第24話 世界の七禁忌
翌朝、レグナ卿はいつもより厳しい顔でギルドへ来た。手には、黒い革紐で縛られた古い写本があった。王国魔導院の印はない。聖教国の印もない。表紙は無地。ただ、革の端に小さな古式刻印が一つだけ残っている。
リア殿下はそれを見るなり、目を細めた。
「古代アストラ文字です」
「読めますか」
俺が尋ねると、リア殿下は少しだけ首を横に振った。
「一文字だけなら。意味は……封、または隠す」
隠す。その単語だけで、会議室の空気が少し変わった。
いつもの面々が揃っている。リア殿下。セシルさん。レグナ卿。ロイさん。ミラさん。ガルドさん。マティアス司祭。ドルガン。そして俺。ニールは今日も訓練中だが、後で水魔法関連の部分だけ共有する予定になっている。
レグナ卿は写本を机に置いた。
「これは、王国魔導院の正式資料ではありません」
「では、どこから?」
「私個人の保管物です」
レグナ卿は苦い顔をした。
「若い頃、王都地下保管庫の整理をしていた時に写したものです。本来、外へ出してよい資料ではありません」
ロイさんのペンが止まった。
「レグナ卿。それは監察官の前で言ってよい内容ですか」
「よくはありませんな」
「記録します」
「でしょうな」
レグナ卿は諦めたように息を吐いた。
「ですが、昨日の同意契約要件を見て、これを出さない方が危険だと判断しました」
「それほどのものですか」
俺が尋ねると、レグナ卿は写本に手を置いた。
「古代アストラ魔法体系分類目録。おそらく、禁忌目録の写しです」
禁忌。その言葉に、ミラさんとセシルさんが同時に嫌な顔をした。ガルドさんは腕を組み、低く言う。
「また物騒な単語が出てきたな」
「はい」
俺は頷いた。
「かなり重要そうです」
「お前がそう言う時は、大体危ない」
「今回は多分、本当に危ないです」
「認めるなよ」
リア殿下は写本を見つめていた。その目は、古代文字を読む時の目だ。静かで、深くて、危うい。セシルさんがそっと言う。
「リア様、危険な文字なら無理に読まないでください」
「はい。全文は読みません。意味だけ追います」
「それでも危険なら止めます」
「分かっています」
レグナ卿は写本を慎重に開いた。中身は、ほとんど読めなかった。王国文字ではない。現代術式文字でもない。古代アストラ文字。しかも、召喚陣やドルガンの術式板よりもさらに古く、圧縮された記述だった。文字というより、図形。図形というより、概念を刻んだ傷。見ているだけで、頭の奥がざわつく。
レグナ卿が言った。
「音読は禁止です。魔力接触も禁止。視線を固定しすぎないように」
「視線固定だけでも危険なのですね」
「古代アストラの禁忌資料です。何が起動条件か分からない」
「分かりました」
俺は少し視線を外しながら見ることにした。見たい。非常に見たい。だが、ここで倒れたり、存在輪郭を揺らしたりするとミラさんとセシルさんに二度と見せてもらえなくなる。慎重さは研究継続資源である。
リア殿下が、最初の行を指ではなく視線だけで追った。
「これは……表層魔法体系と深層魔法体系の分類です」
「表層と深層」
「現代の火、水、風、土、光、闇といった属性分類は、表層分類に近いです」
「やはり」
俺は小さく息を吐いた。
「属性は現象を扱うための便宜分類」
「はい。古代アストラでは、その下に現象分類があり、さらにその奥に深層領域があるとされています」
「深層領域とは?」
リア殿下は慎重に文字を読んだ。
「概念。存在。因果。境界。契約。情報。魂。時間。空間」
会議室が静まり返った。俺は、その九つの言葉を紙に書いた。概念魔法。存在魔法。因果魔法。境界魔法。契約魔法。情報魔法。魂魔法。時間魔法。空間魔法。
