第67章「幻想蜃気楼都市で爆死!? 砂漠に描く虚ろの夢」
「海底も空も森の奥も手を出したけど、考えてみりゃ“砂漠”ってまったく開拓されてないよな? だったら、この広大な砂の海に“幻想都市”を築いて、蜃気楼を観光資源に変えれば大儲け間違いなしじゃないか!」
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黒峰銭丸は、王都から遠く離れた砂漠の地図を指し示して、いつものように胸を張った。何度も爆死を経験してもまるで懲りず、新たな商機を見つけるごとに周囲を巻き込み、大騒動を引き起こす男。その傍らには、水無瀬ひかり、バルド、メルティナらがいつもの顔ぶれで集まっていたが、すでに半ばあきらめのムードを漂わせている。
「砂漠って、高温・乾燥・水不足に加えて、砂嵐などの自然災害も多いですし、そもそも住みづらい場所だからほとんど放置されてきたんですよ。そんなところに街を作るのは無謀じゃありませんか?」
ひかりが書類を確認しながら苦言を呈するが、銭丸はニヤリと笑う。
「そこを魔導技術でカバーするんだ。砂漠という舞台が強烈なインパクトになるし、さらに蜃気楼が観光の目玉になる。巨大なオアシスを作ってリゾートホテルを並べれば、暑さを逆手に取ったビジネスができるだろ? 爆死の可能性なんて、もう通り越したさ!」
何度聞いたか分からない“爆死なんてもう通り越した”という言葉に、バルドはうんざりしながらも、また作業と警備の準備に入るしかない。メルティナは砂漠での水循環や熱制御の研究を担当し、ひかりは資金の算段と書類を抱え込む形になった。
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こうして、王都から馬車で十数日ほど行った先に広がる広大な砂漠地帯へ、一行は乗り込んでいくことになる。そこはかつて商隊が通った隊商路があるものの、大規模開発は行われたことがなかった土地だ。銭丸は古い砂漠の遺跡や蜃気楼の名所を調べ上げ、そこをまとめて“幻想蜃気楼都市”に仕立てようと意気込む。
最初の難題はやはり“水”と“建材”の確保だ。メルティナが地質調査を行った結果、地下に細い水脈があるというが、それだけでは人が集まるほどの量はない。加えて砂漠特有の日中の暑さや夜の寒さ対策が必要で、魔導による冷暖房設備や浄水装置に莫大なコストがかかる。
ひかりが書類で「こんなに膨れ上がる予算、どう賄うんです?」と呆れながら訊くと、銭丸は「観光客からの利用料と、新たな蜃気楼イベントで稼げるさ」と一蹴する。結局、資金は大量の借金と出資を合わせて揃えることになり、またもや彼らは強引にスタートを切るのだった。
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まず、砂の上に“人工オアシス”を作る計画が走り始める。魔導ポンプで地下水を汲み上げ、大きな湖のように水を貯めてリゾートの目玉とするのだ。バルドが作業隊を率い、砂を固めるために魔導工法を取り入れ、工事は難航しつつも進行。カジノやホテルが並ぶ“オアシス街区”、そして砂の地形を利用した闘技場や商店街も拡張されていく。
やがて、ある程度の形が整った段階で銭丸は宣伝を打ち、「幻想蜃気楼都市が誕生する。あなたも夢の砂上リゾートへ!」と派手なコピーを掲げた。そこに乗せられた貴族や富裕層が「一度は行ってみたい」と興味を示し、さらには好奇心旺盛な冒険者ギルドのメンバーや遊び好きの商人が集まりだす。
蜃気楼自体は自然に起きるものだが、メルティナたちが“魔導蜃気楼装置”を追加し、より幻想的な光景を人工的に作りだそうという取り組みも始まる。砂漠の照り返しを利用して光を曲げ、空に大きな映像を浮かべるという仕組みだ。実験段階ではそれなりに奇麗な蜃気楼が見え、銭丸は「これこそ金になる」と踊りあがる。
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しかし、やがて異変が見えはじめる。オアシス街区で想定以上に水が蒸発し、魔導ポンプの消費が高騰。一方で地下水が思ったより枯渇しやすく、飲料水やプール用の水を確保するために、さらに深い層から強引に吸い上げねばならなくなる。すると、地下空洞が拡大し、地盤が不安定になる恐れがある――とメルティナが指摘しても、銭丸は「今さら止められるか」と強行する。
加えて、砂漠には稀少なモンスターが生息しているらしく、夜になると街の外れを襲ってくる事例が発生。バルドの警備隊が対応しているが、砂中を自由に潜るモンスターの捕獲は困難で、時折大きな被害が出る。ひかりが「防衛施設を増やそう」と言っても、銭丸は「費用がかさむ」と渋るばかりだ。
それでも表向きは好調だ。オープン直後から訪れた観光客が「ここは本当に夢の国だ」「夜の蜃気楼ショーが幻想的」と評判を広め、大きな売上をもたらす。カジノや闘技場も盛況で、砂漠を見下ろしながらの食事やショッピングは新鮮な体験として貴族を沸かせていた。
