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第30章「国税改革で爆死!? 理想の財政が崩れ去る瞬間」

 「王国の財政が苦しい? だったら税制を根本から変えて、収入を一気に増やし、経済を回すしかないだろ!」


 黒峰銭丸は、王都の政務室に通されるや否や、堂々と大きな紙束をテーブルに広げた。そこには王国の歳入構造や税率の一覧がびっしり並んでいる。彼の隣では水無瀬ひかりが書類を整理しながら小声で「もう少し落ち着いて……」と苦言を漏らす。


「税制改革なんて、保守的な貴族や官僚が黙ってないですよ。ちゃんと根回ししてるんですか?」


「そこは抜かりないさ。今回は王宮の財務官や一部のギルドが“改革派”になってる。俺の案を通せば国全体の税収が爆増するんだ」



 銭丸は財務官たちを前に、現行の税制がいかに無駄が多く、抜け穴があり、既得権益を生み出しているかを丁寧にプレゼン。田畑の分配や貴族の免税特権などを廃し、公平かつ一律の課税システムを導入すれば、長期的には国が豊かになると力説した。


「なるほど。確かに理屈は通っている。だが、利害が衝突するだろう?」


「王国の赤字が深刻だと聞きましたよね? ここで手を打たないと遠からず破綻しますよ。改革はやるしかないんです!」


 王宮の一部役人たちは乗り気だが、やはり反対する貴族も少なくない。しかし、今回は王子や一部の改革派貴族が味方に回っているため、強引にでも試験的に実施する方向で話が進む。



 銭丸の案が批准されるや否や、街では新たな税率や課税方法の準備が始まる。ひかりは「情報周知を怠ると混乱が起きる」と警告し、広報と住民説明会を入念に行う。バルドは暴動に備え、警備強化を指揮。メルティナは「税制に関して私ができることはないけど……」と首をひねりつつも、書類整理を手伝う。


「ここまで準備してるなら、失敗しようがないかも?」


「だろ? これで王宮も俺を“財政コンサルの天才”として評価するさ」


 銭丸が得意満面の笑みを見せ、ひかりは少しばかり呆れつつも、「今回は本当に安全かも」と思い始める。



 実際、最初のうちは大きな混乱も起きなかった。新税制のシステムが稼働し、商人や農民が比較的公平な形で税を納め、免税特権を失った一部の貴族が渋い顔をしている程度だ。王宮の財務官は「おかげで収入が底上げされそうだ」と喜び、改革派は銭丸を称賛する声も聞こえてくる。


「やはり理にかなった税は強い。みんなで分かち合えば、誰も過度に苦しまないし、国も黒字になる……完璧だな」


「ここまで順調だと、逆に不安になりますけどね」



 だが、ある日、旧来からの大貴族たちが強硬な姿勢を見せ始める。免税特権や領地税制の廃止によって収入が激減し、さらに王宮が改革を推し進めていることで面目を潰されているのだ。腹に据えかねた彼らは、官僚の一部や領主クラスの騎士団を動かし、「今回の新税は不当だ」と取り消し運動を始める。


「ここまであからさまに抵抗されるとは……連中、手段を選ばない可能性がある」


「そもそも貴族と領主をいじめる形で改革を進めたら、反発は当然ですよ」


「でも国を守るためだ。引くわけにはいかん」


 バルドが警戒し、ひかりは事務を通して事態を把握しようとするが、裏ではすでにいくつかの貴族が兵を動かし始めたとの情報が漏れ始める。



 銭丸は緊急に改革派の王子や財務官と協議し、「こういうときこそ毅然とした態度で臨むべき」と主張する。王子も「我が国の未来のため」と賛同し、貴族たちを説得しようとするが、まったく聞く耳を持たない者も多い。中には「ならば力ずくで阻止する」と明言する過激派さえ現れる。


