第一話
「イリア、本当にお金は大丈夫なのかい?」
心配そうに祖父が問いかける。
今年で15歳になるイリア・エフィメールは、制服である紫色のローブをまとい、肩まで伸ばした髪を髪飾りを使い結びあげた。
「まったく、何度も言ってるじゃん!お金の心配は要らないって。なんたって私、首席合格なんだから!」
胸を張り祖父に言い聞かせる。
「勿論わかっているよ…まあ、イリアが元気でいてくれたら良いんだ。マテリアではこっちと勝手が違うだろうから、色々と苦労するだろうが…」
「おじいちゃんは大船に乗ったつもりで、私の名前が賢者として知れ渡るまで待っておけばいいんだよ!」
「そうか…ふふ、イリアが居なくなると、寂しくなるな…応援しておるよ。」
嬉しくも寂しそうな祖父に別れを告げ、クラッシー魔法学園があるマテリア行きの停留所へと向かう。
馬車に揺られる。郊外に住んでいた私にとって馬車に乗るということはなかなか機会のないことだ。
大都市マテリア。この世界でも片手で数えるほどしかない魔法学園があり、国内のエネルギーのほとんどを魔力で補っている。
そして、クラッシー魔法学園。マテリア唯一の魔法学園にして世界一の魔法学園である。
「ふふふ、この私イリア・エフィメールの名を賢者として広めてやるのだ!待ってろよ、クラッシー魔法学園!」
そのはずだったのだが…
「えー、本日はお日柄もよく――」
「はぁ...まさか新入生代表挨拶があるなんて...主席の通知が来た時点で天狗になってわ。まあ変なことは言ってないし大丈夫か...」
はっきり言って最悪の気分だ、私の主席合格という肩書きに早くも傷が...
落ち込みながら、広い中庭の間にある外廊下を歩く。
この後は確か担任のあいさつとかだっけか、あー早くクラス行こ。
その時だった。
「あんたみたいなやつが来る場所じゃないのよ!」
凄い怒声が響き渡る。大きな声に反射的に体が反応するが、どうやら矛先は私ではないようだ。怒声の方向へ振り返ると、如何にも貴族って感じの偉そうな女子とそいつの子分が四人、怒られてるのは...顔に大きな角と紫色の瞳、あれは魔族か。
魔族。一概に魔族といっても多くの種類がいるが、一般の認識は変わらない。
【凶暴で恐ろしく、残虐性が高い】というところだ。
クラッシー魔法学園の入学に種族の制限はない。たとえ悪人であろうが、入試さえ突破すれば良いのだ。
正直なことを言うなら、無視したい。私は平民の家の出だし、貴族に絡まれたらどうなるかわからない。
でも…
「賢者になろうという女が!眼の前で困ってる人を助けないでどうする!」
とりあえず現場に走る。いじめてるヤツらはまだこちらには気づいてないようだ。
「魔族の分際で!あんたにはこれがお似合いよ!勇ましき炎の聖霊よ、我が呼びかけに答えたまえ!ファイ―」
「ストップストッープ!」
二人の間に割って入り込む。
危ないところだった。取り敢えず私の姿を見て詠唱を止めてくれたみたいだ。
魔族の子は...所々怪我しているものの、重症ではなさそうだ。
「何よあんた。急に割り込んできて。自分が何をかばってるかわかってるの!?」
「もっちろん!こんなに可愛らしい少女が困ってるんだから、助けてあげなくちゃね!」
でもどうするかねー、流石に貴族相手をボコボコにするのは不味いな...
「チッ...善人面していい気になってんじゃないわよ!あんたごと焼き払ってやるわ!勇ましき炎の聖霊よ、我が呼びかけに答えたまえ!ファイヤーボール!」
詠唱は…間に合わないな、簡易魔術を使うか。
「シールド!」
「私に逆らうとこうなるのよ!身の程を思い…
なっ!?」
直径2mほどの大きな火球が襲い、辺りが炎で覆われる…はずだった。
なんと、火球がシールドに当たった瞬間《《それ》》は吸われてしまった。
「ふぃ〜危ない危ない。簡易魔術でも吸収出来るんだね。」
本来シールドは魔法を弾くものであるが、魔力の差があまりに大きいと今回のように吸収され、完全に消える。
「あんた、何者よ!私はコレイアの家系なのよ!その私の魔術を簡易魔術なんかで…」
驚いている彼女に、取り巻きのうちの一人が寄ってくる。
「サイユ様…恐らく彼女は首席合格の…」
「なっ!…まあ今は見逃してあげるわ。次は無いわ!」
不満を隠しきれない様子で彼女らは去っていった。
それにしてもコレイアの家系か…コレイアと言えば歴代で一番賢者を輩出してる家系だ。
この学園に来ているということは、恐らく彼女も賢者を目指しているのだろう。
賢者は一年に一回、学園で特に優秀だった全学年の中から1人選ばれる…らしい。
どういう基準で決まるのかは分かってないが、その実力は高いだろう。
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「た、助けてくれて、ありがとう!」
取り敢えず笑顔になってるようでよかった。
「勿論!困ってる時はお互い様よ!」
「えっと、首席合格のイリア・エフィメールさんだよね…やっぱり首席なだけあって凄いなぁ…私は魔族だし、やっぱりこの学園に来てもいじめられるのかな…」
そう言う彼女の顔はとても暗かった。
「そうかな?私はどっちかって言うとさっきのサイユとか言うやつの方が特殊な例だと思うけど。」
「え?」
驚きを隠せない表情をしている。
「魔法学園に入学してくる人って、基本魔法が高い水準で使えるじゃん?勉強の過程で魔族についても知る事多いだろうし。」
実際、私も魔族の人が書いた魔法の本や世界の歴史についての本を沢山読んでいるから分かるが、魔族の功績や才能はとても凄く、その強さからくる畏怖の面が大きい。
魔族を恐れているのは基本的に戦闘をしない一般人であったり、それこそさっきみたいなしっかりとして勉強をしていない貴族ばかりだ。
「ちゃんと勉強してる人なら魔族だから嫌悪する人はいないと思うけどね〜。
ところで、君の名前は?ここで会ったのも何かの縁だし、私と友達になろうぜ!」
「私は、アカネ・フリューゲル。この角がある通り、鬼族なんだ。」
鬼族は魔族の一種だ。魔族は魔法の才に溢れているが、鬼族はそれに加え高い知性を持っていることで知られている。
「私はイリア・エフィメール。知ってるっぽいけど一応言っとくと、主席合格!だから賢者目指してます!…うわっ!時間やばい!早く教室行かないと!」
「ほんとだ!急ごう!」
そう言って私たちは教室へ向け走り出した。




