたね」
「・・・おい、これって」
ティニーが取り出したのは、『転移型魔力結晶』と『龍眼玉』だった。
え、それって今、研究材料としてロビが持ってて・・・
・・・ロビはどうなった!?
「おい、ティニー。ロビはどうした?」
「・・・眠ってるだけ。死んでない」
死んではいないの言葉で、少し気持ちが軽くなる。
だけどこいつ、いつ騎士団本部に潜り込んだんだ?
「この時期、騎士団本部は少々手薄ですからね。いくら巡回しているとはいえ、少し気が緩みすぎではないですか?」
「・・・マジかよ」
わーそういう事かよ。
大会で本部が多少手薄になってることを見計らって、盗んだってか?
警備ガバガバすぎだろ、平和ボケしてんじゃないの?
しっかし、何でこの2つを欲しがってるんだ?
確か、ワープが使えるとかそうでないとか、そんな奴だったよな?
ワープなんてのは、実際イジャが使えるわけだし、現に今だって急にじーさんが現れたんだから、必要ないと思うけど。
「そんなもん集めてどうする気だよ」
「教えると思いますか?・・・まあ、少しだけ教えてあげるとすれば、全てがそろった時が潮時、とだけ。・・・さあティニー、それを渡しなさい。渡した暁には、あなたを自由にして差し上げましょう」
全てがそろった時?何言ってんだ?
彼女を見る、ティニーは震えていた。
多分、自分の中で葛藤があるんだろうね。
これを渡したら世界がやばいことになるかもしれない。
かといって、相手は自分の命を救ってくれた相手。
中々酷な決断だと思うよ?
彼女は身体を震わせたまま、その場で固まってる。
その態度が気に入らないのか、マイフは「はぁ」とため息を漏らす。
「忘れましたか?あなたを助けたのは私ですよ?いわば命の恩人。そんな相手を無碍にするほど、あなたの性根は腐っているのですか?」
「恩着せがましいぞジジイ。やって貰っといて、その態度もどうかと思うけど?」
「あなたは本当に、神経を逆撫でする言葉がお得意ですね」
「そりゃどーも。・・・ティニー、渡す必要ないぞ。もしそれを渡したところで、あいつが約束を守るとは限らない」
ティニーは手に持っている2つの無機物を見つめたまま、すくっと立ち上がる。
まさか、渡す気か?
・・・いやーそっか。
結局助けた相手に靡くのはしょうがないよな。
なら、ここでティニーからそれをぶんどって、マイフと戦闘に入るしかないかもね。
「・・・ぁ」
彼女は口を小さく開く。
「・・・ない」
「・・・はて?なんと仰いましたか?」
「・・・渡さない」