「うわ、これ……マジで内乱みたいな流れですよ」


「バルド、兵を集めてくれ。最悪の場合、クーデターまがいの衝突が起きるかもしれん」


「仮に戦闘になれば、銭丸さんも巻き込まれますよ?」


 ひかりが焦って止めようとするが、銭丸は「改革は一歩も引かない!」と意気込む。どうやら国の最上層部も同じ姿勢らしく、真っ向対立の様相が強まっていく。



 ある夜、反対派が急襲を仕掛けたとの報が入り、王都近郊で小競り合いが発生。騎士団の一部と反体制勢力が衝突し、状況がエスカレートしていく。王子や財務官が収拾を図るが、もはや「武力で新税を撤回させる」という動きが止まらないようだ。


「くそっ、俺のビジネスがこんな形で……」


「もう改革は難しいんじゃないですか? 今ならまだ撤回して仕切り直すとか……」


「それじゃ意味がない。中途半端に終わったら、また元に戻るだけだ!」


 銭丸は怒り交じりに反対派貴族と交渉しようとするが、相手はまるで聞く耳を持たない。むしろ「お前が改革をけしかけた張本人か」と恨みを剥き出しにする者さえいる。



 状況が最悪の方向へ進んだのは、反対派が王都周辺を武装集団で包囲し始めたとき。市民が怯え、街が沈黙に包まれる中、銭丸はかろうじて王宮や改革派を説得し、「ここで折れたら国が立ち直らない」と最後の審判に賭ける。

 ところが、改革派が軍を動かす直前、誰かの手で火薬庫が爆発する事件が起きる。王宮近くで起こった大爆発が深夜の空を焦がし、人々を恐怖で凍りつかせた。


「もしかして貴族側がテロを? それとも誰かの陰謀……」


「わからん。でもこの混乱を見て、反対派が一気に攻め込むかもしれない」



 夜明け前、混乱に乗じた貴族兵が王都の入り口を封鎖し、騎士団も一部割れて内戦状態に陥る。戦火が市街地にまで波及し、市民が逃げ惑う。改革派王子は城内に籠城し、「ここで降伏するわけにはいかない」と決意するが、形勢は不利だった。

 銭丸は事の重大さに青ざめながらも、必死で「話し合いを!」と各所にかけ合うが、すでに戦闘は止まらない。町中で火の手が上がり、財務官やギルド関係者も次々に巻き込まれていく。



 王宮の前庭では激しい戦闘が起き、門が破壊されそうになる。そこに銭丸が飛び出し、新税の撤回か妥協案を提示して混乱を収めようとするが、「いまさら遅い!」と反対派兵が剣を振り下ろす。バルドがそれを止めるものの、周囲の火薬庫や倉庫に次々と火が移ってゆく。


「ひかり、早く逃げろ! ここはもう持たない!」


「銭丸さんこそ、こんなところで死んだらただの馬鹿ですよ!」


 しかし熱気と爆音が覆い、視界は煙に包まれる。テロか戦火か、どこからともなく来た衝撃が王宮の壁を崩し、大量の瓦礫が落下。銭丸はその下敷きになりながらも最後の声を上げる。


「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。国税改革は……爆死ッ……!!」


 足元からの連鎖爆発が甲高い音を響かせ、あたりを炎と破片が吹き飛ばす。王宮の一角が大崩壊を起こし、断末魔の叫びもろとも銭丸が瓦礫の下へ沈んでいく。



 翌朝、王都は内戦さながらの爪痕が残り、街が火災や破壊で傷だらけになっていた。新税を断行した改革派は一時的に撤退を余儀なくされ、結果的に旧来貴族の勢力が優勢に。多くの被害と混乱が広がり、騎士団や市民も疲弊しきっている。

 肝心の銭丸の姿は見つからず、あの激しい爆炎で誰もが「死んだに違いない」と断定する。しかし何度同じ場面を見ても、彼が奇跡的に生還してくるのを知る人々は一抹の疑念を抱き、「もしかしたら」と首をかしげていた。


「税制改革がこんな形で終わるなんて……結局、なにも変わらないのか」


「変わらないどころか、下手したら国が内乱状態だ。とんでもない大失敗だな」


 人々が肩を落とし、焼け落ちた城門や市街地の惨状を見つめる。理想の財政改革という美名で始まった大事業は、最後にまさかのクーデター未遂と大爆発で幕を下ろし、銭丸の運命もまた不明――もはやおなじみの結末ながら、その衝撃は国全体を暗いムードで包むのだった。

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