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裏切り騎士と堕ちた王女の反逆戦記 ~世界を敵に回しても、この熱(リンク)だけは離さない~  作者: レオン・クラフト


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第25話:裏切りの刃、共犯者の接吻(ふたつめ)

銀の刃が、私の喉を浅く裂いた。

 滲んだ血が温かく、けれど首筋を伝う雫は氷のように冷たかった。


「……あ、……ぁ……っ……!」


 レオの喉から、獣のような、あるいは壊れた楽器のような掠れ声が漏れる。

 リンクした神経が、狂乱の渦に飲み込まれていた。

 脳が焼ける。

 右手の筋肉が、本人の意思を裏切り、私を殺すために更なる力を込めようと軋んでいる。骨が折れそうなほどの負荷。レオの全身は、自分自身と殺し合うという矛盾した拷問に、血の汗を流していた。


(痛い……痛いよね、レオ……)


 私の首に食い込む刃の痛みではない。

 「愛する者を殺せ」と命じられたレオの、魂が引き裂かれる激痛が、共鳴を通じて私の心臓を滅茶苦茶に握りつぶしていた。


「素晴らしい、実に見事な葛藤だ!」


 雪原に、ユリウスの愉悦に満ちた笑声が響く。

 黄金の甲冑を鳴らし、彼は一歩ずつ、獲物を愛でるように近付いてくる。


「ハスカールの血は、上位者の命令に逆らうようには出来ていない。抗えば抗うほど、貴様の神経は自壊する。……さあレオ、楽になれ。その女を切り裂き、私の足元に横たえろ。そうすれば、貴様は再び私の忠実な『犬』に戻れる」


「……逃……げ……ろ……エラ……」


 レオの瞳が、血の赤に染まる。

 視界が歪む。彼の腕が、一気に突き出されようとした。


 私は、逃げなかった。

 むしろ、自ら一歩、銀の刃の先へと踏み込んだ。


「エラ……ラ……!?」


 レオの右手が、恐怖に震える。

 私が踏み込んだ分だけ、刃はより深く、私の柔らかな肌を切り裂いた。鮮血がドレスの襟元を赤く染め上げる。


「貴様……狂ったか!? 自ら死を選ぶというのか!」


 ユリウスの声に、嘲笑ではなく僅かな苛立ちが混じった。

 私は銀の瞳を限界まで見開き、レオの虚ろな瞳を、至近距離で見つめ返した。


「……レオ。言ったでしょう。私は、貴方の共犯者だと」


 私は両手を伸ばし、私の命を奪おうとしている彼の右手を、指を絡ませるようにして包み込んだ。

 リンクが、火花を散らす。

 彼の脳内に渦巻く「黄金の支配インペリウム」のノイズ。ユリウスの傲慢な意思。

 それを、私の銀色の熱で、力ずくで押し流していく。


「貴方の身体を操るのが『血の命令』なら……それを、私との『契約ねがい』で上書きしてあげる」


 私は背伸びをして、彼の震える唇に、自分の唇を重ねた。


 二度目の接吻。

 法廷でのそれは「宣言」だった。

 けれど、この雪原でのそれは、「侵食」だった。


 瞬間、銀の指輪と銀の半龍が、太陽を凌駕するほどの閃光を放った。


『――ッ!!』


 脳の奥底、魂の結合部に、濁流のような情報が流れ込む。

 レオの記憶。レオの痛み。レオの絶望。

 そのすべてを、私の銀の瞳が喰らい、浄化していく。

 

 ユリウスの「黄金の支配」が、ガラス細工のように粉々に砕け散る感覚があった。

 

 唇を離したとき、レオの瞳から濁りが消えていた。

 琥珀色の瞳には、今や私への執着だけが、澄み切った殺意と共に宿っている。


「……ハァ、ハァ……。……よくも、……よくもやってくれたな、ユリウス」


 レオの声から震えが消えた。

 彼の手は、もはや私を狙ってはいない。

 彼は私の腰を強く抱き寄せ、その首筋の傷を、自らの唇で塞ぐように吸い上げた。


「……あ、レオ……」


 リンクを通じて、彼の独占欲が、熱い電流となって私の全身を駆け巡る。

 (エラ……。もう、死んでも離さない。神だろうが血筋だろうが、貴様を汚そうとするすべてを、私がこの世から消し去る)


 レオがゆっくりと顔を上げ、ユリウスを睨み据えた。

 彼の左腕の「銀の半龍」が、私の「銀の瞳」と完全に共鳴し、白銀の炎を刀身に纏わせる。


「……支配が、解けただと……?」


 ユリウスが、信じられないものを見るように、私たちを凝視した。

 その黄金の瞳が、恐怖に細まる。


「『血』よりも強固な絆など、この世にあるはずがない! たかが亡国の女との、薄汚い情愛ごときが、帝国の権能を凌駕するというのか!」


「情愛、などという生温い言葉で括るな」


 レオが剣を構える。

 彼の背後には、もはや実体化した銀の龍の影が、巨大な翼を広げていた。


「これは、共に地獄へ落ちるという誓いだ。……ユリウス、貴様には一生理解できぬ、究極の『共犯』だよ」


 レオが地面を蹴った。

 雪原が爆発し、白銀の閃光がユリウスの黄金を切り裂きに走る。


 私はレオの背中を見つめながら、確信していた。

 私たちの瞳が銀に染まる限り、この世のどんな檻も、私たちを閉じ込めておくことはできないのだと。


 だがその時、崩壊した白金の塔の瓦礫が、不自然に宙へ浮き上がり始めた。

 雪原の空に、巨大な「黒い亀裂」が走り、そこから数千年前の「絶望」が、再びこの世界へ漏れ出そうとしていた。

血の支配を接吻で上書きするという、究極の「共闘」を見せた二人。

ユリウスの絶対的な自信が崩れ去り、レオの反撃が始まります。

しかし、塔の崩壊は世界の理そのものの崩壊を招きつつありました。


「支配」を脱した先に待っていたのは、数千年の時を越えて蘇る「世界の終焉」。

二人の共犯関係は、いまや一人の王族や騎士の因縁を超え、

世界を救うか、共に滅びるかという最終決断へと導かれます。


次話、第26話「終焉の序曲、白銀の覚醒(完全)」

第1部完結まで残り僅か。

二人が掴み取るのは、自由か、それとも――。


「二人の接吻シーン、ゾクゾクしました!」「ユリウスを叩きのめしてほしい!」

と感じていただけましたら、ぜひブックマークや評価【☆☆☆☆☆】で、二人を応援してください!

皆様の声が、最終決戦を戦い抜く二人の力になります。

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