第十五章:国家か、異端か
王都からの使者が来たのは、静かな朝だった。
霧がまだ畑に残る時間。
子供たちはすでに働いている。
薬草の選別。乾燥。粉砕。
すべてが「仕組み」として動いていた。
そこに――
「王命である」
馬車が止まり、紋章付きの使者が降りる。
空気が変わる。
誰も手を止めない。
だが、誰もが聞いている。
◆ 王の選択
フランは外に出た。
「……要件は?」
使者は紙を広げる。
「貴領は現在、“国家の経済秩序を逸脱している”と判断された」
「よって――」
一拍。
「国家管理下に入ることを命ずる」
ざわめきは起きない。
すでに、予想されていたからだ。
◆ 条件
使者は続ける。
「条件は以下の通りだ」
・薬草の生産は国家専売とする
・価格は王都が決定する
・流通は商業ギルドを通す
・労働者は戸籍登録の上、管理対象とする
そして最後に。
「領主フランは、“管理官”として残ることを許される」
◆ 甘い毒
つまり。
「お前の作ったものを、全部寄こせ」
ということだった。
だが、見返りもある。
・軍による保護
・正式な領地認可
・貴族としての地位保証
・交易路の開放
普通の領主なら――
迷わない。
◆ フランの沈黙
フランは答えない。
代わりに、畑を見る。
子供たち。
笑っている。
腹を空かせていない顔。
それが、この世界ではどれほど異常なことか。
◆ 見えない鎖
フランは知っている。
国家がやることは一つだ。
「価格を固定する」
最初は安定する。
だが次第に――
・供給は絞られる
・品質は落ちる
・利益は上に吸われる
・現場は疲弊する
そして最後に残るのは、
「飢え」
◆ 問い
「……断れば?」
フランは静かに言った。
使者は迷わない。
「違法組織として認定される」
「軍の介入もあり得る」
「取引は禁止。封鎖される」
つまり。
「潰す」
◆ 子供の一言
その時、小さな声がした。
「ねぇ、フラン」
振り向く。
痩せていたはずの少年。
今は、ちゃんと立っている。
「また、おなかすくの?」
それだけだった。
◆ 決断
フランは、ゆっくりと使者を見る。
そして言った。
「……条件を聞こう」
ざわめきが、初めて走る。
だが次の言葉で、すべてが止まる。
「俺の条件だ」
◆ 逆提案
「生産はこのまま続ける」
「価格は俺が決める」
「流通は自由」
「人は、管理させない」
使者の眉が動く。
「……それは国家への反逆だ」
フランは首を振る。
「違う」
一歩前に出る。
「これは“取引”だ」
◆ フランのカード
「この領地を止めれば、どうなる?」
使者は答えない。
だが分かっている。
・薬は消える
・市場は混乱する
・都市の価格は暴騰する
・貧民が死ぬ
そして――
国家の信用が崩れる。
◆ 見えない戦争
「戦うつもりはない」
フランは言う。
「でも、止める気もない」
それは宣戦布告ではない。
もっと厄介なものだ。
「存在し続ける」という戦い。
◆ 使者の沈黙
長い沈黙のあと。
使者は紙を閉じた。
「……前例がない」
フランは即答する。
「なら、作れ」
◆ 余波
その日、結論は出なかった。
だが王都に戻った報告は――
こう書かれる。
「排除は可能」
「だが、代替は不可能」
◆ 終わりと始まり
夜。
フランは一人で帳簿を見ていた。
数字は回っている。
金は増えている。
だが――
「……ここからだな」
相手はもう、ギルドではない。
領地でもない。
国家だ。




