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二人の空  作者: 蒼久斎
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エキジビション


 上位入賞者のエキジビションは、採点のないお祭りだからか、本番の演技よりものびのび、生き生きした滑りが見られるので、私は実を言うと、本番よりもエキジビションを見るのが楽しい。

 コンスタントに上位に入賞するようになって、アリはエキジビション用のプログラムも組むようになっていた。

 新しいエキジビション・プログラムでの滑りが見られるとあって、私は大変、弾んだ気分で会場に向かった。

 リンクでは、すでに選手たちが、ウォーミングアップを兼ねた滑走を行っていた。アリは、白を基調にした衣装を着ていた。見たことのない衣装に、見たことのないプログラムを期待して、私はときめいた。

 それから、会場内を見渡して、エステルがいない、と思った。

 あんな重苦しい演技を連続で披露してくれてはいるが、彼女は女子の優勝者である。エキジビションに出ないわけはないだろう。

 妙だな、と思いながら目を凝らす。

 ようやく、彼女の顔を見つけて、それから、本番とはあまりに毛色の違う衣装に、思わず口を開けた。

 本番の時の、黒系の衣装と、重苦しい顔で探しても、見つからない道理だ。彼女は明色の衣装を着て、信じがたいほど朗らかに笑っていたのだから。

 薄水色の衣装に、肌色のタイツ。ただ、開いたように見える背中は肌色の布で、相変わらず、徹底して肌を見せない。別に、是非とも彼女の背中を見たいわけではないが、少々、気にかかった。

 アイスダンス、ペア、男子、女子と、順位が高い方へ向けて、お祭りが始まっていく。

 これでいくと、最終滑走はエステルである。頼むから、ここでまで重苦しいことはしてくれるなよと、半ば祈るような気持ちで、珍しく笑っている少女を見る。

 それにしても、ああ屈託なく笑っていると、異様に幼く見える。本番は十五歳よりも大人びて見えるが、今の彼女は、表情だけ見るなら、十三歳と言われたって納得できそうなほどだ。

 楽しいお祭りは順調に進んでいき、時には転倒などのご愛敬も交えつつ、アリの順番になる。

 本番は歌の入った曲は使えないのだが、エキジビションは歌入りの曲を使っても良い。それで、それを生かさないのはもったいないとばかりに、ほとんどの選手が、ヴォーカル付きの曲を用いている。

 アリもその例にもれず、お気に入りの歌手の歌で、のびのびと、そしてダイナミックな演技を開始する。私はよく知らないのだが、トルコのポップシンガーだそうで、エスニック系のメロディラインが、実に良くアリに似合っていると、私は思っている。

 茶目っ気たっぷりの笑顔で、ウィンクを飛ばしながら踊るアリは、二年前よりずっと大人びて見えた。失敗を恐れて挑まなかった、高難度の技にも果敢に挑み、より大きな空へ、羽ばたこうとしているようだ。

 ひときわ高く、アリが跳躍した。

 四回転ジャンプ。

 綺麗に決まった着氷に、小さくガッツポーズを見せる彼の笑顔を、私は微笑ましい気分で見ていた。次は、是非、本番で成功を見たいところである。

 女子の二位のエキジビションが終わると、いよいよ、各一位のエキジビション演技の開始となる。

 優勝にふさわしい貫禄の演技が続くが、最後の女子一位であるエステルの登場には、会場が困惑するのが分かった。

 練習中こそ笑顔を見せていたが、皆どこかで、彼女は今回も、例のピリピリした顔で登場するのだと思っていたものらしい。しかし、エステルは、本番での演技が幻であったかのような、子どもっぽい仕草で、リンク上へと飛び出してきた。

 それから、まるで楽しい悪戯でも始めるかのように、片足で拍を取りながら、右腕を振った。

 アップテンポのユーロビートに、会場がどよめく。並みのスケーターなら、ついていくだけで精一杯か、それすらも難しい速度の曲に、いやみだと感じることすら忘れるほどあっさりと乗って見せながら、彼女は満面の笑顔で踊り始める。

 色っぽいと言うよりは、むしろ、苦笑しながら、可愛いなと言いたくなるような、そんな投げキッスなど交えつつも、きっちり、高難度の技を決めてくる。

 ハイスピードでエッジの切り替えをしながら、頭上で両手を叩き合わせ、観客に拍手を要求する。

 数えてみると、彼女が四ステップ踏む間に、一回の拍手だから、ちょうど四拍子であった。

 フィニッシュは高速スピンだ。これはショートプログラムと同じだが、あの時の恐ろしさなど、微塵も感じさせない。むしろ、最後の盛り上がりに、時間の経過を惜しく思わせさえする。

 フィニッシュポーズを決めた瞬間、会場から拍手がわき起こった。本番のどちらの演技の時にも聞かれなかった、温かい包み込むような拍手だった。

 フィナーレを終えて、私はどこか、幸せな気分で、会場を後にした。

 その日、アリから電話は掛かってこなかった。

 ラウルに電話をしてみようかと思って、私は、もう少し様子を見ることにしよう、と思い直した。

 あのエステルのエキジビションに、彼は何かを感じたのだろうか。あるいは、本番とエキジビションとの差に。



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