#1 うかつだったこと
もうすぐ今年も終わるという、ある土曜日の日、私は大量の本を持って市街地に向けて黙々と歩いていた。なぜ本を持っているのかというと、借りていた本を読み終えたので、面倒に思う前に返却するためだった。 せっかく外に出るのだからついでに処分しようと思って分けておいたマンガを売ってしまうことにした。図書館の本――分厚いハードカバー×3冊――と、マンガ――新書版20冊くらい――が予想以上に重くて後悔した。
荷物を減らすために先に古本屋に寄る。マンガは400円くらいになった。またマンガが1冊買えるくらいの金額か、と思いながらさっさと店を出た。図書館は確か6時で閉まるはずだ。早くいかないと、と時計を見ると5時を少し過ぎたころだった。自転車はこの間不法駐輪で撤去されたので、移動手段は徒歩しかない。駅前から市街地外れの市民図書館まで30分くらいかかるだろう。
そうして休日ということもありにぎやかな街を歩いていると、単に休日というだけでは片付けられないほどの人だかりにぶつかった。
―なにこれ?何でこんなに人がいっぱいいんの?
理由を考えると、思い当たるイベントが一つあった。
―分かった!イルミネーションの点灯式だ!
毎年クリスマスの時期になるといろいろなところでやるあのイベントだ。広い道路の両脇に生えるかなり大きな木がオレンジ色の電飾で飾られ、それがずっと遠くまで続く様子は客観的に見て壮観だ。積極的に見に行ったことは一度もないのだが、図書館に行くせいで毎年見ている気がする。しかし、イルミネーション点灯の瞬間に出くわすのは初めてだった。
私はこのイベントにあまり興味がない――というか、ぶっちゃけ嫌いな方だ――ため良くは知らないが、今日が点灯式なのだろう。土曜日だし。来週クリスマスだし。
そうと分かると、交通整理の係員が張り上げる声が聞こえてきた。
「イルミネーション見物の方は緑地帯(※道路中央にある遊歩道みたいなところ)をお進みください!」
「足を止めないようにお願いします!」
私はそれを聞きながら、あまりに多すぎる人出にイライラしていた。
―早くしないと図書館が閉まっちゃうじゃん!私は早くこの人ごみを抜け出したいんだ!
そう思うものの、人波に乗らなければ前に進めない。なかなか進まない人の流れにイライラが増していく。私は、寒さもあってゆっくり歩く気分ではなかった。
今まさに渡ろうとしている横断歩道の手前が一番混雑していた。芋を洗うとは、こういう状況を言うのではなかろうか。信号待ちの最前列に出ようとしながら、あまりにイライラしすぎた私は、心の中で
「どいつもこいつも浮かれやがって」
と、言った。そして、実際口に出した。それも結構大きめの声で。イライラしているのが伝わるような口調になるように気を使って。舌打ちはしなかったけれど。
声に出した後、私の発言に気分を悪くした人がいるかもしれないと反省した。しかし、後悔はしていない。
毒を吐いてイライラが収まった私は、信号を渡るとイルミネーションが設置されている表道りから離れることにした。一本裏道に入ると思った通り人通りが少なかった。しばらくその道をまっすぐ進んで、図書館の手前の交差点でまた表通りに戻った。
信号待ちで立ち止まっていると、間もなく点灯するというアナウンスが聞こえた。
あたりにいるのは、親子連れとカップルと友人同士のグループにカップル。たまたまここにいる人は私だけではないようで、おひとり様もちらほら。
アナウンスがまた流れ、それでは点灯しますというようなことを言ったような、言わなかったような。ボケっと、信号が変わるのを待っていたら灯りがついて、周囲から歓声が上がった。それを冷めた目で聞き流す私はこんなことを思っていた。
―よりによって、こんな日に、夕方に出てくるなんて、うかつだった、と。
なんだかんだで毎年見ているイルミネーションだが、クリスマス・イブに会場に行ってしまったことがある。その日は独り暮らしのアパートの大掃除をしていて、それが終わったそのままの格好でおしゃれなアパレルショップが入ったビルに行った。まあまあエキセントリックなセーターを買って、帰り道でイルミネーションの通りを歩いた。
その時は、なんとなく携帯のカメラで写真をとって見たり、ベンチに座って見たり、割とエンジョイしていた。綺麗なものを見ている時間は幸せなものである。
座ってぼんやりしていたら、カップルに声をかけられた。彼女の方は白いコートを着ていたことを覚えている。
「写真を撮ってくれませんか?」
「いいですよー」
私は、面識のない人にだけ発揮される愛想の良さで答えていた。カップルの男の方がスマホを指して、写真の撮り方を教えてくれる。私はイルミネーションをバックに立つカップルをレンズに収めて言った。
「逆光で顔が真っ黒です!」
「とりあえず撮って見てください」
私は「はい、チーズ」と掛け声を言ってシャッターを切った。
「ごめんなさい。マジで顔が分かりません……」
私はこう言いながらスマホを返して、もう帰ることにした。帰り際に、
「うわ、ほんとに真っ黒だ」
と、笑いあうカップルの会話が聞こえた。フラッシュの炊き方を教えてもらえばよかったなあ、と思った。
あの二人は、今どうしているのだろうか。数年たつので、別れたか、結婚したかのどちらかだと思うが。もしかしたら、あの時はもう結婚していたかもしれないし、子どもが生まれたかもしれない。幸せとは、妬むものではなく分け合うものである。私はカップルに優しい非モテである。しかし、イチャイチャカップルの女の方が自分より明らかに不細工な時はその限りではない。むしろ、
「爆ぜろ!!」
くらいは思うだろう。女性の皆さんにこの気持ちに共感していただけたら幸いだ。
それはそれとして、点灯の瞬間、キラキラした目でイルミネーションを見るちびっこがかわいかったです。
そうこうしていると信号が変わったので、私は道を急ぎ、当初の目的を果たしたのだった。
ちなみに、図書館がある建物内も人が多かった。全面ガラス張りのその建物は、イルミネーションを見るのに最適なのだ。温かい建物の中からガラス越しに点灯の瞬間を見る人たちを、私は勝手に”通”な人たちと呼んでいる。そんな通な人たちがちょうど私が入口についたところで、見るものは見たというようにぞろぞろ出てきた。
出て行く人たちと、入りたい私。二重になった自動ドアと自動ドアの間で、若干もたもたすることになって、やっぱり私はこんなイベント嫌いだと思ったのだった。
次話!多分サイクリングの話!




