第100章「世界総崩れで爆死!? 奇跡の大逆転か、さらなる輪廻か」
幾多の大事業を立ち上げては、必ず最後に爆発へ沈んできた男、黒峰銭丸。そんな彼が今度こそ“本当に最後の企画”を打ち上げる――という噂が、王都に駆け巡っていた。誰もが「どうせまた壮絶な自爆に違いない」と言いながら、なぜか耳をそばだててしまう。なにしろ過去に数多の爆死を繰り返しながら生存しているのだ。ここに至って、いったい何をしでかすのか、誰もが興味半分、恐怖半分で成り行きを見守るしかない。
◇
王宮の広間には、重臣たちやギルド代表、各国の使節が集まっていた。そこへ入ってきたのは、いつもの仲間たちを従えた黒峰銭丸だった。ふたりの横には、半ば嫌気が差した表情の水無瀬ひかりとバルド、そして疲れ顔のメルティナが控える。王や貴族が冷ややかに銭丸を見つめる中、銭丸は満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「陛下、皆さま、本日は俺の“世界新生の最終計画”をご覧に入れるために来ました。なんだかんだで何度も死に損ないを繰り返してきた俺ですが、今度こそ、この輪廻をぶち破りたい!」
その声に場内がざわつく。「また何を言い出すか」と警戒する者、興味津々で耳をそばだてる者、嘲りの笑みを浮かべる者もいる。王は少し玉座で身を乗り出し、銭丸へ言葉を投げる。
「そなたが何度爆死しても生き延びる“怪異の男”なのは、もはや皆が知るところだが……それがどう世界新生と結びつくのか。まさか今度こそ世界を滅ぼすつもりではあるまいな?」
「もちろん滅ぼすわけありません!」と銭丸は大げさに手を振った。「逆だ。この世界すべてを巻き込んだ大祭典を開いて、すべてをまとめ上げます。あらゆる国、ギルド、種族、宗教、過去の敵対者まで全部――その場で技術や文化を融合し、“新しい時代”を打ち立てる!」
ひかりが控えめにつぶやく。「これまで何度そう言って失敗したことか……」 だが銭丸はまるで聞かない。「爆死はもう卒業、最後の大花火を“成功”に変えるため、王都を舞台に世界新生の祭典を行わせてください!」
王は長い沈黙を経て、興味深そうに頷いた。「面白い。もし成功すれば大いなる利益があるだろう。しかしまた大爆死なら、そなた自身も今度こそ再起不能だろうな?」
「はい、きっぱりと大成功か、完全なる最終爆死か、どちらかです!」と銭丸は胸を張る。その言葉に、メルティナとバルドは胃が痛む思いを抑え、ひかりは「結局“爆死”の可能性は捨てきれてないのね……」と頭を抱えた。
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こうして王の半ば興味半分の許可を得て、黒峰銭丸の“世界新生の大祭典”が現実に動き始めた。王都には大勢の客と装置が集中し、まるでこれまでの“爆死の遺産”を総結集する形で、街を広範囲に飾り立てる。港からは海底リゾートの残骸を引き上げ、郊外には空中広告の気球パーツ、魔王封印の破片、輪廻皇帝の祭壇、愛の大帝国からのウェディング用装飾、電脳研究所のメインフレーム……どれも過去の大失敗を呼んだ原因そのものなのに、銭丸は「全部合わせてこそ奇跡が起きる!」と豪語していた。
ひかりは半泣きで事務処理をこなし、メルティナは制御システムをできるだけ安全にまとめようとするが、どこをどう繋いでも危険が爆発寸前に見える。バルドは「過去最大の混乱が起こるぞ……」とぼやいて周囲を警戒するが、王宮や貴族たちは「もしうまくいけば大儲けだ」と利権に目がくらみ、各国の代表まで集まり始める。まさに最大規模の“爆死会場”が用意されていくわけだ。
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祭典が始まると、王都には空前の賑わいが生まれた。街のあちこちに世界各国からの出店やステージが現れ、竜の秘境を模したコーナー、輪廻宗教のシンボルが飾られた広場、愛の大帝国ゾーン、電脳アトラクション――まるで過去の失敗企画がテーマパーク化しているようだ。
銭丸は興奮気味に笑い、「俺の一生分の失敗を詰め込んだ総合デパートみたいなもんさ。客はみんな楽しんでるだろ? そして最後の儀式で爆死の鎖を断ち切る!」と力説するが、ひかりやバルド、メルティナはもう危険フラグしか感じていない。
