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Vendetta Re-Verse ― 血と復讐の叙事詩 ―  作者: 慧梓
VendettaReverse 前半

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4/12

第4章:紅い薔薇の葬列 ― 喪失の少年レノア ―

幸福は、あまりにも脆かった。


双子だけの小さな世界は、

満月の夜、吸血鬼の牙によって砕かれる。


そしてその瞬間、

一人の少年はもう戻れない場所へと踏み出した。

祭壇の硝子細工が、床に落ちて砕け散った。


乾いた音だった。

あまりにも小さな音が、あまりにも大きな何かの終わりを告げていた。


レヴィアとレノアが二人で作った、小さな世界。

聖堂の片隅に二つ並べた寝台。夜ごと囁き合った他愛のない話。朝の祈りの後、こっそり分け合ったパン。

それらすべてが、あの硝子と一緒に砕け散った気がした。


「あぁ……お前なら、潤してくれるのだろう……?」


ルキアン・ヴェルティの声は、恍惚としていた。

法衣は返り血に汚れ、真祖の牙が月光を弾いている。その美しい顔が今は化け物のそれで、しかし彼自身はそれに気づいていない。気づく理性が、もうない。


壁に追い詰められたレヴィアは、声も出なかった。

ただ、組み伏せられた首筋に、冷たい牙が触れる感触だけがあった。


「やめて……ルキアン様……っ!」


悲鳴は聖堂に響いたが、狂乱の吸血鬼には届かない。

ルキアンの脳裏にあるのは、愛する「アイツ」の幻影だけだ。ガルムの血の味。あの男だけが、自分を終わらせてくれる。その代わりとして、この清らかな血で渇きを——。


「レヴィア……っ!!」


廊下を走る音。扉が開く音。


レノアが駆け込んできたのは、もう間に合わない瞬間だった。


姉の白い首筋に、牙が深く突き立てられていく。

レヴィアの瞳から、光が奪われていく。かつての純潔な輝きが、吸血鬼の欲望に少しずつ飲み干されていく。


「離せ……っ! その汚い口を離せええええ!!」


レノアはルキアンの背に飛びついた。爪を立て、引き剥がそうとする。だが吸血は止まらない。真祖の力の前では、少年の腕力など無意味だった。


やがてルキアンの手から、レヴィアの身体が崩れ落ちる。

レノアは床に膝をついて姉を抱きとめた。


「レヴィア? ねぇ……目を開けてよ」


温もりが消えていく。

呼吸が消えていく。


「レヴィア」


返事がない。


「レヴィア!」


返事がない。


床に広がる血溜まりの中で、レノアはただ姉を抱きしめていた。

泣くことも、叫ぶことも、できなかった。


——世界が、音を失った。


どれほどそうしていただろう。

顔を上げた時、レノアの瞳には何もなかった。悲しみも、恐怖も、絶望も——全部燃え尽きた後の、黒い灰だけが残っていた。


「……殺してやる」


声が低かった。

それはもはや少年の声ではなく、何か別のものの声だった。


「咲き誇る前に、僕がこの手で……枯らしてあげるよ。吸血鬼」


---


ルキアンは口元の血を拭い、牙を剥いた。


「……足りぬ。まだ、足りぬのだよ、少年」


真祖の魔力が膨れ上がり、その身体が影のように揺らめく。

満足はしていない。渇きはまだ消えていない。ガルムの血でなければ、何も——。


「僕たちの世界を」


レノアが立ち上がった。

懐から銀の短剣を引き抜きながら、一歩、前へ。


「その汚い爪で、触るな」


超常の速度でルキアンが迫る。

レノアは退かない。正面から刃を合わせ、弾かれながらも体を翻す。


キィィィィィィィン!!


金属音が聖堂に反響する。

圧倒的な筋力の差がある。にもかかわらずレノアは食らいついた。影に溶け込み、茨を足場に跳躍し、ルキアンの法衣を切り裂く。


「ハハッ! 良いぞ、その怒り! その憎しみ! お前の血はさぞかし毒のように甘かろう!」


「うるさい」


レノアは空中で身を翻した。

ルキアンが振り向くより速く——銀の刃が、吸血鬼の背に深く突き立てられた。


バリィィィィン!!


ステンドグラスが砕ける。月光が、二人を残酷に照らし出す。


壁に叩きつけられたルキアンが崩れ落ちる。法衣はボロ布と化し、真祖の血が石畳を汚す。

レノアは立ったまま、その上に影を落とした。


「……苦しいか」


答えない。

ルキアンは荒い息の中で、それでもガルムの名を呼んでいた。意識が混濁しながら、それでもあの男の幻を追い続けていた。


「返してほしい」


レノアの声は静かだった。怒鳴ることも、泣くこともなく、ただ静かに言葉を落とす。


「幸せだった、二人だけの世界を」


長い沈黙。


ルキアンの指が、力なくレノアへと伸びる。

まだ壊そうとしている。まだ諦めていない。この渇きが消えない限り、何も終わらない。


レノアはその指を、足で踏んだ。


「僕の宝物だけでは飽き足らず、僕まで壊そうというのか」


銀の刃を、ルキアンの首筋にあてがう。

冷たい刃の感触に、吸血鬼の動きが止まった。


「その薔薇」


レノアは静かに言った。


「咲き誇る前に、僕がこの手で枯らしてあげよう」


妖しく、そして悲しげな微笑み。

かつての無垢な少年の面影は、もうどこにもない。


ルキアンには関係がなかった。

この少年が何を失ったか。この刃に何が込められているか。

脳裏にはただ、ガルムの幻だけがある。


(アイツ……早く……)


「コ ロ セ !」


声が響く。

誰の声か。自分の声か。目の前の少年の声か。それとも——ずっと脳裏で叫び続けている、自分自身の絶叫か。


血の海の中で、ルキアンは目を閉じた。


レノアの手が動く。


「……何を失おうと」


鮮血が、薔薇の形に散った。


それが救いだったのか、破滅への招待状だったのか——今は、誰にも分からない。

第4章 後書き


第4章を読んでいただきありがとうございます。


この章では、レノアにとって決定的な喪失と変化が描かれます。


大切なものを奪われた時、

人はどこまで壊れ、どこまで変わってしまうのか。


そして、血の海に咲いた“紅い薔薇”が

救いだったのか破滅だったのか――その答えは、まだ先にあります。


第4章のイメージ楽曲:


Vendetta 4th「Blood Rose」


▼YouTube

https://youtu.be/ifP-YFDJygc


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