11. ティンガ国と王様
常夏と称される南国ティンガ。
陽気な音楽が流れ、露店が所狭しと並んでいるため活気がある。
ハイビスカスの咲き乱れる舗装された先に海のような青を基調とした城が見えた。
「ようこそ、ティンガ国へ。この日が来るのをずっと待ってた。」
「?」
「ふふ。前にも話したけど、僕は幼い頃からずっと君のことが好きだったからね。父からソフィが婚約者になったって聞いた日から楽しみにしていたんだ。」
「…そうだったの。」
「あ、また申し訳なさそうな顔してる。僕は誰かを責めるつもりなんてないよ。ただ、心から嬉しいってことを伝えたいだけ。だから笑って、ソフィ。」
そう言った彼の満面の笑みにつられる様にソフィアも笑顔を見せれば満足げな表情をしている。
そんな彼女を甲板から船内の馬車へと促し、城へと移動すれば周りから物珍しそうな視線が送られてきていた。
「視線が気になる?」
「ええ、皆様とても不思議そうな顔をされていたように見えたので…。」
「ティンガでは馬車は殆ど使われないんだよ。仲違いをしてから他国との交流も少なくなったから久しぶりに見たんじゃないかな。」
「馬車を使われないのならどのように移動を?」
「カヌーで移動したりすることもあるけど基本は徒歩だね。」
「徒歩で…納得です。道行く方々がとても良い身体つきをされているのは漁業が盛んなお国柄というのもあるのでしょうけど移動手段を他を頼らないというのもあるのですね。」
窓の外へ視線を向けながら近づいてくる城を眺めていると5分もかからないうちにたどり着いたようで馬車の扉が開けられ、外へと促された。
ティンガ国の王とは直接会ったことはないが、以前屋敷で聞いた噂では気難しく怖い人物であるという。
伯爵令嬢として幼い頃から礼節を重んじるように育てられてきたとはいえ、ティンガ国特有の文化に対応できるとは思えない。
それにだ。
レオンハルトと彼の父である王と仲違いした原因が婚約者の私という存在である。
いくら王子が望んでくれているとはいえ、許されるのだろうか。
そんなことを考えながら案内されるがまま城内へと足を踏み入れれば隅々まで掃除の行き届いた綺麗な調度品の数々。
島国であり海風の吹くティンガの土地柄ゆえに大きな城ではないとはいえ、伝統的な手法を使って施された木彫りは精巧なものばかりだ。
緊張しながらも物珍しさに視線を彷徨わせていると中央にある大きな木製の階段。
上段に見えた人影に視線を向ければ、厳しい表情を浮かべた筋骨隆々な男性が鋭い視線のままこちらを見ている。
「父上、そんなところで何を?」
「いや、私はただ…。」
「陛下、あちらがソフィア・フォン・レオルディーネ伯爵令嬢です。」
「…幼い頃に見て以来だが、とても綺麗な女性に成長していて少し緊張するな。」
「父上!ソフィは僕の婚約者ですからね。いくら父上にとってもお気に入りとはいえ、ダメですよ。」
「そうか。ダメなのか。」
「何残念そうにしているんですか!ソフィ、父上に絆されたりしたら僕拗ねるからね。」
彼らの会話についていけなさ過ぎて黙っていた彼女だったが突然振られたその言葉にあたふたと視線を彷徨わせていた。
「陛下も殿下も落ち着いてください。ソフィア様が困惑されています。」
「あぁ、すまない。私もソフィアに会えた喜びが先走ってしまった。船旅とはいえ、疲れがあるだろう。ゼブ、部屋へ案内してくれるか。」
「はい。ソフィア様、こちらへ。」
ゼブと呼ばれた男性はさり気ない動作でソフィアを支えながら客室へと案内していく。
緊張から真っ青な顔色をしていた彼女への配慮だろう。
クイーンサイズのベッドへと腰かけさせると片膝を付き、ソフィアの様子を伺っている。
「殿下から話は伺っていましたが、貴女は無理をし過ぎですよ。」
「?」
「ゼブは父上の付き人でもあるし、国一の医者でもあるんだよ。」
「お医者様…。」
「心労を甘く見てはいけませんよ。ティンガでは全てお忘れになってゆったりとお過ごし下さいね。」
「ありがとうございます。」
「それと、陛下に緊張されていたみたいですがその必要はありません。気難しいや怖いといった噂もされているようですが、先ほど階段で立っていらっしゃったのはソフィア様が来られるのが待ちきれなくて落ち着きがなかっただけですよ。」
「私を…ですか?」
「それ、僕はあんまり嬉しくないんだけど。」
「ソフィア様を見初められたのは陛下ですから。」
その言葉に納得できないエリスはため息を零しながら少し顔色の改善されたソフィアに安心したような表情を見せるのだった。