手が少し震えた。今まで見てきたものが、一気に上位分類へ接続された感覚があった。火属性は熱、燃焼、光、膨張の複合。水属性は流体、圧力、形状維持、浄化の複合。それらは現象分類。だが、勇者召喚陣や青月、存在輪郭、名前、契約、記録はもっと深い。魂を固定する。存在を記述する。境界を揺らす。関係性を世界に提出する。これらは、表層属性では説明できない。
深層魔法。その言葉が、しっくりきた。
「ユーマさん」
ミラさんが言った。
「はい」
「顔が危険です」
「かなり危険な資料です」
「あなたの顔の話です」
「すみません」
レグナ卿が重く頷いた。
「この分類は、現代魔導院ではほとんど扱われません。扱えない、と言った方が正確です」
「なぜですか」
「危険すぎるからです」
マティアス司祭が静かに言った。
「聖教国では、これらは神の領域とされています」
「神の領域」
「はい。特に魂、時間、因果、存在は、人が手を出すべきではないと」
「それは、禁じられているからですか。それとも、危険だからですか」
俺が尋ねると、マティアス司祭はしばらく黙った。
「おそらく、両方です」
その答えは正直だった。俺は紙に書く。神の領域。禁止。危険。秘匿。知識は消えたのではなく、隠された可能性。
レグナ卿はページをめくった。
「問題は、次です」
そこには、見出しのようなものがあった。リア殿下が読もうとして、少し眉を寄せる。
「世界の……七つの……禁じられた到達点」
「世界の七禁忌?」
俺が言うと、リア殿下は頷いた。
「近いと思います」
レグナ卿は静かに言った。
「この写しでは、七つの禁忌技術として記されています」
リア殿下が、慎重に一つずつ意味を拾った。
「第一。空間の完全制御」
俺は息を止めた。空間魔法完全制御。
「第二。時間停止」
会議室の空気が冷たくなる。
「第三。魂保存」
マティアス司祭が目を伏せた。
「第四。因果改変」
ロイさんのペンが一瞬止まった。
「第五。世界間通信」
俺の胸が高鳴る。
「第六。人工生命創成」
ドルガンが低く唸った。
「第七」
リア殿下は、そこで少し止まった。視線が文字に吸い寄せられそうになるのを、意識して止めているようだった。セシルさんがすぐに言う。
「リア様、無理なら」
「大丈夫です。意味だけ」
リア殿下はゆっくり言った。
「世界境界門。あるいは、世界門」
俺は紙に書いた手を止めた。
WORLD GATE。
その言葉が、頭の中で重なった。世界の七禁忌。その第七。世界門。俺が目指しているものが、古代アストラでは禁忌として扱われていた。
驚きはあった。だが、不思議と恐怖は薄かった。むしろ、納得した。当然だ。世界を越える門が安全なはずがない。失敗すれば、召喚陣のように人を閉じ込める。あるいは世界そのものを傷つける。古代アストラがそれを禁忌にしたなら、理由がある。
「ユーマさん」
ミラさんが静かに言った。
「はい」
「今、やめようと思いましたか」
「いいえ」
「ですよね」
「ただ、軽く扱うべきではないとは思いました」
ミラさんは少しだけ安心したように見えた。
「それなら、少しだけ良かったです」
俺は世界門の文字を見つめた。禁忌。それは、触れてはいけないもの。だが、俺にとって禁忌とは、単に避けるべきものではない。なぜ禁じられたのか。何が危険なのか。誰が禁じたのか。禁じることで何が守られ、何が隠されたのか。それを知らなければ、同じ失敗を繰り返す。
「この七禁忌は、アストラ文明が到達した技術ですか」
俺が尋ねると、レグナ卿は答えた。
「少なくとも、到達しかけた技術です。一部は実現した可能性もある」
「世界間通信も?」
「青の道標が不完全な通信だとするなら、アストラはさらに進んだ通信を持っていた可能性があります」
「人工生命創成は?」
ドルガンが低い声で言った。
