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どうやら帝国最強の魔導卿を翻弄してしまったようです


「……んぅ……。あ、みんな、おはよう……」


 魔塔の最上階。

 窓から差し込む柔らかな朝日に照らされて、ミラはゆっくりと目を覚ました。


 視界を埋め尽くすのは、真珠色のウロコ、銀色の毛並み、ふわふわの羽毛――


「コハク、おはよう。今日も毛並みが最高だね。

 ……クウ、足首温めてくれてありがとう。テンちゃん、寝癖ついてない?

 ……チョコ、角がちょっと枕に刺さってるよ。

 ハク、お腹の上は重いけど……可愛いから許す!」


 ミラは一体ずつぎゅっと抱きしめ、頬ずりしながら朝の挨拶を交わす。


 五体のミニ猛獣たちは、主の分身であることを忘れたかのように喉を鳴らし、ミラの奪い合いを始めていた。


 ――だが。


 その多幸感あふれる空間の温度が、一瞬で変わる。


「……おはよう、ミラ。

 随分と、僕の『端切れ』たちと仲が良いようだね」


 カチャリ、と銀食器が触れ合う音。


 そこに立っていたのは――給仕すら遠ざけ、自ら朝食のワゴンを押してきたゼノスだった。


 最高に顔がいい。

 そして、目が一切笑っていない。


「……ゼノス様、おはようございます!

 見てください、みんな今日もモフモフですよ!」


「……ああ、見ているよ」


 ゼノスはゆっくりと近づいてくる。


「……あまりに君がそいつらばかりを愛でるものだから。

 僕は昨日、一睡もできなかったよ」


「え、不眠症ですか?」


「嫉妬だよ、ミラ」


 静かに告げる。


「……自分の魔力の一部に、一晩中嫉妬し続ける主の気持ちを考えたことがあるかな?」


 ゼノスはワゴンを置くと、有無を言わせぬ動きでコハクたちをひょいひょいと掴み、部屋の隅へと放り投げた。


「キュゥ!?」「ワフッ!?」


 モフモフ軍団は不満げな声を上げるが、圧倒的な威圧に押されて、しゅんと固まる。


「ちょっ、みんなをいじめないでください!」


「いじめていない」


 ゼノスは淡々と告げた。


「……ただ、これからの時間は僕の『独占』だと、僕自身に分からせているだけだ」


 そのままベッドに腰を下ろし、ミラを引き寄せる。

 逃げ場を塞ぐ距離。


「……今日は一日中、僕本体が君に張り付くからね」


「……え、重い。

 物理的にも、設定的にも重いです、魔導卿様!」


「ストーカーと呼びたければ呼ぶがいい」


 囁く声は甘い。


「……君を、一刻も早く『僕なしでは落ち着かない体質』に変えるためなら、僕はどんな手間も惜しまないよ」


 パンをちぎり、ミラの唇へ差し出す。


「さあ、あーん。

 ……今日は、僕が君のすべてを管理してあげる」


 ミラは遠い目をした。


(……朝からフルスロットルすぎる……)


「もぉー……。分身なら、そんなに嫉妬しなくてもいいでしょうに」


 ミラは小さくため息をつきながら、ふっと身を乗り出した。

 銀髪が肩にかかる。


「……ゼノスさま」


 とろけるような声で、耳元へ。


 ――ピクリ。


 ゼノスの身体が硬直した。


「……っ、ミラ……。今、君は……」


「呼びましたよ。満足ですか?」


 さらりと。


 ミラはそのまま、ゼノスの腕をすり抜ける。

 そして部屋の隅へ。


「みんな、お待たせ! おはようの続き、しようか」


 コハクたちが一斉に駆け寄る。


 ミラは膝をつき、五体をまとめて抱きしめた。

 そして――くるりと振り返る。


「……ねぇ、ゼノス様。さっき言ってましたよね?」


 いたずらっぽく笑う。


「この子たちに触れた感触、全部伝わるって」


「…………。ああ。

 ……克明に、ね」


「だったら、これでいいですよね?」


 ――チュッ。


 まずハクの額へ。


「キュゥ……!」


 続けて、コハク、クウ、テン、チョコへと、順番に口づける。

 優しく、丁寧に。


「これ、全部ゼノス様に届いてるんでしょ?」


 その瞬間。


 ゼノスの身体に、同時に五箇所から感触が流れ込む。


 唇の柔らかさ。

 吐息の熱。

 触れられる感覚。


「……っ、あ、……ミ、ラ……っ!!」


 ゼノスはシーツを握りしめ、その場に崩れ落ちた。


 顔は真っ赤。

 呼吸は乱れ、魔力が火花のように弾けている。


 完全に、やられていた。


「ふふ、ゼノス様、顔真っ赤ですよ?」


 ミラはくすっと笑う。


「……さあ、朝の挨拶も終わったし、私はお仕事の時間です!」


 くるりと背を向ける。


「ゼノス様は、そこで少しクールダウンしててくださいね!」


「……待っ……。

 ……五体同時に、そんな……不意打ちは……っ」


 ミラは気にせず、作業台へ向かった。

 肩にはハク。

 足元にはコハクたち。


 鼻歌交じりに、新しい魔導糸の構想を練り始める。


(分身を愛でるだけで、こんなに効くなんて……)


 ミラは少しだけ得意げに微笑んだ。


 ――その頃。


 ベッドの上では、帝国最強の魔導卿が、朝から完全に撃沈していた。

読んでいただきありがとうございます。

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