彼と彼女のティータイム①
パイが好き。
あちらの世界にいた頃、自分でうまく作れないし、普通に買うには食パンよりも高くつく。だからあまり食べる機会がなかった。
でも今は違う。
ハイノがお土産と言って買ってきてくれる。
最近は、仕事が早く終わると買ってきてくれる、シナモンが少なめでそのかわりにりんごの香りと甘味がたっぷりと感じれるあのパイが一番のお気に入り。
それを紅茶と一緒に飲みながら、ハイノと色んな話をするのが好き。
他愛もない話なんだけど、そんなことしてる時間が愛おしい。
そんな私の目の前にあるのは、いつも飲んでる紅茶と、いつもはないレモンタルトとこの国の皇子様という。
ことの発端は数時間前。
宝石ではないけれど、とても価値があるのだという石を手に持ちじっくりと眺めていたハイノ。
そんな彼の横に座って私は本を読んでいた。
こちらの世界に来てから、落ち人の異能の一環として、どの国の言葉も流暢に話せるのだが、読み書きはできない。それは努力するしかなかったのだが、ハイノが一から教えてくれた。
そのおかげで今ではこうして専門書でなければ読むことができるまでになった。
ハイノはあまり本を所持していない。
曰く、長く生きてきたから、ノンフィクションの本や図鑑などリアルタイムで見聞きしたり体験したことが多い為、特に集める必要性を感じなかったらしい。ちなみに物語だのフィクション系は興味がないからそもそも読まないらしい。ただその本自体が研究対象だったり希少価値があるものは所持しているとのこと。
なので、いまこうして読んでいる本はハイノが私のために用意してくれたものだ。
以前はハイノから知識を得る事が多かったのだが、最近は本から知識を得る事がほとんどだ。
あの庭園で目覚めた後、私は姿を消し未だに行方知れず、ということになっているらしい。
もともと私は王城の奥底で暮らし、会う人間も片手で足りるほどに限られていたうえ、絵姿も残さなかったことから私を私だと認識する人間の数が絶望的なので捜索は困難を極めているのだとか。
でも念には念を入れ、私はこうしてハイノと共に暮らし、他者との接触は最小限にされている。なんならここで働く人たちと顔を合わせる事はない。
ここに来た当初はハイノ以外の人に会う事が怖くて、その対応に安心したものだ。
そういうわけで、色んな人との関わり合いを持つことのない私は、とても限定的な世界で生きている。
確かに本は私に色々な知識を与えてくれるし、ハイノとの話は楽しい。でもそろそろ他の人と話してみたくなった。
「ねえハイノ。」
「なーに?」
「私ここ出たいんだよね。」
「……は?」
持っていた石を床にごとり、と落としたハイノ。
けっこうな音だった。これがハイノの足に落ちていたら、と一瞬肝が冷えた。というか高価なものって言ってたけど大丈夫?
とりあえず床に落とした石を拾おうとしたが、ハイノに両肩をがしりと掴まれ阻止された。
「ちょっと、落ち着こうか。」
「私は冷静だけど。」
「そういう事言う人にかぎってそうじゃないんだ。」
誰がどう見ても、持っていた重そうな石を落とし、人の肩をがしりと掴む、そんな一連の動作をしたハイノの方が冷静じゃないと判断するだろう。
「ねえ何で?ボク何かした?それとも何もしなかったから?ボクってつまんない男?一緒にいたくないってこと?ちょっと待って、無理、ごめん。待って、本当に待って、だから離れないで、ごめん。」
そして今度は抱きしめられる。
ハイノの柔らかい白い髪が頬にあたる。この髪に何度触れてきただろう。
私の体はまだ不老不死じゃない。確かに今の状態なら、離れて新たな人生を歩む事もできる、そう考えてるのだろう。
「ハイノといると楽しい。ずっと一緒にいるって約束したでしょ。」
「じゃあ何で。」
「うーん。単純に他の誰かと話したい、これに尽きる。なんか家出します宣言みたいな言い方になってごめん。」
私の言葉を聞いて安心したのか、長くため息を吐くハイノを肩口で感じた。
気持が先走って端的な言葉になってしまったため、ハイノを不安にさせてしまって申し訳ない。
「ボクを捨てるわけじゃないんだよね。」
「捨てない捨てない。」