銭丸は「ほら、また当たった」と胸を張り、深刻な問題をスルーするようになる。蜃気楼装置がオーバーヒートする兆候を見せても「大丈夫」、水位が下がっていると聞いても「観光客が喜ぶなら価値がある」と言い張り、爆死の匂いは彼にとって“幻”に等しいらしい。バルドやメルティナは不安に押しつぶされそうになりながらも、なんとか運営を続けるしかなかった。
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ある夜、街を覆うように大規模な砂嵐が迫ってきたという報告が届く。砂漠の主みたいなモンスターが嵐に乗じて近づいているとの噂さえある。バルドが「今すぐオアシスを守る防壁を閉じろ」と言っても、銭丸は「客がまだ楽しんでるんだ。いきなり防壁を下ろしたら売上が落ちるだろ?」と抵抗する。結局、ギリギリになって防壁を展開するが、すべてが手遅れに近かった。
嵐が街を襲い、思いのほか巨大な砂塵の渦が施設を包み込む。蜃気楼装置は砂に埋まり、動力炉に砂が詰まって誤作動を起こす。オアシスの水も一部が外へ流出し、さらに外壁をモンスターが突き破ろうとしているという報告が舞い込む。メルティナが制御パネルをいじっても画面が砂まみれで判別できず、バルドが砂嵐の中を駆け回るが視界がほとんどなく、客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う状況だ。
さらに追い打ちをかける形で、地下水の過剰汲み上げにより地盤が沈下を起こしている。そのせいでオアシス街区がずれ込み、ひび割れが数か所に走り出す。せっかくのホテルやカジノも、砂と水が混ざる形で底が抜けるように崩れ始め、倒壊が起こる。
銭丸は叫ぶ。「くそっ……誰か水を止めろ! モンスター対策はどうした!?」と混乱に陥るが、既に市街地の要所は砂に埋もれつつあり、まともに指揮ができない。モンスターの雄叫びがどこかで響いており、その足音がズブズブと街を踏み荒らすような音が聞こえるが、砂嵐で姿は見えない。
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加えて、蜃気楼装置に使われている魔導炉が暴走を始める。過剰に熱が蓄積して放電が発生し、人工的な光が街を照らすたびに火花が建物へ散り、火事が起きる。水と砂にまみれながら火が上がるという最悪の構図で、客は絶句しつつも四散。バルドたちもなす術なく倒れていく。メルティナが最後の手段で炉の安全弁を作動しようとするが、砂まみれで弁が動かず、またしても爆発の危険が迫っていた。
「仕方ない……自分でやるしかない!」と銭丸が叫び、炉のある制御棟へ砂をかき分けて突っ込むが、中は既に炎と煙が充満し、機器は壊れかけ。足元は水没し始め、いまにも床が崩れそうだ。外から砂嵐の轟音が響き、ビリビリという放電音があちこちでしている。やがて制御盤に触れようとした瞬間、大きな衝撃が走って炎が噴き上がった。
倒れこんだ銭丸が半焼けの壁を見つめ、やっとのことで口を開く。「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。深海も空もやったけど……砂漠リゾートも……爆死ッ……!!」と、いつものように息を吐くような声を上げる。
そのとき炉がギシギシと異音を立て、ついにオーバーロードへ到達。ドォンという爆音と衝撃波が一気に爆風を起こし、炉と制御棟を一瞬で破壊し尽くす。吹き荒れる炎が空間を飲み込み、建物の残骸もろとも宙を舞う。
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翌朝、砂嵐がおさまったころ、あの砂漠のオアシス街は完全に瓦礫と化していた。部分的に湖があった場所は埋まり、あちこちに熔けたガラスや焼け残った建材が散乱している。せっかく築き上げた観光地や街区は一夜で崩壊し、奇妙な泥と砂と水と血が混じり合った地獄絵図が広がっていた。
出資者は財産を失い、救助隊が周囲を探しても銭丸の姿は当然見当たらない。これまでの“爆死”が何度あっても生き延びた男が、今回も例外ではないかもしれないと、人々はまた苦い笑いを浮かべる。しかし自然は無表情なままで、森羅万象が止まらないように、砂漠はまた元の静寂を取り戻しつつあるようだった。
こうして「幻想蜃気楼都市」と呼ばれた大計画は、わずかな華やかさを見せた直後、大自然の猛威と内部トラブルによって砂に没する破滅を迎えた。過去の爆死同様、最後は大爆発と炎上によってすべてが瓦礫と化し、銭丸も同じ運命を辿ったと推測される。
王都に戻った人々が、「これで何度目の爆死だ?」「懲りずにまたやったのか……」と嘆くなか、さして驚きはないというのが現実だ。彼がまだどこかで生きているかもしれないと思う者と、本当に死んだと思う者が半々に別れながら、ただ“再び”という言葉がささやかれるばかり。絶え間ない野望と、それに相応しい巨大な破滅——“蜃気楼都市の崩壊”として、また一つ銭丸の伝説が語り継がれることになった。




