序章〜王女の導き〜
その日の獲物は、兎の魔獣だった。
大きさはそれほどでもなかったが、動く速さは通常の兎を軽く凌駕しており、口元から覗かせる牙も殺傷力の高さをうかがわせる鋭さである。
本来であれば、1体でも厄介だが、その日のリードはついてなかった。同時に2体の魔兎に囲まれていた。
「魔兎が複数、どうしてこんな浅い森に魔獣が現れるんだよ」
と悪態をつきながら、剣を低く構える。
先に攻撃を仕掛けたのはリードだった。直線にジャンプして噛み付くのが得意な魔兎の攻撃を逆手に取り、わざと隙を作って、1匹の魔兎が自分の首筋目掛けてジャンプしてきたところを後ろに飛びつつ、下段からの突き上げで攻撃する。
「残り1匹」
突き刺した魔兎はだいたい10キロくらいだろうか。腹から尻尾の付け根にかけて剣を突き刺された魔兎は絶命し、ずっしりとその身をリードに預ける。
リードはすぐさま魔兎から剣を抜くと、もう1匹の魔兎の方へと剣を向け、体勢を立て直す。
一対一であれば、負けることは考えにくい。兎型の魔獣は魔獣の中でも最低クラスである。素人からしたら厄介でも、修練を詰んだ冒険者の敵ではなかった。
魔兎はジグザグに飛びながら、リードへと突撃してきた、得意の直線ジャンプを捨てた小細工であった。
当然、屈んでこの攻撃をかわすと同時に後ろから魔兎を両断する。一度のかがんだことで剣に勢いがつき、魔兎はお尻から頭にかけて両断される。
少し安堵したリードであったが、陰から自分に向かってくる物体に気づいた。
「くっ、もう1匹いたか」
気づいた時にはすでに遅かった。大きく剣を振った為、隙は大きかった上、魔獣を2体倒して、少し安心してしまっていたのである。
魔兎の鋭い牙は、矢のような軌道を描いてリードの喉元に突き刺さる......
突き刺さるはずだった。
「危ない、危ない、今のは本当にやばかった」
魔兎の牙が突き刺さる直前、リードはスキルを発動したのである。結果からいうと、魔兎の攻撃はリードに当たらなかった。
「まさか、自分を囮に仲間の攻撃を当てにくるとはな」
と苦笑しつつ、リードの後ろの木に牙を突き刺したまま動けなくなっている魔兎を刺突してとどめを刺す。
「流石にもういないよな」
あたりを警戒するが、魔獣の気配はない。
「スキルの発動も見られてないっと」
彼はそう言いながら、剣を鞘におさめ、倒した魔兎の回収を始めた。
ーーーーーーーーーーーーアンファングの街
「結構重いな」
リードは、先ほど倒した魔兎3頭を抱えて街に戻る。
「リード、お疲れさん、今日は大量だな」
見張りのおじさんが重そうに荷物を抱えているリードに声をかける。
「あぁ、食用の肉をなんでもいいから狩ってきて欲しいって依頼だったんだけど、森で魔兎に囲まれちゃってね、
もう少しでこっちが肉になるところだったよ」
そう言いながら、荷物の検査を簡単に終わらせると、街へ入っていく。
アンファングの街は、規模で言えば人口約700、800人ほどの街であり、近くの村々から若者がギルド目当てで出稼ぎにくる関係で、それなりに栄えている。
リードも出稼ぎを目的に故郷の村からでて、この街で冒険者として働いていた。
ーーー冒険者ギルドーーー
冒険者ギルドに入ると、リードは魔兎を買い取ってもらう。
「今日の獲物は魔兎だよ。3匹も同時に出てきて苦戦したさ。」
リードは苦笑しながらそう言うと、血抜きをした魔兎をカウンターに預ける。
「これは、大量ですね!魔獣なんてここいらじゃあんまり出ないのに......お怪我はされていませんか?」
受付の女性だ。
「危なかったけど、大丈夫だったよ、怪我はない」
全身に怪我がないことをアピールしながら、受付の女性に答える。
「リードさん!兎型の魔獣といえど、3体同時に倒すなんてそろそろD級冒険者ですね!」
怪我がないことを確認した女性は、嬉しそうにそういった。
「いやいや、まだまだだよ、実際危ない場面もあったし」
リードは謙遜したが、女性の言うことは間違いない。
リードの冒険者ランクはE級
G級からA級まであるギルドのランクは、冒険者の実力や経験が反映されている。
G級は、見習い。主に薬草の採集や小さい動物の狩などの依頼を行う。
F級は、見習い卒業レベルである。冒険者に必要な基礎をG級で学んだと見なされ、簡単な狩猟や採集がメインとなる。
E級は、脱初心者レベル。狩猟・採集で冒険者としての経験を積み、一人前を名乗れるのがこのレベル。
D級は、冒険者としては中堅に差し掛かるレベルであり、普通の獣だけでなく魔獣の討伐なども行う。
C級は、魔獣を一人でしっかりと狩れるレベルである。ここまでくるとベテランと呼ばれる。
B級以上は、魔物の討伐やそれに準ずる依頼を行う。
基本的には、国に数人在籍する程度で、実力はもちろん、ちょっとした特権階級のような冒険者である。
冒険者ギルドは、主に狩猟採集の依頼の仲介、狩猟した獲物の買取なんかを引き受けており、アンファングのような小規模な街では重要な機関として役立っている。
「では、魔兎一頭の討伐報酬が銅貨4枚なので、計12枚、それにプラスして特定魔獣討伐報酬として銅貨3枚が支払われれるので、報酬は銅貨15枚となります」
受付の女性は丁寧に枚数を数えながら、リードへと報酬を渡す。
「ありがとう、今日は沢山稼げたんで、美味しいものでも食べるよ!」
想像以上に報酬が多かった為、リードは少し機嫌が良くなった。
ギルドから出ると、リードは宿に荷物を置きにいく。
「おっちゃん、串焼き2つ」
リードは出店で立ち止まると串焼きを注文した。
「はいよ、銅貨1枚ね」
どうやらタイミングが良かったようで、すぐに串焼きを受け取ることができた。
お世話になっている宿の宿代は朝食つき、個室で銅貨2枚。
かなり良心的な値段である。
リードは宿に着くと、すぐに串焼きを食べ、宿屋の娘に駄賃をあげて水をもらい体を拭いてから、眠りについた。