「……そう、それなら良いよ。」
ハイノは私を拘束していた手を離すと、その手で自分の膝を叩いた。そこに乗れということなのだろう、私は逆らうことなくその膝に、ハイノを正面に向くように乗り上げる。
一番初めにされたときは重いかも、なんて緊張して顔も見れなかったものだが、もう慣れた。
以前は私と同じ暗い色の髪と瞳を持っていたが、かつての人体実験で髪は真っ白に、瞳は赤に変わってしまったという。
そういう経歴ゆえに、世界でこの色彩を持つのはハイノしかいないらしい。
もともと端正で中世的な顔立ちをしている上に、稀な色彩、そして不老長寿であり大きな魔力を持つ存在。
畏怖や嫌悪する人がいるらしいが、私はそう思わない。
「キミはボクをペットか何かだと思ってる?」
無意識で頭を撫でていたらしい、ハイノは呆れたようにそう言う。
「でもキミに飼われるなら喜んで。キミを喜ばせることができるなら、なんでもやるよ。なんでも、ね。」
ハイノの赤い瞳が妖しく光った。
裏のある言い方である。
表面の彼の言葉に冗談だとしても乗ったら最後、きっとベッドとお友達になってしまうだろう。そうなったらなったで、ハイノは嬉々として身の回りの世話をするだろう。そこまでわかってしまう。
「貴方はペットではなく、私の夫でしょ。飼うなんて有り得ない。」
「夫!」
暗い光を宿していた瞳が、急に明るいものになった。
色々回避したようである。
「キミにそう言われると嬉しいね。キミはボクの扱い方がうまいなあ。」
「一緒にいる時間が長いからじゃない?」
ハイノは本当に嬉しそうににこにこと笑っている。
「さっきの話だけど、ようは他の誰か話し相手がほしいってことでしょ?」
「え?ああ、そう。」
切り替えの早さに脱帽する。
「外には出せないから、連れてくるよ。」
ちょっと待っててね、と言って私を丁重にソファに下したかと思うと、ハイノは姿を消した。どこかに転移したのだろう。
連れてくると言ったけど、まさか今連れてくるのでは?そう思ったが、いくら何でも急すぎるし、そんなわけはないだろうと一瞬芽生えた考えを打ち消し、ハイノが下に落としたそこらへんに転がってるような見た目のくせに実際は価値のある石を拾う。そのままにしておくわけにもいかないので、ハイノが使っている机の上にとりあえず置いた。
さて、さっきの本の続きを読もうと、もといた位置に座りなおしたその時だった。
「ただいまー!」
空間が歪んでハイノが現れる。歪みの先に何か握っているのか、彼の左手が見えない。
「連れてきたよ!」
「えっ」
「ボクほどじゃないけど、口硬くて信頼できて、知識人だよ。ボクほどじゃないけど。」
大事なことなのか、二度言った。
というか、とても失礼な言い方をしている。
「じゃんっ、ラインホルト君でーす!」
そう言って一気に引っ張りす。現れた人物を目にした瞬間、驚きのあまりに目を見開いた。ラインホルト、そう呼ばれた青年は、アウグスト様とうり二つの見た目だったのだ。
私の中の時が止まる。それも一瞬で、いつの間にか私の隣にやってきたハイノが、私の肩を抱くようにして上から顔を覗き込んできた。
「キミが考えていること丸わかりだよ。でも、あいつじゃあない。」
「そう……だね。うん、そうだ。」
見上げるハイノの顔はいつもみたいにニコニコしている。
「このラインホルト君はボクの生徒。キミみたいに色々と教えてたの。だからキミの弟分みたいなもんだよ。」
「弟……?」
年の頃は私よりも少し上に感じる。
「このラインホルトはさ、アウグストの第一子なの。で、今アウグストが皇帝で、皇位継承第一位だから皇太子ってことになるんだ。」
「……こども?皇帝?皇太子?」
「そう。あいつは他の人間を選び、こんなに大きな子どももいる。」
ハイノの瞳はとても暗いものだった。私が少しでもアウグスト様に心を傾けないように、全ての希望を砕こうとしてこんなことを言ってるが丸わかりだ。不安で心配で堪らない、という気持ちがはっきりとわかる。私としてはハイノしか考えられないけど、こんな風に想われているのが嬉しくもある。
「色々聞きたいけど、とりあえず私に弟分がいたなんて初めて知った。」
「だって初めて言ったから。」
