第63章「ブラックホールで爆死!? 重力の果てに賭ける男」
「宇宙開発で月面コロニーまで作ったんだから、まだ先があるだろ? 例えば“ブラックホール”から莫大なエネルギーを取り出すとか、想像を超えた領域が残ってるはずだ! そこを制したら、俺たちは無限の力を手にできるに違いないんだよ!」
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黒峰銭丸は、王都の学術会館で大勢の研究者を前に、相変わらず強引な野心をぶち上げた。月面開発を終えて“爆死”したはずの彼が、なぜかまた姿を見せて動き出しているあたり、人々はもう突っ込むのを半ば諦めている。長い付き合いの水無瀬ひかり、バルド、メルティナさえも「どうせまた無茶を言うんだろう」とあきれながらもついてきている状況だ。
「ブラックホールって……常識的に考えても、まともに近づいたら逃げられなくなる天体ですよ? 光さえ呑み込む重力の怪物と言われてますし、月や星どころじゃない危険度ですよね」
ひかりが書類をめくりつつ呆れたように言うが、銭丸は「そこを魔導研究所の超空間技術でなんとかするのさ。周囲に安全域を作りつつ、ブラックホールからエネルギーを得る理論があるって研究者が言ってたぞ」と意気込む。彼の脳裏には、果てしない“重力の宝庫”から無限の魔力や時空エネルギーを抽出して大儲けするイメージがしっかり固まっているらしい。
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話を聞いたメルティナによれば、ブラックホールの周囲には「事象の地平面」という危険領域があり、そこを超えると何も戻れない。だが近くには“エルゴ領域”と呼ばれる空間があり、そこから“回転エネルギー”を引き出せる可能性があるという。魔導研究所の若い天才らが「理論上、ブラックホールの回転で莫大なエネルギーを得られる」と言い出しているとのことだ。
もちろん、普通の国家や研究所は「危険すぎる」と手を出さないが、銭丸はこれを“究極のフロンティア”と見て大きく出資を募る。バルドが「月面でもあんな惨事になったんだ。これ以上は……」と渋い顔をしても、彼は「月面など序章さ。ブラックホールを開発したら大逆転が待ってる!」と全く聞く耳を持たない。
世界の一部には“超長距離転移”や“重力制御”の研究が進んでおり、銭丸はその断片的な技術をかき集めて「ブラックホール開発プロジェクト」を立ち上げた。出資者には「成功すれば無限に近いエネルギーが生まれ、地上に送れる」「新たな観光・冒険需要も爆発的に増える」と吹聴し、大金を集めることに成功する。ひかりは再び借金の山を見て溜息をつき、バルドとメルティナは嫌な予感に駆られながらも準備に取りかかる。
まずはブラックホールがある宙域へ行く手段を確保しなければならない。月面での経験を踏まえて、さらに強化された魔導飛行船を改造し、“重力制御装置”を搭載。ブラックホールの重力に呑み込まれないよう、転移ゲートと併用しながら安全距離を保つ計画だと銭丸は説明するが、実際に安全が確保できるかは誰にもわからない。
転移ゲートも地上や月との間だけでなく、はるか彼方の宇宙空間に接続することになるが、膨大な魔力と空間座標の計算が要り、メルティナがげっそりするほど大変な作業を強いられる。それでも銭丸が言うには「どうにかなるさ、きっと」と軽い調子だ。
いよいよ準備が整い、銭丸らが“ブラックホール宙域”へ飛び出す日がやってくる。飛行船は特別仕様の魔導炉と重力バリアを備え、一定の安全距離まで近づいてから、転移ゲートを小規模に展開して“周辺”へと渡るという段取りだ。バルドが船を護衛し、ひかりが航行の管理や保険契約を担当し、メルティナは船のシステムを監視する。出資者の一部も乗り込み、「世界初のブラックホール探査ツアー」を見届けようという好奇心から同乗していた。
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転移ゲートの座標を合わせて飛行が始まり、最初は静かな宇宙の闇を航行する。星々の光が輝き、過去の月面開発を思い返せば、さらに遠くの宙域まで来たという実感が高まる。ところが、目的の宙域に近づくにつれ、船のセンサーが異様に高い重力勾配を示し始め、船体がきしむ音を立てだす。
「ブラックホールまでまだ距離があるはずなんだが……こんなに早く重力が強いのか?」
メルティナが計器を見て顔を曇らせる。銭丸は一瞬怯むが、「ここで引き返せるわけがない」と強行を選ぶ。バルドが「船が潰れないようバリアを最強にしろ」と叫ぶが、限界を超えて魔力を使うと炉が持たない。ひかりは絶望感を押し殺して黙るしかない。
さらに船が目的座標へ近づくと、暗い宇宙の先に“渦巻くような深い闇”が見えてくる。周囲の星々が歪み、光が引きずられるような映像が見えたとき、誰もが「あれがブラックホール……」と背筋を凍らせる。予想を超えた重力の圧が船体をぎしぎしと軋ませ、ひかりや乗客は必死にシートへしがみついて悲鳴を抑えていた。
銭丸は「ここだ! ここで“重力制御アンカー”を打ち込む」と声を上げる。なんと彼の計画では、ブラックホールの周辺に制御装置を打ち込み、回転エネルギーを吸い出すシステムを展開しようとしているらしい。研究者が「そんな馬鹿な!」と呆れて止めても、銭丸は「夢を追う男のロマンだ」と笑う。結果、バルドが苦戦しながら制御アンカーを固定する作業を始めるが、強力な重力渦と暗黒の引力が凶悪すぎて、ラインが何度も切れかける。
