18話 最後に痛烈な一言を
「しかし陛下。わたくしは今回のことを罪に問いませんが、ただひとつ、お約束して頂きたいことがあります」
「なんだ? なんでも言ってくれ」
うつむいていた顔を上げ、陛下が私を見つめる。オーエン様は私を援護したいのか手を差し伸べようとしたが、私はそんな彼を素通りし、陛下と元父親である侯爵の前に立った。
きっと後ろのシモン様が怖いのね。二人は私が近づくと少し警戒した表情で、チラリと背後を見た。
(きっとこれから私が言うことは、彼らの癇に障るでしょうね。以前は怒らせるのが怖かったのに、今はそれが楽しみになるなんて。私も立派な悪女になってるわ……)
「陛下、侯爵、オーエン殿下、シャルロット。わたくしが皆さんに約束してほしいこと。それは――」
ぐるりと部屋を見回し、その場にいる全員の顔を見つめた。私の大げさな立ち居振る舞いに陛下と侯爵は眉をしかめ、殿下とシャルロットはポカンとした顔で見ている。
私はそんな身勝手で人の気持ちがわからない人達を前に、にっこり笑って宣言した。
「もう二度と、わたくしの前に顔を見せないでほしいのです」
「な、なに!」
わざと無礼な言葉を使った。私が失礼で怒らせることを言えば言うほど、彼らは自尊心が邪魔して会いに来られないだろう。
――たとえ、私の助けが必要な時が来ても
狙い通り、陛下と侯爵は苦虫を噛み潰したような顔で私を睨んでいる。元父親なんて顔を真っ赤にして、ぶるぶると体を震わせていた。
文句を言いたいのだろうけど、私は今や大国カリエントの第一王子の婚約者。しかも弱みを握られているのだ。二人はぐっとこらえた表情で、握った拳を震わせていた。
「……わかった。そうしよう。カリエントとの国交はあるが、まだ私もそちらの国王も若い。君たち夫婦に会うこともなかろう。安心してくれ」
ようやく口を開いた陛下の顔は、言葉とは裏腹に私への憎しみでいっぱいだった。だけどここで終わらせるわけにはいかない。私はさらに煽るように、陛下に話しかける。
「そうですね。もしわたくしが去った後に何かあっても、聖女として助けを求める事などしないでくださいね」
ふふっと笑ってそう言うと、陛下のこめかみがピクピクと動き唇が歪んだ。そしてギリリと歯がきしむ音が聞こえたあと、陛下は笑い始める。
「はっはっは! スカーレットは冗談がうまいな! 君一人がいなくなったくらいで、この国に不幸など起こらんよ。心配せずにカリエント国で幸せになってくれ」
陛下の空笑いが部屋に響き、侯爵も私の言葉を馬鹿にするように笑う。二人にとって私にしたことなど、罪とも思っていないのだろう。顔を見合わせニタニタとにやけている。
(彼らにとっても私に会わないですむなら、そのほうが好都合ですものね)
反対にオーエン様は青白い顔でうつむいていた。隣にいるシャルロットの表情は読めない。どこか上の空のようなソワソワした様子だ。
「スカーレット、行こうか」
シモン様の手が腰にまわり、私はにっこりと微笑む。そして仕上げだという気持ちで、陛下に最後の言葉を言った。
「もしわたくしの聖女の力を求める時は、今回のことを民衆の見守るなかで公にしますわ。そして、私の前に跪き、許しを請うてくださいませ」
私の言葉に陛下の怒りも最高潮になったようだ。スッと冷たい瞳になり、ピリピリとした威圧感を肌に感じる。それでも私はひるむわけにはいかない。私はじっと見つめ返し、陛下の返答を待った。
「……ああ、わかった。誇り高き聖女スカーレットよ。この国は何十年も災害にも遭わない恵まれた土地だ。君の聖女の力は不要だ。これからはカリエントで毎日祈るといい。きっとあちらの国民も災害に遭わず平和になるだろうよ」
カリエント国では毎年、嵐が訪れている。昔ほどではないが去年も家が壊れるなどの被害があったはず。国民を大事に思っているシモン様にとっては、今の発言は腹立たしいものだったろう。
それでも彼は眉一つ動かさず、にこやかな表情で一礼した。
「ではわたし達はこれで」
「ああ、カリエントまでの道中、お気をつけください。シモン殿下」
緊迫した話し合いが終わる気配に、ずっと黙っていたシャルロットがほうっと息を吐いた。シモン様はその姿を横目でとらえ、思い出したように振り返る。
「おっとそうだった! オーエン殿下にも忠告があったのです」
「な、なんでしょう?」
突然話をふられたオーエン様は、椅子から腰を浮かす。シモン様はオーエン様に近づくと、その場にいる皆に聞こえるように話し出した。
「君の婚約者のシャルロット嬢のことです」
「え? シャルロットですか? 彼女がなにか……?」
シャルロットは突然自分の名を呼ばれ、ビクリと肩を震わせた。オーエン様は怪訝そうな表情で、二人を交互に見ているがわけがわからないらしい。シモン様はそんな二人を残念そうな顔で見たあと、オーエン様の肩にポンと手を置いた。
「彼女が夜の相手をしていたのは、君だけじゃない。王族ならばしっかりと調査しておくべきだよ」
「な、なんだと!」
いっせいに、皆の注目が妹のシャルロットに集まる。当の本人は椅子から立ち上がると、すぐさまオーエン様にすがりついた。




