第二十二話
今俺は男爵領近くの小高い崖にいる。
周囲の情報を得るため、そこから辺りを見回す。
メークイン男爵領は発展しているのか城壁があり、堀もあって防衛力は高いようだった。だが多勢に無勢で数で無理矢理押されている。
いくつかの堀に橋代わりに木の板が置かれ、そこから城壁を攻撃されている様子だ。健闘はしているが、男爵領が陥落するのも時間の問題のように見えた。
うーん、とりあえずあの堀に渡されている木の板を壊そうかな。直ぐにマリーちゃん達に報告しに帰ってもいいけど、メークイン男爵側押されてるし、ちょっと手伝ってからいこう。
えーとどこかに手頃な石は...。
あったあった。10個ぐらい集めて、と。
わざわざ堀の近くまで行って木の板を壊すことはしない。見つかったら大変だからね。囲まれて袋叩きにあってしまうのはゴメンだ。だから俺は遠距離から石を当てて壊そうと考えた。
結構頑丈そうな板だけど、魔人の肩の強さならイケる気がするんだよね。あー俺でも前世ノーコンだったから板に当てれるかなあ?
会社の運動会的なもので野球を遊んだ時、ピッチャーを押しつけられたことがある。その時に投げたボールがすっぽ抜けて、キャッチャーの頭上10メートルにストライクしたのは苦い思い出だ。俺は一回投げただけで降板になった。
しかし今の俺は魔人!一味も二味も違うぜ!
今回はよーく狙って...。
ダッシャアッ!!!
思いっきりぶん投げた石は淡く発光しながら凄い勢い木の板まで飛んでいく。あれ?石から俺の魔力を感じる。
そして狙い通りの場所へ飛んでいったのは良いが...なんかスピード出過ぎじゃない?投げた石からソニックブームが出てるんですけど。音速超えてるじゃん。
ドッガァン!
おおよそ小石がぶつかった様なものではない音が聞こえた。
う、うわあ。堀の上からクレーターができとる...。もちろん木の板は木っ端微塵。
しかも今ので敵の兵士も何十人か倒したようだ。な、南無。
よ、よし!気を取り直して次の板も頑張って壊すぞー!
自分で自分を鼓舞する。ぶっちゃけこれ石投げてたら相手全滅するでしょ?とか思いつつも気づかないフリをした。
だって命の危険を覚悟してきたのにこんなイージーとは思わないじゃん!魔人のスペックが俺の想像を遥かに超えてるんだよ!しょうがねーじゃねーか!
敵の軍は混乱して、何が起こっているか分かっていない様子だ。今のうちに木の板を全部壊してしまおう。
よし。見える木の板は全て壊した。
そろそろマリーちゃん達に報告に行こう。結構待たせちゃってるから心配されてるかも知れない。
...?
あれ?相手の軍が撤退し始めてる...。
丁度よかった。早く戻ろう。
ーーー
マリーちゃん達の元へ戻ると何やら揉めていた。
「離して!早く魔人様を助けないと!!」
「マリー様!危険です!魔人様が戻らないような強敵がいたら、我々では太刀打ちできません!今一度どうか冷静に!」
「離してえ!魔人様ぁ!いやあああ!」
な、なんかマリーちゃんが護衛騎士に、羽交い締めにされながら涙と鼻水を垂らして暴れている。もしかして俺死んだと思われてる?...やっぱり偵察にしては時間かけ過ぎちゃったかな。
「あ、あの...只今戻りました。...遅くなって申し訳ありません。」
凄く言い出しづらかった。
皆さんがキョトンとこちらを見る。
や、やめてぇ。注目しないでぇ...。反省してますぅ...。
暴れるのを止めたと感じた護衛騎士はマリーちゃんを解放した。
「ふん!!別にアンタのことなんか心配なんかしてなかったんだからね!」
「...そうですか。」
...真っ赤に充血した目と涙跡が見える。
無理がありすぎるが、どうにかツッコミを堪えることができた。
後からメイドさんやカズラさんに話を聞くと、俺が石ころを投げた音で戦闘が起こったと思い、帰りが遅かったのでそれで死んだ、又は戦闘不能になっていたと思われていたらしい。全部俺のせいです。すみませんでした。
そして俺はメークイン男爵領が攻められていることを話した。板の橋を壊したことも話たら、あのデカい音はお前のせいかよ、と責めるような視線で見られる。重ね重ね申し訳ありませんでした。次からは報連相をしっかりしたいと思います!
俺が敵軍が撤退していたことを話すと、じゃあ今メークイン男爵領に入る絶好のチャンス、ということで男爵領に向かっている。
しばらくして城門前に着いた。
男爵領側の敵軍との勘違いによる誤射に気をつけながら城門の前に立ち、マリーちゃんが声を張り上げる。
「メークイン男爵!妾よ!マリー・ゴールドよ!敵ではないわ!城門を開けてほしいの!」
事前にマリーちゃんは後から男爵と合流する手筈だったらしいが、敵軍と交戦した直後だと疑心暗鬼になってるはず。本物と信じて開けてくれるかな?魔法を使ってマリー王女に化けてる偽物だ!とかになったりしない?
とりあえずいつでも守れる準備をしておこう。
と思ったのは杞憂で、大きな音を立てながら城門が開く。
さて、メークイン男爵とはどんな人物なんだろうか。