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ようやくアンカーの半分だけが“安定”したかに思えた瞬間、状況が一変する。周囲の宙域で“重力波”のような波動が発生し、船がまるで波に揺られる小舟のように振り回される。暗黒の中心から奇妙な閃光が走り、付近の時空がやや歪み始めたのをメルティナが計器越しに確認。
「やばい……これは重力波が不規則に放出されてる。下手すると船が引きずり込まれる!」
バルドが必死に回頭させようとしても、アンカーとラインが逆に足枷になっており、簡単には離脱できない。乗客たちは悲鳴を上げ、「こんな地獄に連れてこられるなんて話が違う!」とパニックに陥る。ひかりも制御パネルで緊急転移を試みるが、重力波の影響でゲートが開かず、まるでシールドされたように反応しない。
ここで銭丸がようやく焦りだし、「アンカーを切れ、すぐ逃げるんだ!」と叫ぶものの、ラインの切断装置が正常に動かず、そもそも高負荷で連結がロックされている。あまりに巨大な重力渦に巻き込まれ、船がゆっくりだが確実にブラックホール側へ引っ張られているのがわかる。
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そこへさらに悲劇を呼ぶ現象が襲う。ブラックホールの周囲には“降着円盤”のようなガスやプラズマの流れがあるらしく、ときおり高熱のガスが吹き出す。船がその流れに遭遇し、船体外部が猛烈な高温にさらされ、バリアが急速に弱まる。視界のモニターに赤い警告が点灯し、定員以上にパニックで動き回る客たちが衝突や転倒を重ねて怪我をする。
メルティナはバルドに「制御炉がオーバーヒートする! 冷却が追いつかない!」と叫ぶが、バルドも「そこをなんとかしろ!」と返すしかなく、場は混沌に沈むばかり。結局、最終手段として船内の魔導炉を停止しようにも、既にラインやシステムが壊れ、コントロールが効かない。
銭丸は船の操縦席に突っ込み、「こんなはずじゃなかった……!」と叫びながらスイッチを連打するが、まったく反応しない。重力波の波が次々にやってきて船体を引き裂くように軋ませ、外壁の一部が歪んで宇宙空間に空気が漏れ始める。バルドの護衛部隊が散り散りに飛ばされ、乗客の悲鳴がさらに増幅する。
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最後の瞬間、ブラックホールの重力井戸に入ったかのように、船が加速して落ちていく感覚が訪れる。ほとんどの機器が正常作動を失い、外の映像が奇妙に引き延ばされ、船内がスパークや揺れに満ちる。メルティナが「もうだめだ、これ以上は……」と言いかけるまもなく、銭丸がいつもの断末魔を上げるかのように声を張り上げたのが聞こえた。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。ブラックホール開発は……爆死ッ……!!」
そして轟音とも無音ともつかない圧倒的な衝撃が船を貫き、エネルギーが内部で誘爆を起こして火柱のように燃え上がったように見える。次の瞬間、外壁が破裂し、船内の人々が高次元の重力に呑み込まれて視界から消え、すべてが暗黒の渦にかき消された。
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後日、転移ゲートで待機していた別の観測班が座標をチェックしても、飛行船らしき反応は完全に途絶えていた。近隣の宇宙空間には破片のひとかけらすら検出されず、まるで存在そのものが引きちぎられたかのような消失だったと言われる。地上の出資者は「もはや何もかもおしまいだ」と失意に沈み、王都の人々は「銭丸がブラックホールで爆死したって話、本当か?」「そりゃあれだけ危険なら助かるわけない」と口を合わせて嘆いた。
しかし、これまで何度も“爆死”と言われながら生き延びてきた男だからこそ、一部では「もしかすると時空の狭間に落ちただけで、また戻ってくるんじゃないか」とか「ブラックホールの中心でさえあの男なら生きてる」などと不謹慎な冗談を囁く者もいる。実際のところ、ブラックホールが何を呑み込み、どこへ通じているかは誰も知らず、もはや確かめようがない。
こうして、宇宙を越え、月面を越え、さらにその先の闇にまで手を伸ばそうとした“ブラックホール開発プロジェクト”は、たった一回の近接で大惨事へ終わりを告げた。大いなる力を得ようとし、巨大な借金と危険を顧みなかった銭丸の野望は、すべてが闇に呑まれて姿を消すという、いつも通りの“爆死”の系譜をなぞる格好になっている。
誰も知らない深宇宙の果てで、もし彼が目論見通り莫大なエネルギーを得たのなら、一時的に勝利したのかもしれない。しかし、地上に残された人々にとっては、またしても借金と喪失だけが積み上がり、もう二度と帰らない男の名前を半ば呆れながら口にする毎日が始まる。やはり“最強の発想”と謳った計画さえ、最後はブラックホールの闇に爆散する運命だったのだろうか——月面に続いての宇宙爆死エピソードが、さらに人々の伝説談義を盛り上げているに過ぎない。




