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#2 この間、太平洋に行こうとした話。

 川下ってけば、海まで行けんじゃね?


 そう思い立って、自転車で出かけることにした。

 大体の距離くらいは確認しておこうと、地図を調べる。多分15キロくらいか?いい加減な目測だそう判断する。実際はもう少し距離があるだろう。多分+5キロくらい。

 そんな雑な見立てで、「ゆーて往復30キロなら余裕っしょ」と、思ってしまうのが田舎の元女子高生(平野育ち)の恐ろしさだろう。ちなみに、私が本当に高校生だった頃は片道7キロを自転車で通学していた。


 せっかくだからできるだけ川沿いの道を走りたい。とりあえず橋まで来て、細い脇道に入ってみた。

 自転車で道を下って行く。野球場があって中学生と思われるチ-ムが試合をしていた。

 試合の関係者以外誰もいないところをさーっと走り抜け、ようとした。しかしその先は、行き止まりだった。

 川沿いって、河川整備のために、ちゃんと道があるもんじゃないの?そう思いながら引き返す。坂を上るのがつらかった。

 もとの場所に戻ると、川沿いを行くのはもっと下流からでいいやと考え直し、自転車を走らせる。


 それから繁華街を通り抜け、大きな橋が架かる場所についた。ここまででそれなりにつかれている。大丈夫か?と自分でも思いながら足は止めない。食料は500ミリリットルのお茶とメロンパン1個だけ。しかも朝昼兼用でカレーパン1個しか食べていないが、まあ、なんとかなるだろう。

 橋の下には撤去自転車の駐輪場がある。一度禁止区域に駐輪したら、運悪く自転車を持っていかれ2100円支払う羽目になった。そこを横目でにらみつけながらさーっと橋を潜り抜ける。ちょうど自転車の引き渡しが行われていた。あの人も2100円を払ったのだろう。違法駐輪は結構高くつくのだ。


 さて、橋の下からはしっかりしたジョギングコースが整備されていた。割合広い道で、私の乗るママチャリとは性能が段違いに見えるロードバイクに乗っている人もいた。その人はのんびり走っていたので、私はそれをさーっと追い越す。

良く晴れた土曜日の午後は、河原でバーベキューをしている人もちらほら見られる。広々とした川辺はとても気持ちが良かった。

 歩いている高校生と、走っているおじさんをすいすい追い越したところで、走る私の横をかなりのスピードで自転車が追い越して言った。さっきはのんびり走っていたロードバイクの人だった。さすがにあれは追いつけないし、追い越せないなと思う。あんなのがあれば100キロくらい軽いんじゃね?とか、思ってしまう。

 何はともあれマイペース(ハイペースともいう)にジョギングコースを走って行った。


 川を下るにつれ、周囲は建物が減って日本の田舎はかくあるべきと私が勝手に思う雰囲気になってきた。要するに人っ子一人いない田んぼと畑と荒地だ。三鷹外国人観光客。これが本当の日本だ!と言いたい。言わないけど。

 いつの間にかひび割れなどが目立つようになっていた道をどんどん走っていく。いくつか橋をくぐると本格的に手の入っていない荒地になってきた。多分川沿いを走っているはずだが、背の高い草に阻まれて川は全く見えない。

 このまま行って大丈夫か?と思ったところで支流と思しき小さな川に架かる橋を渡った。横手にラブホテルっぽい建物が見える。これが日本の田舎だよな!と、また思いながら、さーっとさびしい道を走り抜ける。


 またしばらく行くと、畑があった。小型の白い版が止まっている。農作業中のおじいさんだかおばあさんだかがいるはずだか、見当たらない。見つかったとしても、せいぜい一言挨拶するだけなので、どうでもいいのだが。私は、ダーツで当たった場所に行く某テレビ番組のスタッフではない。


 さらに(川が見えないがおそらく)川沿いを下ると、老人会の方々がゲートボールをしていらっしゃった。なんでこんななにもないところにゲートボールコートがあるんだろう?と疑問を感じる。しかし、それもスルーして通り過ぎる。重ねて言うが、私はダーツで当たった場所に行く某テレビ番組のスタッフではないのだ。