客の多くは「こりゃ絶対ヤバいけど、面白そう」と半分ギャグで訪れ、闇商人や闇ギルドのボスも「これで一稼ぎできるなら」と悪だくみの笑みを浮かべる。過去に銭丸と因縁のある連中もこぞってやってきては、「もしまた大爆発するなら拝みに行くか」と冗談交じりに談笑している。
そんな異様な空気の中、銭丸は中心部に巨大ステージを設置し、そこに融合装置(過去の残骸を集結させた魔導仕掛け)を据え付ける。これを動かすことで“世界中の力を統合し、新時代を開く”というのが今回の趣旨だと言う。
ひかりは悲痛な面持ちで制止を試みる。「銭丸さん、これは……危険すぎます。全部を一度に動かすなんて、絶対に制御できません」
しかし銭丸は、「何度死んでも生き残ってきた俺が言うんだ、心配すんな。大丈夫だ!」と例の楽観を貫き通す。バルドは頭を抱えつつも護衛に徹し、メルティナは裏で必死に安全策を拡充するが、いつものように焼け石に水だろう。
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いよいよ祭典当日、王都の広場には多くの貴族やギルド員、異国の使者が集まっている。彼らは銭丸の過去事業で散々痛い目に遭った者も多いが、「今度こそ本当に奇跡が起きるかも」という淡い期待や、ただの好奇心、あるいは「失敗するなら見物だ」という野次馬感覚で一斉に詰めかけた。
銭丸が舞台に登場し、表向きは誇らしげにスピーチをかます。「皆さま、ここに“世界新生の最終儀式”を行います。過去に死んでは蘇りを繰り返してきた俺の経験値を全部注ぎ込み、この輪廻を打破する大発明――統合魔導装置――をお見せしよう!」
拍手や嘲笑、囁きが入り混じりながら、人々が見守る中、装置のスイッチが入る。するとあちこちのブースが連動し、海底リゾートの冷却システムが稼働、空中広告の浮力制御がオーバーロード、魔王封印の断片が震え、輪廻皇帝の祭壇が光りだす……。見ているだけでフラグが満載だ。
最初は華やかな演出として、竜の幻影や花火のような魔力光が空に舞う。観衆が「おお……」と感嘆の声を上げるが、すでにメルティナの端末は危険値が振り切れそうになっている。バルドは身構え、「ここからが問題だ」と汗をかき、ひかりは「撤収したい……」と半泣きで声を震わせる。
ついに装置の中心でコアが脈動を開始し、過去の爆死要因が互いに干渉を始める。冷却と加熱が競合、電脳と魔術が競合、愛の結晶と死霊術が融合、星霊術が輪廻祭壇を刺激し……観客席からは「ヤバい雰囲気だ」と後ずさる声が多数挙がる。
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銭丸は最後までポジティブに「これが頂点……ここを超えれば本当に死なない世界になるんだ!」と叫ぶが、明らかに暴走の気配は過去最大だ。装置が赤熱化し、周囲に電撃が走り、竜の幻影がうねって客席を威嚇し始める。貴族や異国の使者が「うわああっ」と悲鳴を上げ、逃げ出す者が続出。
バルドが「止めるぞ!」と駆け寄るが、銭丸は「あと一歩!」と抵抗。メルティナが停止命令を送り込むが制御不能を示す真っ赤な画面。ひかりは目を伏せ、「結局……同じなのね」と声を震わせる。
そして“とどめ”がやってくる。融合装置が限界突破を告げ、何層もの魔導回路が同時にショートし、火花と稲妻がステージを包む。過去最大の規模で次々に連鎖誘爆が起こり、観客は一斉に悲鳴を上げて四方へ散る。最後に銭丸だけが舞台中央で踏みとどまり、歯を食いしばりながら叫ぶ。
「カ、カネは……裏切らない……女は……たまに……裏切る……。最後の世界再生は……爆死ッ……!!」
いつもと変わらぬパターン――叫んだ瞬間、装置が大爆音とともに爆発の連鎖を始め、膨大な炎と衝撃波がステージから天高く舞い上がる。白昼が赤黒い煙と火柱に包まれ、人々の絶叫や瓦礫の落下が連鎖して、王宮まで揺れ動くような大惨事に発展する。
銭丸は爆風の中心にもろに飲まれ、宙を舞って潰えるように姿を消す。数千人規模の観衆が悲鳴をあげるなか、広場全体が粉々に吹き飛ばされて、一瞬で廃墟と化す絵面は、まさに歴代最高の“世界総崩れ”と言っても過言ではなかった。
◇