「魔道具職人の立場から言えば、完全な人工生命など狂気じゃ。だが、古代アストラの自律魔導兵の伝承はある」
「魂保存は、死者蘇生ですか」
マティアス司祭が少し厳しい顔をした。
「似て非なるものかもしれません。魂を保存することと、死者を戻すことは同じではない」
「はい」
俺は頷いた。魂保存。時間停止。因果改変。これらは危険すぎる。今の俺たちが扱うには、あまりにも遠い。だが、名前だけでも意味がある。
世界門は、これらの禁忌と隣接している。空間。時間。魂。因果。情報。契約。境界。全てが絡む。WORLD GATEは一つの魔法ではない。九つの深層領域と七つの禁忌に接続する総合技術だ。だから、勇者召喚陣は危険だった。空間だけを開いているように見えて、実際には魂、情報、契約、境界、因果に触れている。それを本人同意なしで行う。危険でないはずがない。
「レグナ卿」
「何ですかな」
「この資料には、神々についての記述はありますか」
マティアス司祭がわずかに反応した。リア殿下も表情を変える。レグナ卿は、写本の後半を開いた。
「あります。ただし、断片的です」
「読めますか」
リア殿下は慎重に目を走らせた。
「神々は、知識を……封じた」
室内が静まる。
「理由は?」
「欠損しています。ただ……」
リア殿下は少し顔をしかめた。
「人が世界の外を見た時、神々の座標が揺らぐ、と読める部分があります」
「神々の座標?」
俺は思わず聞き返した。
「はい。正確な意味は不明です」
神々の座標が揺らぐ。世界の外を見ることと、神々の位置。この世界の神々は、単なる宗教的存在ではないのかもしれない。魂の管理者。世界の外側。神々が隠した知識。アストラ文明の真実。それらが、少しずつ同じ方向を向き始めている。
マティアス司祭は静かに言った。
「神々が知識を封じたのなら、それは人を守るためだったのかもしれません」
「そうかもしれません」
俺は答えた。
「ですが、人を守るために封じた知識が、勇者召喚のような形で人を傷つけているなら、封じ方にも問題があります」
マティアス司祭は反論しなかった。代わりに、重く頷いた。
「……その可能性は、あります」
リア殿下は写本を見つめていた。
「この資料、王城地下図書館の禁書分類とつながります」
「禁書分類?」
「はい。私は以前、読めないまま保留していた目録があります。そこに、深層遺跡、百層、神域封印、世界門という単語がありました」
俺は即座に反応した。
「深層遺跡、百層」
「はい」
「アストラ深層遺跡ですか」
「おそらく」
レグナ卿の顔が険しくなる。
「殿下、それは王城禁書庫の中でも最奥に近い目録です。なぜ見たのですか」
「鍵が」
「開いていた、ですかな」
「結果的には」
セシルさんが頭を抱えた。
「リア様……」
だが、俺はそれどころではなかった。アストラ深層遺跡。百階層。世界門。神域封印。北の塔だけではない。その先に、さらに深い遺跡がある。もし北の塔が入口や観測施設なら、深層遺跡は本体かもしれない。WORLD GATEの禁忌に関わる、古代アストラの中枢。心臓が高鳴る。
ミラさんがこちらを見る。
「ユーマさん」
「はい」
「顔が完全に行く気です」
「今すぐではありません」
「今すぐではないだけですね」
「はい」
「正直ですね」
ガルドさんが笑った。
「まあ、ここまで聞いて行かねえわけねえよな」
「はい」
俺は否定しなかった。北の塔。青の道標。第七勇者。アストラ深層遺跡。世界の七禁忌。WORLD GATE。線が増えた。道は危険になった。だが、明確にもなった。
「整理が必要です」
俺は言った。
「今ある情報を、一度体系化しないと危険です」
ミラさんが少し意外そうにした。
「ユーマさんが、また慎重なことを」
「情報が多すぎます。整理せずに動くと、間違えます」
