終章 -二人の空-
生前、アリは言っていた。
自分とエステルとは、ともに、一枚の翼しか持っていない。だから一人では、空を飛べない。
けれども、二人で手を取り合えば、きっと、どこまでも飛んでいけるだろう、と。
そう言ったアリの姿を思い出すたび、私は思うのだ。
その空は、誰の、あるいは何の空なのだろう、と。
あの日響いた銃声を、私は生涯忘れない。
アリとエステル。対立する二つの流れの中に生まれながら、最後には心を通わせた、あの二人が抱いた夢の、あれが終わりであったと、私は信じたくない。
そしてだからこそ、終わらせるまいと心に誓う。
私にとって、世界はどこまでも広かった。
個人の上には、それは無限なまでに広いから。
けれども、国の上には、民族の上には、空はとても、とても狭くなる。
あの二人が飛ぼうとしていた空は、いったい、どういう空であったのだろうか。
それを私が理解する日は、永遠に来ないだろう。
何故なら、私はあの二人のように、劇的にも、非凡にも、生まれつかなかったから。
彼らがそう生まれたことは、祝福であったのだろうか。それとも、呪いであったのだろうか。
私には、わからない。
ただ、祝福であるべきだ、とは、信じている。
サラーム・アレイクム。
シャローム・アレイヘム。
あなた方の上に、どうか、平和があるように。
―「二人の空」完―




