第二十話「鳴帝国」
第三者視点ー
ハルデヴィアン王国から
更に東へ進むと、
軍事力に長けた大きな国がある。
その国の名こそ、鳴帝国だ。
前皇帝が死に、
現皇帝の子供である皇子皇女らが
前線に赴くようになってから、
鳴帝国は小国から大帝国へと成った。
そんな鳴の赤壁の和風な城の敷地内では、
大勢の人と馬が集められていた。
仲雲「蒼炎さま!蒼炎さまー!」
蒼炎「煩いなぁ。そんなに大声で呼ばなくても聞こえてるっつの。」
鳴帝国第二皇女の蒼炎。
全体は白いが、毛先は青色の髪の彼女は、
皇族らしくない振る舞いで名を馳せていた。
そんな彼女を大声で呼ぶ仲雲。
彼女の従者である。
仲雲「馬上では着物が汚れてしまいます。輿をお使いになられては?」
蒼炎「そんな訳にはいかないしぃ。これだけ多くの兵を率いるのに、僕が馬に乗らないで如何するんだよ。」
蒼炎の後ろには幾万、幾千もの兵が
重装備で馬に乗っている。
鳴帝国はこれから、
ハルデヴィアン王国へと攻め入るのだ。
蒼炎はその道中の先頭を任せられ、
少しばかり緊張していた。
そして何を思ったのか、
突然着ていた着物を脱ぎだした。
奇怪な行動に、その場に居た全員が驚く。
仲雲「な、何をなさっているんですか!?」
蒼炎「着物が汚れるのが気になるなら、脱いでしまえば良いんだよ。そしたら馬でも大丈夫だろ。」
下に洋服を着ていたようで、
着ていた着物をその場に投げ捨てると、
「やっぱりいつもの服が楽だよなぁ」
と言いながら蒼炎は軽々と馬に乗った。
彼女の皇女らしからぬ行動に、
皆呆気にとられ、開いた口が塞がらない。
すると其処へ、新しい足音が聞こえてくる。
紅水「…結局いつもの服か。……着替えた意味がなかったな。」
鳴帝国第一皇女の紅水。
彼女は蒼炎とは逆で、
白髪に毛の生え際が赤色になっている。
ストレートな蒼炎と違って、
紅水はかなりの癖毛だ。
動く度に髪の毛がふわふわと揺れる。
そして薄着の蒼炎に比べて、
紅水はとても厚着だった。
彼女は白のマフラーに顔を埋めながら
馬に乗って蒼炎の元へやって来た。
蒼炎「お、姉貴ぃ。先頭の僕だけ正装とか嫌だしさ、やっぱりこの服が一番だよ。」
紅水「その変な呼び名、いい加減止めないか。」
蒼炎「姉貴は姉貴だもん。今更変えられないさぁ。」
蒼炎は、兄達のことを名前で呼ぶが、
紅水だけは「姉貴」と呼んでいる。
それは紅水が蒼炎にとって
唯一無二の"姉"であるからだ。
平然と会話を進めていた二人だったが、
紅水はふと蒼炎の異変に気付いた。
紅水「……緊張しているのか。」
蒼炎の手は微かながら震えていた。
観察力の長けている紅水は、
それに気付いたのだ。
蒼炎は抑えるように両手を組むと、
苦笑いを浮かべた。
蒼炎「少しだけ。先頭は一番前が見えているから、的確な判断をして、後ろに指示を出すことで兵士を守らなきゃいけないし。」
こんなに弱々しい妹を初めて見た紅水は、
かける言葉が見つからず、
ただ彼女の表情を見つめるだけだった。
そんな彼女の元に、一つの助け舟が現れる。
黄光「大丈夫だよ蒼炎。ハルデヴィアンは軍事力が弱い、手を抜いたって負けやしないさ。」
鳴帝国第三皇子の黄光。
白髪にハチの部分が黄色の髪に、
アシンメトリーの前髪が特徴的な皇子だ。
見た目は可愛らしいのだが、
その中身は戦いを好む戦闘狂。
彼は紅水と蒼炎の話を聞いていたのか、
後ろから馬に乗って会話に混ざってきた。
弟の出現に紅水はホッと胸を撫で下ろす。
黄光「それに、君の後ろには僕や紅水達が控えているからね。判断を誤ったとしても、兵士は僕らが守るから安心して。」
蒼炎「…嗚呼、頼むよ。」
蒼炎は、黄光の言葉に勇気ずけられたのか、
ニカッと笑い「ありがとう」と言った。
頼りのある弟に感心しながら、
紅水は後ろへ戻って行き、
黄光も蒼炎の背中を叩くと戻って行った。
姉弟二人に励まされた蒼炎は、
もう緊張の表情はなくなり、
いつも通りその顔には笑顔を浮かべていた。
蒼炎「それじゃあ、そろそろ行くとするかぁ!新しい鳴を迎えに!」
そこ一声を合図に、
鳴の軍勢はハルデヴィアンに向けて
一斉に動きだした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
少女「痛い!痛いぃぃいいいっっ!!ぁ"あ"ぁあ"あっ!!!」
少女は生まれて初めて感じる
強烈な痛みに悶えていた。
顔を両手で覆い、
床に転がり痛みに耐える姿は、
誰が見ても痛々しく哀れだった。
悶える少女の傍らには、
一人の男性が立っており、
彼はただ少女を視界に入れるだけで、
何処か違う光景を見ているようだった。
すると、暗闇の中に一筋の光が入った。
それはだんだん大きくなり、
其処から金髪の女性が現れた。
双子神「あーあ、これは…、随分と惨いことをしたな。」
双子神『あらあら、まぁ…可哀想。とても痛いでしょうに。』
双子神だった。
フレイとフレイアではなく、
双子神として姿を現していた。
なので、一つの体が、
この惨状に別々の感想を言う。
声も全く違う。
双子神は少女に近付くと、傷口を見た。
双子神「痕残りそうだなー。嫁入り前だってのに何してんだよ。」
双子神『この子が何か失敗を犯してしまったのかしら?でなきゃこんな仕打ちは出来ないわ。』
双子神が問うように話すが、
男性は一点を見つめたまま
口を開こうとしない。
そんな姿に呆れながらも、
双子神は一方的に話す。
そして彼の顔を覗きながら言った。
双子神「『自分の娘の顔を削ぐなんて。』」