リア殿下も頷いた。
「設定書が必要です」
「設定書?」
「世界設定書。魔法体系設定書。宇宙論と神話。七禁忌。北の塔と深層遺跡。青の道標。第七勇者。すべてを分けて記録すべきです」
「同感です」
俺は紙を取り出した。表題を書いていく。
世界設定書 初版。
魔法体系設定書 初版。
宇宙論・神話設定書。
世界の七禁忌 設定書。
アストラ深層遺跡 百階層設定書。
他世界設定書 初版。
WORLD GATE完成設計書 初版。
神崎悠真研究記録リスト 万象記録書抜粋 No.001〜No.100。
書いてから、少し手が止まった。
「万象記録書?」
リア殿下が尋ねる。
「今はまだ普通の紙束です。でも、いつかそう呼べる記録書にしたいと思っています」
「良い名前です」
「ありがとうございます」
ドルガンが鼻を鳴らした。
「紙束を名乗るには大げさすぎるな」
「なので、まず紙束から始めます」
「それでいい。道具は育てるもんじゃ」
その言葉は、少し嬉しかった。今の俺には、解析眼鏡も探検家の鞄も完成した記録書もない。だが、必要なものは作っていけばいい。理論も、道具も、記録も。世界門も。最初から完成品を持っている必要はない。
レグナ卿は写本を閉じた。
「今日のところは、これ以上読み進めない方がよい」
「はい」
リア殿下も素直に頷いた。
「禁忌目録は、視線だけでも負荷があります」
「その判断は正しいです」
セシルさんが心底安心したように言った。ロイさんは記録をまとめながら言う。
「本日の発見は、王都へ報告するには危険すぎます」
「監察官がそれを言うのですか」
俺が尋ねると、ロイさんは無表情で答えた。
「報告しないとは言っていません。報告形式を慎重にする必要があると言っています」
「なるほど」
「現時点では、古代アストラ魔法体系分類に関する追加資料を確認、とだけ記載します。七禁忌の詳細は、封印記録扱いで別紙」
「それで大丈夫ですか」
「大丈夫ではありません。ですが、これが現実的です」
現実的。最近、その言葉の重要性が少し分かってきた。真実を知るだけでは足りない。どう記録するか。誰に渡すか。どこまで明かすか。どう守るか。それもまた、研究の一部だ。
会議の最後、マティアス司祭が言った。
「ユーマ殿」
「はい」
「あなたは、世界門が禁忌だと知っても進むのですね」
「はい」
「なぜですか」
俺は少し考えた。世界の外側を見たい。それが最初の理由だった。今も変わらない。だが、今はそれだけではない。
「すでに不完全な世界門のようなものが使われているからです」
「勇者召喚陣」
「はい」
俺は召喚陣の写しを見る。
「禁忌だから触れない。それで済むなら、触れません。でも現実には、勇者召喚陣という形で不完全な技術が使われてきた。帰れない人がいた。水瀬葵さんがいた。なら、知らないまま放置する方が危険です」
マティアス司祭は黙って聞いている。
「俺は禁忌を破りたいわけではありません。禁忌になった理由を知りたい。そして、同じ失敗をしない方法を探したい」
「それでも、神々の領域に踏み込むことになるかもしれません」
「はい」
「怖くはないのですか」
「怖いです」
自分でも、少し驚くほど素直に出た。だが、事実だ。時間停止。魂保存。因果改変。人工生命。世界門。怖くないはずがない。
「でも、分からないまま誰かがまた呼ばれる方が、もっと嫌です」
マティアス司祭は目を伏せた。
「そうですか」
リア殿下が静かに言った。
「なら、記録しましょう」
「はい」
「禁忌を破るためではなく、禁忌の理由を忘れないために」
「はい」
俺は頷いた。その言葉は、今日の結論にふさわしかった。
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研究記録 No.022
