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第39章「大河の運河で爆死!? 国営水路が招く破滅の奔流」

 「この国をもっと豊かにするには、河川をうまく活用すべきだろ? 馬車や陸路だけじゃなく、川を通じて都市同士を結ぶ“運河”を整備すれば、大量の荷物を一気に運べるってわけさ!」


 黒峰銭丸は王都の河岸に立ち、広い川面を眺めながら熱く語った。いつも通り大規模なインフラをターゲットにした無謀な構想だが、彼は口先だけではなく、多くの資料や契約書を用意している。隣には水無瀬ひかりが、半ば呆れながら書類を確認していた。


「運河って、大河を掘り直すわけじゃなく、河川を拡張して街道を結び、船で大量輸送するってことですよね? すごい工事になりそうですが、反対する人も多いんじゃ……」


「貴族や商人も、実はこのアイデアに乗り気な連中が多いんだ。陸路だと日数もコストもかかるし、川がちゃんと整備されれば物流が大幅に増える。投資家は大歓迎さ!」



 銭丸はさっそく市役所や改革派官僚、さらには河川管理を担う貴族にも働きかけ、「国営運河事業」を提案する。長く放置されていた大河の流域に、いくつかの人工水路や運河閘門を設置し、洪水対策と合わせて大型の貨物船が行き来できるように整備する狙いだ。

 バルドは土木工事の安全管理、メルティナは魔導装置を使った水量コントロールをサポート。ひかりは出資契約や工事費の管理を担当する。銭丸は企画の先頭に立ち、「これなら絶対爆死しない」といつものように鼻を高くしている。


「何度も言いますが、大河をいじるって大ごとなんですよ。ちょっとのミスが氾濫や水害を招くかもしれません」


「そこはきちんと対策済みだ。堤防を強化し、魔導で水量を制御すれば、洪水なんか起きようがない!」



 やがて工事が始まり、川沿いに大掛かりな掘削が進む。複数の村や町をつなぐ形で水路を延長し、要所に水門や閘門を設置。貨物船が上下流を行き来できるようにする計画だ。住民からは多少の不安の声も出るが、銭丸が「完成すれば運送が楽になり、商売も活性化する」と説得を重ね、賛成する人も多くなった。


「なかなか盛況ですね。工事現場も活気があります」


「よし、あとは堤防の補強と水門の魔導制御が終われば、一通り完成だ」



 運河の建設が終盤に差しかかり、川幅も広がったことで試験的に小型船が往来を開始する。町の商人たちは「すごい、荷物がまとめて運べる」と喜び、銭丸は「やっぱり当たりだろ?」と高笑い。

 ひかりは工事費用とスケジュールを再確認し、「思っていたより順調ね。でも完成間近がいつも危ない」と警戒を緩めない。バルドやメルティナも最終点検に余念がなく、「今回はきっと大丈夫」と思い始めていた。


「ここでダメなら、まるで川に流されるだけだし……さすがに爆死はないかもですね」


「俺を信用しろ。失敗はもう沢山だよ」



 しかし、大河は自然の力と結びついている。ちょうど工事完成前後のタイミングで、上流に大雨が降り続き、急激に川の水量が増加し始める。いつもなら河川管理が注意を呼びかけるだけで済むが、今回は新しい運河ルートが未完成のまま接続されているため、どこかで水門や堤防が耐えきれないかもしれない。

 銭丸が「大雨なんか想定内だろ? 水門の魔導制御を動かせば回避できる」と豪語するが、メルティナは「まだテスト運転が十分じゃない。もし想定外の水量がきたら、魔導装置に負荷がかかりすぎる」と危惧を表す。


「それでも工期を延ばすわけにもいかない。出資者からの納期プレッシャーが凄いんだよ」


「命より大事な納期なんて……」



 結果的にスケジュール通りに運河を開通させることに決まり、王都を含む下流地域には「近々、大量の荷物を船で運べる」と宣伝を打ち始める。ちょうど大雨が続く中での開通となるが、銭丸は「メルティナが制御すれば大丈夫」と突き進む。バルドは「堤防をもう少し補強しといたほうが……」と提案するが、時間も予算も足りない。


「まあ、ちょっとぐらい増水しても堤防があるから平気さ。さあ、盛大に開通式をやろうじゃないか!」


「本当に……大丈夫ですか?」



 開通式の日、大河沿いには華やかな飾りが施され、貴族や商人、地元民が集まる。銭丸はステージで「これが新時代の物流網だ!」と胸を張って宣言し、試験航行の船が出発する。確かに川幅は拡がり、水門も一見しっかり機能し、運河を通る大型船がゆっくりと動き出す姿に拍手が起きる。

 しかし、上流からの雨は想定を超えて凄まじく、急激な増水が本流を下ってきた。メルティナが制御室で魔導バルブを操作し、溢れそうな水を別ルートに逃がそうとするが、水量が間に合わないほどの勢いらしい。


「ダメ……これ、想像以上の水量だわ! あと少しで堤防を超えるかもしれない!」


「マジかよ……バルド、非常口を開放しろ! どこかで水を逃がさないと!」



 バルドたちが慌てて非常水路を開くが、工事未完の区画からも水が流れ込み、堤防の基礎部分が洗い崩される。しかも魔導制御装置の出力が限界を超え、いくつかの水門がエラーを起こして閉まったままになったり、勝手に開いたりとめちゃくちゃになり始める。

 下流の人々が「なんだ、水位が急激に上がってきたぞ」と悲鳴を上げるころには、既に岸辺や堤防にヒビが生じ、多くの傍観客が慌てふためいて逃げ出す。


「まさかこれほどの雨なんて……くそっ、どうして今……」


 銭丸は必死にメルティナに指示を送るが、装置が故障気味で応答しない。水位ゲージが危険域を振り切ったと同時に、堤防の一部が崩れていく音が響く。



 堤防が決壊し、大河の濁流が一気に運河や周辺地域へ流れ込む。バルドが声を張り上げて「高い場所へ逃げろ!」と叫ぶが、足場が崩れ、水が渦を巻いて押し寄せるため、混乱は止まらない。

 式典ステージを含む広範囲があっという間に冠水し、船や機材が流され、魔導制御の残骸がキラキラと無意味な光を放つ。銭丸は濁流に呑まれながら必死にしがみつくが、次の瞬間大きな木片が突っ込んできて彼を直撃する。


「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。国営運河は……爆死ッ……!!」


 叫びもむなしく、彼の体は濁流に沈み、白い泡と泥がすべてを覆い隠す。大量の土砂と水が激しく渦巻きながら、一帯を水没させていく。



 翌日、王都周辺と新運河地帯は、大規模な洪水被害に見舞われていた。堤防や水門は壊れ、多くの農地や家屋が浸水し、被害総額は計り知れない。新しく完成したはずの運河は残骸と泥の川となり、投資家や商人も「すべて水の泡だ……」と嘆く。

 銭丸の姿はもちろんない。あの濁流に巻き込まれて生きているはずがないと皆が言うが、以前の爆死の例からすれば「死んだかどうかも怪しい」と苦い笑みを浮かべる者もいる。

 こうして「国営の壮大な運河で大儲けする」はずだった事業も、大雨と未完成のインフラ、そして最後の決壊によってすべてが吹き飛ぶ結果に。まさに爆死ならぬ“濁流死”といった一幕――だが、それでもいつものように、銭丸は何食わぬ顔で次のビジネスを画策しているのかもしれない、と一部の人々は嫌な確信を抱いていた。

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