さっきの暗さは見間違いか?と思うくらいに今度は明るい表情だった。
「詳しい説明などはラインホルトにお願いしようと思いまーす。あ、レモンタルト持ってきてくれたみたいだから、一緒にお茶も用意しておくよ。」
その言葉の後に、テーブルの上のお茶のセットと、切り分けられたレモンタルトが急に現れた。
ハイノが力を使ったのだろう。
「ラインホルト、ボクが戻るまでこの部屋でお話ししててねー。じゃあ、ユリコ、行ってくるね!」
初対面の相手の前で軽く触れる口づけを頬に受ける。色々つっこみどころが満載だったが、私が何か言うより前にハイノが姿を消した。
あとに残されたのは、カップに入った湯気の立つお茶、甘酸っぱい香りのするレモンタルト、そしてアウグストにそっくりな青年だった。
「あの、初めまして、ユリコです。ハイノが急にすみません。」
「……いえ。申し遅れました、私はラインホルト・フォン・シュタウト。現皇帝の第一皇子です。」
「詳しい話を聞きたいです。いただいたレモンタルトと一緒にお茶しませんか?」
「はい。」
ということで、私達は向かい合わせで座ることになった。
向かい合わせになったとこで、自然と真正面から彼を見ることになるが、アウグスト様にそっくりである。顔立ちはもちろん、金色の髪の毛も、紫色の瞳も、何もかもがそっくり。
ハイノはアウグスト様の息子だと言っていた。アウグスト様は二十五歳と言っていたし、ラインホルト様もそのぐらいに見える。
頭が混乱する。
「ハイノ先生がユリコ様に説明をするよう私に言いました。今ご説明してもよろしいでしょうか?」
とても丁寧な言葉遣いである。
初対面の皇子様にこんなに丁寧な態度を取られると大分萎縮してしまう。
「あの、はい、よろしくお願いいたします。」
ラインホルト様はでは、と言って話し始めた。
「先生より伺っているご事情を踏まえた上でご説明します。まず、ユリコ様が眠りについた一年後に父は同盟国王女であった母と婚姻し、すぐに皇帝となりました。それから私が生まれ、後に弟、妹も生まれています。つまり、貴方様は二十四年ほど眠りについておられた。父の年齢はあなたよりも遥かに超え、また私が貴方様の知るかつての父と同じような見た目なのはそのためです。」
「失礼でなければ、今のアウグスト様とラインホルト様の年齢を伺っても……?」
「それから一年ほど経過しているので、皇帝は五十、私は二十三となりました。」
「そう、なんですね。」
そういえば、ハイノにあれからどれだけの年数が経ったのか聞いてなかった。
私は大分長い期間仮死状態となっていたらしい。それも、親しかった人に大きな子どもができるくらいの長期間だ。
もし仮に今アウグスト様と会ったとしても、親族の方かな?と気づかなかった可能性が大きい。まあ、会う事などないのだろうけど。
「あの、ハイノに勉強を教わっていたのですか?」
「はい。基本皇族はハイノ先生に教わります。私の場合、色々と適正があったので、幼い頃より勉強に限らずほとんどのことをハイノ先生より学びました。」
「だから、弟分と言っていたのですね。」
「そうですね。そういう事情もありますし、私に対して堅くならず楽に話して下さい。」
「お気遣いありがとうございます。」
そう言ってもらえてるのだから、公式の場ではないなら多少砕けた話し方をしてもいいのかな。
「ユリコ様はその身を犠牲にして、縁もゆかりもなかった地に結界を張り、沢山の人を救って下さった。その貴方様は最も尊ばれる至高の存在であり、それは皇族も例外ではないと皇帝が名言しているので、この国民であるならば赤子から老人まで知っていることなのです。」
「そう言ってくれたのに、私失踪とか……」
「あの時、ユリコ様とハイノ先生にはそれが最善でした。それぐらい危うかった。今でもなかなか危ういですけど。他の国に行けたら良いんでしょうけど、そういうわけにもいかなかったんでしょうね。」
目から鱗の話題だった。そうだ、他国に雲隠れするという手もあったのか。
でもしなかった。あのハイノがそうしなかったということは、ラインホルト様が言う通りそういうわけにもいかない何か理由があるのだろう。