 どれくらい走ったのだろうと思い、時間を確認すると1時過ぎだった。11時30分ごろに家を出てきたから、もう1時間半経っている。川沿いに出てからは40分ほどだろうか。私の経験上、普通のママチャリで信号も何もない道を30分も走れば5~6キロは進むことができる。なんとなく疲れたので、お茶を飲んで休憩した。


 自転車のおじさんが走り去っていく。人のことを言えないが、なんでこんなところを走っているんだろうと思う。おじさんも私を見てそう思っただろう。

 そのまま走り続けると、鉄道橋っぽいものが見えてきた。もしかしたら高速道路かもしれないが。知識が無く、何とも言えないが、地元で見慣れた高速道路とは違う気がしたので、鉄道だと言い張りたい。

 それをくぐると、大きな看板が見えてきた。自慢では無いが、私の視力は眼鏡があっても0.1を切っている。看板の文字はまだ読めなかった。しかし、私が行く小道に並走して、幹線道路があるようだ。海まであとどれくらいだろうと考える。

 文字が見えるくらい看板に近付くと、『○○川 太平洋まで8km』と書かれていた。まだ8キロと考えるか、もう8キロと考えるか。微妙なところだ。

 まあ、ここまで来たらあと8キロ余裕っしょ。そう思ってしまうのが田舎の(以下ry)。


 私は看板を通り過ぎ、さらに道を進んでいく。しかしそこで問題が起きた。それまで舗装されていた道が途切れたのだ。私はどうしようか途方に暮れる。舗装されていない道を行く体力はなさそうな気がした。というか、砂利道を走りたくない。

 私は別の道を探した。隣を並走する道路に出ようかと思い、その道路を窺う。自動車がびゅんびゅん走っていた。「あ、これは無理だ」と即座に思った。

 自動車から見たら、自転車は完全に邪魔ものだ。それに、歩道など一切ない道は自転車が走ってはいけない気がしてあきらめた。

 引き返そうとしたら、小道の方からトラックが来ていた。慌てて道を開ける。「こんなところに居てごめんなさいジャマですよね!!」と思った。予想外のことで若干テンパっていたと思う。

 さて、こうなると進める道は両脇から雑草が迫る砂利道しかない。私は、即断した。


 帰ろう。

 あと8キロまで来たけど、あきらめ時はここだ。


 ……多分。


 看板のところまで引き返して、自転車を止めた。地面に腰を降し、メロンパンを食べた。ひたすら枯れた雑草が生い茂るさびしい場所だった。

 なんとなく、「河原なう」とかツイッターで言ってみたい気がしたが、あいにくツイッターをやっていない。そして「なう」はもう古い気がした。早く帰ろうと思った。


 6段変速のママチャリを5速にして、どんどん走っていく。風はやっぱり気持ちよかった。思えば、自転車をこんな速度で飛ばすのは高校生以来初めてだ。それだけでも太平洋を目指そうとした価値はあるかもしれない。

 来た時と同じ道を引き返す。来た時もいた親子連れがキャッチボールをしていた。兄弟がグローブをはめてボールを投げ合っている。それを父親らしき人が見ていた。牧歌的な風景である。何となく和みながらひたすら自転車をこぐ。ランナーズハイとはこういう感じだろうかと思う。

 行きよりも帰りの方が早かった気がする。いつの間にか市街地に戻ってきていた。歩行者もいる道でスピードを出せないので、ギアをいつもの3速に戻す。

帰る途中にダイエーの前を通るので、とりあえず晩ご飯の材料を買うことにする。


 それから家にたどり着いた途端、疲れが襲ってきた。家の前の激坂(ものすごく急な坂)にとどめを刺された気分だ。明日は筋肉痛になる気がするなあと思いながら、私のちょっとした思い付きは幕切れを迎えたのだった。

次回!アレな話!……だったらいいな。

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