対象:古代アストラ魔法体系分類目録および世界の七禁忌
観察結果:
レグナ卿が個人保管していた古代アストラ魔法体系分類目録を確認。現代の火、水、風、土、光、闇などの属性分類は表層分類に近い。その下に現象分類があり、さらに深層領域として以下が存在する。
深層魔法領域:
一、概念魔法。
二、存在魔法。
三、因果魔法。
四、境界魔法。
五、契約魔法。
六、情報魔法。
七、魂魔法。
八、時間魔法。
九、空間魔法。
七つの禁忌技術:
一、空間魔法完全制御。
二、時間停止。
三、魂保存。
四、因果改変。
五、世界間通信。
六、人工生命創成。
七、世界境界門、すなわち世界門。
仮説:
WORLD GATEは、単独の空間魔法ではない。空間、時間、魂、情報、契約、境界、存在、因果、概念を横断する総合技術。勇者召喚陣は、その不完全な断片であり、本人同意と帰還条件を欠いた危険な一方向装置。
神々は、古代アストラ文明の到達した知識の一部を封じた可能性がある。ただし、その封印が人を守るためだったのか、神々自身の座標を守るためだったのかは不明。
重要語:
神々の座標が揺らぐ。アストラ深層遺跡。百階層。神域封印。世界門。
今後作成する資料:
世界設定書 初版。
魔法体系設定書 初版。
宇宙論・神話設定書。
世界の七禁忌 設定書。
アストラ深層遺跡 百階層設定書。
他世界設定書 初版。
WORLD GATE完成設計書 初版。
神崎悠真研究記録リスト、万象記録書抜粋 No.001〜No.100。
結論:
禁忌とは、単に触れてはいけないものではない。なぜ禁じられたのかを記録し、同じ失敗を繰り返さないための警告でもある。
追記:
WORLD GATEは、世界の七禁忌の一つだった。それでも研究を止めるつもりはない。ただし、軽く扱ってよいものではない。
禁忌を破るためではなく、禁忌の理由を忘れないために記録する。
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その夜、俺は安宿の机に向かい、真新しい紙の束を並べていた。
今までは、思いついた順に記録していた。角兎。ゴブリン。魔石。魔道具。水魔法。霧。勇者召喚陣。水瀬葵さん。青の道標。青月。名前。契約。どれも重要だ。だが、今日からは整理が必要だ。知識が増えすぎた。増えた知識は、整理しなければ危険になる。
俺は一枚目に書いた。
魔法体系設定書 初版。
その下に、九つの深層領域を書く。概念。存在。因果。境界。契約。情報。魂。時間。空間。
次の紙には、世界の七禁忌。空間完全制御。時間停止。魂保存。因果改変。世界間通信。人工生命創成。世界門。
文字にするだけで、重い。今の俺には、どれ一つ扱えない。触れることすら危険だ。それでも、書く。書かなければ、輪郭ができない。輪郭がなければ、危険を測れない。危険を測れなければ、避けることもできない。
俺はペンダントに触れた。青い石は静かだった。転生時にもらった、問いを追い続けるための猶予。その猶予を、何に使うのか。今日、その答えが少しだけ重くなった。
世界の外側を見たい。それは今も変わらない。だが、世界門が禁忌なら、俺はその理由も知らなければならない。葵さんが帰れなかった理由。第七勇者が消えた理由。古代アストラが滅びた理由。神々が知識を隠した理由。全部、つながっている。
俺は最後に、別の紙へ大きく書いた。
WORLD GATE完成設計書 初版。
まだ中身はほとんど空白だ。だが、一行だけ書いた。
――この門は、誰かを閉じ込めるために開かれない。
その一文だけは、最初から決まっていた。
窓の外には、欠け始めた青月。淡い光が、空白だらけの設計書を静かに照らしていた。