「……皇帝ですが、今でもなおユリコ様に対して異常な執着を見せてます。失踪した貴方を探すべく血眼になって探してます。なのでハイノ先生としては本来だったら皇帝の息子たる私を貴方様に会わせる気はなかったのでしょうけど、色々と思うところがあるようでこうしてお目通りが叶いました。」
アウグストが歪んでいった、という話はあの庭園で聞いた。それを他の人、しかも彼の息子から聞かされるなんて、思いもよらなかった。
でも、自分に置き換えて考えてみる。例えばハイノがかつて大切にしていたという人が失踪して血眼になっている、となったら嫉妬してしまう。今は私がいるのに何で?となる。
それをふまえると、王妃様やラインホルト様を含めた皇子様方や皇女様には申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
そうじゃなくても、皇帝に近しい人物だったり忠誠を誓う人物なら、よくも大切な皇帝を!いっそ殺してくれる!なんて思いそう。あ、だから身を潜めて生きてかないといけないのだろうか。
仮にそうだとしても、ハイノに選ばれてこの場にいるラインホルト様はそういう方ではないのだろう。
「アウグスト様は、利用価値のない私を探し出した時どうするつもりなんでしょう。」
「利用価値なんて考えてないでしょうけど、次こそ逃げれないよう、間違いなくユリコ様を閉じ込めるでしょうね。他の誰に見せることなく、自分だけがユリコ様の目に映るように。そしてユリコ様に愛を捧げ、ユリコ様からの愛を乞うでしょう。」
ハイノと代わりないのでは?
そういえば、ハイノとアウグスト様は教師と生徒という間柄でもあった。そういうところが似てくるのだろうか。
だとしても、私が好きなのはハイノだし、そういうことされるのは怖いし嫌だ。
「それって確定ですか?」
「そうです。だからこそハイノ先生は貴方様を隠すことに気を遣っているのです。」
「……ハイノは知っていたんですね。」
「そうですね。」
「ちなみに王妃様はこのことをご存知ですか?」
「はい。貴方への執着心をわかった上で、父と結婚したのです。」
なんとびっくり。
何十年も前から王妃様はわかっていたらしい。
年季が入りすぎていて怖いし、ラインホルト様たちからしたら生まれた時にはそんな仄暗い感情を持った父親ということになる。
「こういう話聞いてるとあれですけど、普段は為政者としても母の夫としても私達の父としてもよくやってると思います。なので家族仲は悪くないです。」
私の考えを見透かしたかのようにラインホルト様は言う。
「ただ私はハイノ先生の幸せを望んでいますし、父を支持することはないです。」
そしてさらりと付け加えて、お茶を飲んだ。
ラインホルト様はお砂糖を入れない派のようで、ストレートで飲んでいる。
ハイノはとても慕われているらしい。それはわかる気がする。私も昔、先生としてとても慕っていた。
皇帝であり父親でもあるアウグスト様を支持しないとラインホルト様は言っていた。
そういう背景もあるから、きっとこの場に招かれることになったのだろう。
それも強引に。
「ユリコ様、」
涼やかな声で名前を呼ばれて、はい、と返事をする。
これが皇族のオーラなのか、名前しか呼ばれていないのに背筋が伸びる。
「不老不死となることを受け入れていると伺っていますが、本当ですか?」
そういうことまで話しているとは、よほどハイノはアウグストを信頼しているらしい。
「はい。その通りです。」
「後悔しませんか?」
「そうですね……」
少し考える。絶対しません!とは言えない未来が見えた。
「多分、する時はあると思います。なんだろう、些細なことで喧嘩して、悪化して、もう!ってなって、こんなはずじゃなかったって思う場面出てくると思うんですよね。まあでもそれは、普通の夫婦が喧嘩して、つい何で結婚したんだか!っていう心理と何も変わらないんです。私たちの場合ちょっと重めかもしれないですけど。喧嘩して後悔して仲直りして日常の些細なことで幸せを感じて、の繰り返しで、ちょっと特殊な事情はあるかもしれないけど、なんだかんだで一緒に居続けると思います。」
後悔しません!ってはっきり言い切れたらかっこよかったかな、とそのことに対して後悔した。
