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第74章「不死の泉で爆死!? 永遠の命はあり得ない!」

 「天国も地獄も開発したのに、まだ“永遠の命”ってやつは商売にしてないだろ? だったら、不死の泉を見つけ出して“アンチエイジング+不老不死”を謳う施設を作れば、とんでもない金になるに決まってるじゃないか!」



 黒峰銭丸は、王都の宿屋で湿っぽい古文書を開いては、いつものように大口を叩いていた。そばには水無瀬ひかり、バルド、メルティナらいつもの仲間がいるが、彼らはすでに何度も“爆死”を見届けてきた者たちだ。深海リゾート、天空城、時空ゲート、霊界ツアー……挙げればキリがない惨劇の山を経ても、銭丸の野望は止まらず、今回も懲りない大きな夢を抱え込んでいる。


 「不死の泉って、伝承でいろいろ言われてますが、実在が確定してるわけじゃないんですよね? もし存在したとしても、迂闊に利用すれば呪いだとか反動だとか、あり得そうな話ですけど……」

 ひかりが書類を見ながら慎重に話すと、銭丸は鼻を鳴らす。

 「バカ言うな。月面や冥府ですら観光化しようとしてきたんだから、不死の泉くらいどうってことないさ。実際、この古文書に記された“永遠の泉”がある地域が判明したんだよ。そこを開発して“若返り&不死”を売りにすれば、金持ちたちはいくらでも大金を払うだろ? 爆死なんて昔の話さ!」


 バルドは「そもそもそんな泉、あったら既に誰かが使ってるだろ?」と呆れ顔だが、銭丸によれば、場所が“呪われし森”のさらに奥、かつての大災厄で封印されているエリアだという。非常にアクセスも難しく、伝承で“聖霊か魔神か”といった類の存在が泉を守っているという噂もある。メルティナは頭を抱え、「それ、絶対ロクなことにならない」と青ざめているが、結局止められないまま計画が走りだす。



 こうして「不死の泉プロジェクト」はスタートし、銭丸はいつものように出資を集め、呪われし森の封印を解いて泉を発掘しようと踏み切る。そこに“泉の水で若返り!”“あなたも死を超える体験を!”という派手な宣伝文句を添えて、金持ちたちの興味を引く。実際、老いた貴族や闇金筋のボスなど、“不老不死”という言葉に目がくらむ連中は後を絶たない。

 バルドが護衛隊を編成し、メルティナが森の調査や儀式的な封印の解析を行う。ひかりは今回も大量の書類と契約書をまとめ、“泉の効能はあくまで自己責任”という免責条項を追加するという危うい仕事に追われる。いつもの如く「大丈夫か?」との問いかけにも、銭丸は「何度も爆死なんて言われてるけど、もう卒業だろ」と鼻を鳴らすばかりだ。



 まず、一行が“呪われし森”と呼ばれる地域に足を踏み入れると、そこは鬱蒼とした樹木と瘴気まじりの空気が漂う、見るからに危険な雰囲気だった。メルティナが魔導センサーをかざすと、木々の根元に古い結界の痕跡があり、どうやら“森の奥へ人を入れない”ように仕組まれた防御系の封印が複数張り巡らされている形だ。

 だが銭丸は「そんなの気にしない」とゴーレムや伐採道具を率いて強引に切り開き、結界を少しずつ破壊しながら進む。バルドが警備を固めても、森の瘴気は強く、時折モンスターや幻覚に襲われるが、ゴーレムの力でどうにか凌いで進める。ひかりはいつも以上に心配そうな顔だが、「お金になるならやむを得ない」と押し切られてしまう。


 やがて森の奥深くへ到達すると、確かに古代の遺跡のような祭壇らしきものがあり、その先に“泉”とおぼしき水場が見つかった。メルティナが解析すると、魔力反応が非常に強く、普通の水ではありえない波動を示している。銭丸は大興奮で「これだ……ついに不死の泉を発見したぞ!」と叫び、周囲の作業員たちも一緒に歓声を上げる。



 “泉”は湖ほどの広さはなく、小さな水溜まりくらいの規模で、中央から絶えず泡立つように湧き水があふれている状態。しかし近づくと空気がびりびりとするほどの魔力を感じ、周囲には黒ずんだ花や妙に巨大なきのこが群生していた。バルドが注意深く水に触れると、少し痛みを感じるが、特に体に異常はなかったという。

 それでもメルティナは「この泉はどうも安定していない。何か強大な意志が隠れている可能性がある」と重ねて警告するが、銭丸が無視して泉の周囲を整地し、簡易的な“聖域”を作ってしまう。さらにそこを観光客向けに公開するための道を整備し、仮設の施設を立てる形で“お試しオープン”を強行することになった。


 最初の客は、闇金の親玉や余命幾ばくもない貴族など、半ば絶望を抱えたような人々が中心だった。「この水を飲めば不死になれる」「老化が止まる」と信じて大金を払う姿に、銭丸は「これぞ大稼ぎ」と高揚感を隠せない。そのうえ、泉は確かに妙な力を持っているらしく、服用後に肌が若返ったかのようにツヤが出る例が続出する。

 バルドやひかりも最初は半信半疑だったが、ある貴族が「こんなに元気になった」と興奮気味にレポートを出し、周囲の評判が一気に高まる。メルティナは「効果がある分、何か代償があるかもしれない」と心配するが、銭丸は「客が喜ぶなら問題なし」とさらに拡大路線に踏み切る。



