第27話「千年の輪廻、共犯者の起源」
白、白、白。
色彩も温度も、距離さえも消失したその空間で、私たちの鼓動だけがやけに生々しく重なっていた。
「……ここが、終わりの先か」
レオの声が、輪郭を持って私の脳に響く。
リンクした神経は、いまや視覚や聴覚を介さず、魂そのものを直接揺さぶっていた。
私たちの目の前には、鏡合わせのような光景があった。
銀色の瞳を虚ろに見開き、祭壇に横たわる王女。
その胸を、震える手で貫こうとしている黒鎧の騎士。
――千年前、この世界が最初に「リセット」された瞬間の残像だ。
『……ようやく、ここまで来たのね』
祭壇の王女が、ゆっくりと唇を動かした。
その声は、私の声と同じ。けれど、そこには数千回もの絶望を繰り返してきた、耐えがたいほどの疲弊が滲んでいた。
『銀の瞳は、呪いよ。世界が壊れかけるたび、清らかな魂を器にして、その命と引き換えに時間を巻き戻す。……貴女も、そのために選ばれたの』
王女が私に手を伸ばす。
彼女の指先に触れた瞬間、私の脳内に、これまで「予言」として視てきた光景の正体が流れ込んできた。
それは未来ではない。
過去、何度も、何度も、レオに殺され、あるいはレオを失い、世界を救うために自分を捧げてきた「失敗の記録」だ。
『さあ、騎士よ。……貴方の愛を、世界の平和に変えなさい。この女を殺し、因果を断ち切れば、新しい朝が来るわ』
騎士の幻影が、レオと同じ顔で、絶望に歪む。
レオの左腕の半龍が、悲鳴のように激しく脈打った。
「……ふざけるな」
レオが、私の肩を抱き寄せ、幻影の王女を冷酷に射抜いた。
その瞳には、世界の平和なんて高潔な意志は、欠片も存在しなかった。
「平和? 救済? ……そんなもののために、この女を差し出せだと? ……笑わせるな。神だかシステムだか知らんが、貴様らは私の『執着』を甘く見すぎている」
レオが、私の首筋に鼻先を寄せ、深く、深く、私の香りを吸い込んだ。
リンクを通じて伝わってくるのは、ドロドロとした、逃げ場のないほどに重い独占欲。
(世界がどうなろうと知ったことか。……私は、この女の肌の温もりを、その喘ぎを、自分だけのものにしておきたいだけだ)
「エララ。……貴様は、世界のために死にたいか?」
「……まさか。貴方の『檻』の中で一生を終えるのが、私の望みよ」
私が微笑むと、レオは満足そうに口角を上げた。
彼は剣を構える。……敵を斬るためではない。この「白一色の理」そのものを切り裂くために。
「千年前の騎士が貴様を救えなかったのは、奴に『裏切り』の覚悟が足りなかったからだ。……私は違う。……私は既に、主を裏切り、国を売り、己の誇りさえも泥に捨てた。……今更、世界の一つや二つ、裏切ることに何の躊躇いがある!」
レオの半龍と、私の銀の瞳が、完全に同期した。
白金の光が、虚無の空間を侵食していく。
指輪が、叫ぶように熱を放つ。
――代償は、命ではない。
――代償は、『共犯者としての永遠』。
私たちの魂が一つに溶け合い、千年の間、世界を繋ぎ止めてきた「リセットのシステム」を、内側から食い破っていく。
祭壇の王女が、驚愕に瞳を見開いた。
『……因果が、書き換わる……? 自己犠牲ではなく、独占によって……!?』
「そうだ。……地獄の底まで、こいつは私のものだ」
レオが剣を一閃させた。
白一色の世界が、粉々に砕け散る。
暗転。
次に目を開けたとき、鼻を突いたのは雪の冷気ではなく、――燃える煙の匂いだった。
私たちは、雪原にいた。
けれど、そこにはもう数万の軍勢も、ユリウスもいなかった。
ただ、遠く離れた帝都の方向で、巨大な「銀の柱」が天に向かって立ち昇っているのが見えた。
「……戻ったのね。私たちの、戦場に」
「ああ。……だが、世界はもう、元のようには回らないぞ」
レオが、自分の左腕を見た。
銀の半龍は消えていない。……それどころか、いまや彼の肌の一部として、完全に定着していた。
そして、私の足首の「赤き鎖」もまた、より複雑な、美しい銀の刺青へと変化していた。
「……レオ。聞こえるわ。……帝都にいる、あの男の焦る鼓動が」
銀の瞳が、千里の先を透視する。
玉座に座り、震える手でワイングラスを握りしめる皇帝。
リセットに失敗し、神の恩寵を失った「偽りの支配者」の姿。
「……ふん。……追い詰められたネズミを狩りに行くか、私の奥様」
レオが、私を横抱きに抱え上げた。
逃亡は、終わった。
ここからは、略奪の時間だ。
亡国の王女と裏切りの騎士が、帝国のすべてを根こそぎ奪い去るための、反撃の火蓋が切って落とされた。
千年の輪廻を、レオの「歪んだ愛」が力ずくで書き換えた瞬間。
世界を救うための「予言」を捨て、二人は「自分たちのための現実」を選び取りました。
もはや、運命という名の鎖に縛られる二人ではありません。
再構築された世界で、銀の力を完全に手中に収めたエララとレオ。
ターゲットは、自分たちを「道具」として利用しようとした帝国そのもの。
反撃の狼煙は、帝都を貫く銀の光となって立ち昇ります。
次話、第28話「反撃の序曲、蹂躙される帝都」
ここからは「じれ甘」と「圧倒的な無双」が交錯する、帝国崩壊編の幕開けです!
「レオの宣言がかっこよすぎ!」「共犯者としての絆が究極すぎて震える」
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