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10. 船旅

馬車に揺られながら窓の外に視線を向けている彼女に心配そうな表情をするエリス。

この前会ったときは笑顔を見せてくれていたのに少し痩せたのか。

青白くなった肌が消えてしまいそうなほど彼女を儚く見せ、声を掛けずにはいられなかった。


「ソフィ、大丈夫?」


「…え?」


「魔王のことが気になるのかな。」


「ちゃんと挨拶も出来なかったので…。」


「優しいところも変わってないね。でも今はソフィの心の休息を第一に考えよう。」


ソフィアを安心させるようにそう伝えながら寝ぐせのあった髪を優しく撫でる。

ふと視線を車内へと戻した彼女の頬が赤くなるのが見えた。


「どうしたの?」


「わ、わたくし王子様の前なのにこんな姿で…。」


「僕を心配して急いできてくれたのが伝わってきてすごく嬉しかった。だから気にする必要はないんだよ。それに、魔王が君にプレゼントした物じゃなく僕が君にプレゼントした物を着て欲しいからね。船に色々準備したんだ。」


彼はそう言うと彼女を抱き上げ馬車から下りていく。

外に出るといつの間に船内に移動したのか。

少し揺れを感じる。

とはいえ優しい手つきでしっかりと支えられているため、不安は感じなかった。

本来であれば抱き上げられる等恥ずかしい行為でしかないのだが、靄が掛かったように頭の中がボーっとしており深く考えられない。

そのまま連れられたのは白を基調にした広い部屋でクイーンサイズのベッドへソフィアを座らせると手の甲にキスを落としてから部屋を出ていった。

彼女が着替えられるように席を外したのだろう。

それと同時に先ほどまで頭を下げたまま微動だにしなかった侍女達が身なりを整えるべく動き始める。

寝ぐせのついた髪を解かされ編み込みハーフアップに整えていく。

1週間も眠っていたことで血色の悪くなった肌には少量のファンデとチークを付け、少し荒れた唇に整える程度のリップを塗ればいつも通りのソフィアの姿へと変わっていった。

ドレスは押し花でみたピンク色のハイビスカスと同じ色で、病み上がりに配慮してシフォンドレスへと着替えさせる。

彼女達の細やかな配慮は王室付き侍女のすごさを再確認させられるものだった。

全ての準備が整うと侍女の一人が扉を開けば、ずっとそこで待っていたであろうエリスが微笑みながらこちらを見ている。


「綺麗だよ。」


素直な感想を率直に述べる彼の姿に顔に熱が集まるのを感じ居た堪れない。

先程までの頭の中の靄も着替えている間にスッキリとしたこともあり、色々と一気に思い出して恥ずかしいと視線をそらした。


「僕のお姫様、こっちを見て。」


そう促されたら見ないわけにもいかず視線を動かせばいつの間に移動したのだろう。

彼は片膝をついてソフィアの左手を取るとその薬指に指輪をそっと嵌めていく。

ルシフェルの近くでは感じたことのない安心感に気を取られ、指輪を拒否することが出来なかった。

ゆっくり立ち上がって彼女の手を取りエスコートして向かった先は海が一望できる広いデッキで席へと案内する。

二人が座ったのを確認すると次々と運ばれてくる料理の数々。

南国の花がいくつも盛り付けに使われており、見ているだけで楽しくなるような物ばかりだ。


「まだ病み上がりだから少し薄味になっているけど、ティンガの料理だよ。」


「とても綺麗…。」


「舌だけでなく目でも楽しむ料理。それがティンガ伝統の料理方法なんだ。」


そう言った彼は端で待機している侍女や給仕達を下がらせる。

二人だけの空間に静かに聞こえてくる南国特有の音楽に耳を澄ましていると、目の前に座っていたエリスも目を閉じて耳を傾け始めた。

しばらくそうしていたが、彼から聞こえた空腹を主張する音に思わずソフィアは笑みを零しつられるようにエリスも笑みを浮かべる。


「僕は音楽より食欲が勝ったみたいだ。」


「ふふふ。わたくしもお腹が空いていたので同じです。」


「やっと笑ってくれた。」


人形のように表情を失くしていた彼女の口元に浮かべられた笑みはあの時と同じで、彼は自分が心の底から安心しているのを感じた。

魔王から話を聞いていたとはいえ、いつでも気丈に振る舞う彼女が心労で倒れるなど想像もできない。

だが、会わない数日の間で何があったのだと思ってしまうほど怯えた表情を浮かべる姿を見て今すぐにでもここから離さなくてはという使命感に駆られた。

それは彼女自身の意見を聞かずに強引に連れ来ることになってしまったため少なからず後悔している。

だが、クスクスと笑い声を零すソフィを見ていれば連れてきて正解だったと自信を持っていうことが出来た。

心の休息のために一時的等という言葉を交わしていたが、二度と魔王の所に返すつもりはない。

そう心に誓うのだった。

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