翌朝、王都の中心部は焦土に変貌していた。これまでにない規模の深いクレーターと焼け跡が広がり、数えきれない死傷者が出る。捜索隊が掘り起こしても黒峰銭丸の死体は見当たらない。
「こんな凄まじい爆破で、さすがに生きてるわけが……」と皆が呟きながらも、同時に「でもあの男だから」と苦い顔をするのが恒例だ。しかし今度こそ被害が甚大すぎて、「これはもう……生き残るなどありえない」とうなだれる者が大半だ。
ひかりは瓦礫の中を歩き回り、バルドやメルティナと合流して、ただ唇を噛むしかない。「やっぱり……最後までこの結末なのね」と泣き笑い交じりに呟くが、いつものように銭丸がどこからか起き上がる姿はなく、重苦しい静寂だけが響いていた。
こうして**“世界新生の祭典”と銘打たれた超巨大プロジェクトすら、初日で崩壊し、まさに頂点級の爆死オチをもって幕を下ろす。街はまた廃墟が増え、借金と怒りが王都中を駆け巡るが、これまでのループと違うのは、その後に銭丸の音沙汰が一切ない**ことだ。
日が経っても、月が経っても戻ってこない――初めての展開と言えるかもしれない。人々はやがて「あいつもとうとう終わったんだ」と口にしはじめ、それが現実かどうか確証はないが、平穏が戻り始めるのを肌で感じる。もう“待つ”必要はないのだろうと。
◇
そして季節が巡るころ、王都はみるみる復興を進め、立ち直りかけていた。黒峰銭丸がいなくなったことで、爆死が起きる心配も消え、暮らしが落ち着きを見せたのだ。ひかりはギルドで働きながら、「あの人がいてくれたらもう少し退屈しないかも」とふと思い、すぐに「でも死ぬ思いはしたくないわ」と自嘲混じりに笑う。
バルドは護衛仕事に精を出しながらも時折、空や地面を見つめて「もし銭丸がいたら、またくだらない夢を喋り散らしていただろうな」と、あの騒々しさを懐かしむ。メルティナは研究室で「もういい加減、爆発を研究するのやめたい……」と呟きながら、新たな魔導技術の開発に没頭する。
どれも、彼がもたらした負の遺産だけでなく、奇妙な創意をも運んでくれていたと思えば、ほんの少し複雑な感謝にも似た感情が芽生える。
人々はまだ銭丸が復活するかもしれないと薄々勘繰りながらも、いつまで経っても音沙汰はなく、王都を包む空気は穏やかになっていく。こうしてついに**“爆死の輪廻”**は断たれたかもしれない――少なくとも、この世界からは銭丸の足音が消えたのだから。
◇
だが、その夜。街の片隅を散歩していたバルドの耳に、微妙に懐かしい声が……したようなしなかったような。振り向いても誰もいない。かすかに風が「カ、カネは……裏切らない……」と囁いたような気がして、バルドはどこか背筋が震えた。
「まさか、な……」
彼は苦笑しつつ帰路に就く。ひかりやメルティナに報告したら笑われるか呆れられるかだ。再び朝が来れば、いつものように平和な日常がある。ただし、その平穏こそが銭丸がいなくなった証かもしれないし――
こうして、第100章を迎えた**黒峰銭丸の“爆死ループ”**は、史上最大の大爆発を最後に幕を閉じたかのように見える。世界中の力を一箇所に集め、ループを断ち切ろうとした大祭典は、最悪レベルの廃墟を王都に残したのみ。いつものパターンではあっても、その後に銭丸の痕跡が皆無という事実が、前回までと違う。
はたして彼は本当に死に絶えてしまったのか。それとも新たな輪廻へ旅立ったのか――。結論を出せる者は誰もいない。王都の記憶には永遠に“あの男が何度も爆死した”という伝説が刻まれ続けるだけである。
果たして、これは大団円なのか、それとも次への余白か。ひかりはふと夜空を仰ぎ、「あれだけ壮大な最後なら、さすがに……」と小さく呟き、バルドやメルティナもそっと頷く。
未来には何が待つかは誰にも分からない。だが少なくとも、輪廻を超えるその瞬間が来たのなら、いま王都に吹くそよ風こそが、爆死のループを終わらせる静かな祝福なのかもしれない――。
そう思わせるほど、街には確かな安寧が漂っていた。これが本当の終わりなのか、あるいは新しい始まりなのかは、誰にも確信できないまま、物語はここでひとまず幕を下ろす。
「きっともう戻ってこない……」そんな声と「また起きるさ……」という声が混ざり合い、王都の夜は穏やかに更けていくのだった。
――完?――