でもしょうがない。発言は取り消せない。
「……分かりました。ハイノ先生をそこら辺の普通の男と一緒にしてるとは、恐れ入ります。」
「いや、なんか、言い方……」
ついハイノに話すような話し方になってしまったが、そうなってしまうのは致し方がない。
ラインホルト様は、当初楽に話して良いと言っていたのは本当のようで、言葉遣いを訂正せずに静かに笑っていた。
「あのハイノ先生をそのように扱えるのは貴方様しかおりません。ハイノ先生にとってそれは喜ばしいことなのでしょう。あの方をよろしくお願いいたします。」
ハイノが信頼する生徒によろしくお願いしますと言われたからにはその期待を裏切るわけにはいかない。そして姉弟子としても。
私ははりきって、はい、と返事をした。
「はい、二度目のただいまー」
驚いて隣を見ると、当たり前のように私の隣でソファに深く身を沈めたハイノがいた。いつの間に。
「随分お早いですね。」
「仕事ができる男だからね。」
「お帰りハイノ。どこ行ってきたの?」
「体は疲れないけど、心が疲れるところー。もうやだぁ。」
そう言った瞬間、ラインホルト様が一瞬眉間に皺を寄せた。
ただ一瞬だったことと、ハイノの言葉に対して何も言わないので、こちらも何も言わない。
「あんなの相手にしてラインホルトは大変だね。」
「私に対してと先生に対して、全然違いますから。」
「あーそう。」
ハイノとラインホルト様の間では誰に会ってきたかはわかり合っているらしい。
しかもハイノにとっては疲れる相手だけど、ラインホルト様にとってはそうではないという。
「……誰に会ってきたの?」
「キミが会う予定のない人だよ、だから気にしなくて良い。」
「そうなんですか、ラインホルト様?」
「先生がそうおっしゃるならばそうなのでしょう。」
忠犬?
「さてラインホルト、ユリコにちゃんと説明はできたかい?」
だらりと身を沈めたまま、ラインホルト様に顔を向けることなくそうのたまう。
そんな様子を気にした風でもなく、彼は頷いた。
「しましたよ。ユリコ様が眠りについてからの年月と、その間何があったか。」
「二十年以上経ってるとは思わなかった。そりゃアウグスト様の子どもも生まれるし、私よりも大きくなるわけだよね。」
「……説明遅れてごめん。」
急に態勢を改めたかと思うと、悲しそうに私に謝罪をしてきた。
私としては単純な感想だったのだが、ハイノには非難しているように感じてしまったらしい。
「先生、説明したのは私ですよ。」
ラインホルト様より正論をいただきました。本当、その通りですね、ハイノは説明してない。
「うるさいよ、ラインホルト。」
「ハイノ、ラインホルト様は正論。あと、非難してるわけじゃないからね。」
「あ、そう?ならいいや。」
そして笑顔となる。感情表現豊かだと思う。
そんな様子を見ていたラインホルト様は小さくため息を吐くと、席を立ち上がった。
「ハイノ先生が戻ってきたので、私はそろそろ帰ります。ユリコ様、お会いできて良かったです。それではハイノ先生。」
「はいー。じゃあね、ラインホルト。」
ひらり、とハイノが手を振ると、それに合わせてラインホルトの姿が消えた。
「さてユリコ、ボク以外の誰かと話して楽しかったかい?」
一応初回で緊張したということ、そんなに長い時間話したわけではないということをふまえて考えると、彼と話せたことはとても有意義だっか。だから楽しかったのだろう。
「うん。でも、ああいう風に急に連れてくるのはダメだよ。次からはお互いの予定を確認してからにしよう。」
「え、次があると思ってるの?」
「……最初で最後なの、これ」
「ははっ冗談だよー。ま、次からはそうするよ。」
重めの冗談いらない。
早くも喧嘩しそうです、ラインホルト様。
「……ラインホルト様が、ハイノをよろしくだって。先生思いの良い生徒だね。」
「だからってあいつを男として好きになっちゃダメだよ。」
「はいはい、その心配はないからね。私にはハイノだけなんだから。」
そう言って、ハイノに抱き付けば、いつもの穏やかな笑みで抱きしめ返してくれる。
ああ、幸せだな、と私は感じてさらに笑みを深めたのだった。