 すぐに“泉”の価値が爆発的に高まり、大勢の客が押し寄せる。しかし、その結果、水の量がさほど多くない泉を長時間乱用する形になり、泉の周囲から黒い染みのようなものが森へ広がり始めた。まるで水を抜いた跡に異様な魔力がこびりつくような現象が見られる。

 さらに、初期の客たちの中に、次第に異常な症状を訴える者が出始める。“若返ったはずが体の一部が腐蝕し始める”“夜になると異様に暴力的な気分になる”など、不死というより“呪い”を想起させる報告が後を絶たないが、銭丸はそれを隠蔽しようとし、「一部の体質的なものだろ?」と片付けてしまう。


 森も容赦なく変化し、泉の下流へ行こうとすると黒い水脈が広がり、まるで腐敗した汚れた水が新たに湧いているかのようになっている。メルティナが試料を分析すると、「生体を無理やり修復する代わりに、周囲を侵蝕する瘴気を排出するらしい」と判明。要するに“不死になりかけた人間の体から、負のエネルギーが排出され森を蝕んでいる”とのことだ。

 バルドが「これじゃ、下手に使うと大惨事になる」と必死に止めるが、銭丸は「いまさら引けるか。客も増えてるし、出資者が息巻いてる」と頑として聞かない。ひかりはもう呆れ果てて「また爆死になるのでは……」と嘆く。



 予想どおり、最悪の事態が起きる。ある日、大量の客が泉の水を過剰摂取したり、無断で森の奥に入り込んで水を盗み出したりする事件が相次ぎ、結果として“呪い”が一挙に拡散してしまう。夜になると、泉を飲んだ人々の一部が半狂乱のゾンビのように暴れ出し、周囲を襲い始める。“不死化”が半端に作用し、体は破れながらも動き続ける怪奇現象がそこかしこで起こる。

 バルドが警備隊で対処しようとしても、相手は痛覚を失い凶暴化しており、一筋縄ではいかない。さらに森から黒い瘴気が吹き出し、泉の表面は泡立ちと蒸気が混ざり合いながら真っ黒に変色していく。メルティナは「これ以上続ければ森全体が腐って生物が住めなくなる」と絶叫するが、銭丸は「くそっ、こんな馬鹿な話があるか」と押し返す。


 最後のとどめは、森の深部で眠っていたらしい“守護の精霊か魔神か”が目覚めたことだ。森全体が震え、巨大な樹木が動き出すかのように根を張りめぐらせ、無数の触手めいた枝が泉周辺を襲う。水を汚した“人間”への怒りか、それとも呪いを開放した人間への天罰か、誰にもわからないが、とにかく破壊が嵐のように巻き起こる。

 豪腕の枝が施設やテントを根こそぎ投げ飛ばし、黒い泥のような瘴気が吹き出し、人々が逃げ惑うなかで銭丸は右往左往するばかり。ひかりやバルドが叫ぶ。「もう無理だ、撤退!」——しかし既に逃げ道は塞がれている。



 敷地の中央部で、泉が深くえぐれるように崩落し、一帯が火山の噴火に似た衝撃を受ける。噴き出しているのは高熱のマグマでなく、呪いが詰まったドロドロの“黒い液体”と白い蒸気が混ざり、悪臭を放ちながら建物や人間を飲み込む。それでも銭丸は最後の最後まで足掻くが、やはりお決まりの結末を迎える場面が訪れる。


 どこかで派手な爆裂音が響き、泉の底から溢れた妖しいエネルギーが暴発し、辺りの木々をまとめて薙ぎ倒すように吹き飛ばす。衝撃波で銭丸は宙を舞い、自らもズタズタになりながら、いつもの台詞をかろうじて言い放つ。


 「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。不死の泉は……爆死ッ……!!」


 その言葉とともに、超常的な大爆発が起こり、地面にできたクレーターから噴き出す黒い水柱と火花が施設全体を飲み込み、森を一瞬にして焼くような閃光に変える。バルドやひかり、メルティナが辛うじて外周に逃げるが、中心部の銭丸や大勢の客たちは一瞬で呑まれ、行方もわからなくなる。

 翌日、その森を改めて確認すると、巨木はほとんど枯れて倒れ、地面は焼けたように真っ黒になっている。もはや水が湧いている様子もなく、不死の泉の姿は消え失せた。付近を漂う悪臭や瘴気は人を寄せつけず、数多くの行方不明者がいて、当然、銭丸も見つからない。こんな爆死の現場で助かるはずがないと思われつつも、「あの男だから」と繰り返される苦い台詞がいつものように王都へと戻っていく。


 こうして“不死の泉”を観光売りにした壮大な計画は、いつものパターンで大暴走し、最後には呪いと怪物の襲来、そして根こそぎ吹き飛ぶ大爆発を迎えて瓦礫と黒い泥の残骸だけを残した。不老不死など夢のまた夢——人間が踏み込むべきではない領域に銭丸が足を踏み入れた結果は、今回もまた“爆死”という形で幕を下ろしたわけだ。

 時代が変わろうとも、場所を変えようとも、男の執念が呼ぶ破滅は変わらない。王都の人々ももはや驚きを見せず、ただまたかと嘆息するばかりである。こうして深い森の奥で、ひとつの伝説がまた終わりを告げた——と、少なくとも世間はそう捉えるが、銭丸の“次”が本当に来ないと断言できる者は、誰ひとりいないのだった。

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