第54話:白亜の乱戦と、分たれた盤面
「行くぞテメェら。王都のド真ん中で、一番ド派手な『火事』を起こすぜ!!」
アッシュの号令と共に、王都の広場を揺るがす圧倒的な乱戦が始まった。
「アハハッ! それじゃあ浄化の時間だね!」
時計塔のバルコニーから、円卓第三位パーシヴァルがケラケラと笑いながら指を鳴らす。
瞬間、純白の狂信者たちが痛みを感じぬ笑顔で一斉に光の鞭を振り上げ、広場の中央では巨大なキメラが、逃げ惑う民衆の頭上へ向けてドロドロの触手を振り下ろした。
「ひぃぃぃッ!!」
母親が子供を抱きしめ、絶望に目を閉じた、その時。
ガギィィィィィィィィンッ!!!!
重々しい鋼の衝突音が、広場を揺るがした。
数万の民衆の眼前に、漆黒の極厚の大盾が岩山のように突き立てられていた。
「……私の後ろから、一歩も出るんじゃないわよ!!」
重装令嬢、ベリンダ。
彼女は、キメラの巨大な触手の一撃を大盾で正面から受け止めながら、煤と汗に塗れた顔で吼えた。
(……戦場の『最も重い場所』。……親父が守り抜いた、盾の『重心』!)
ガヘリスとの特訓で叩き込まれた極意。ただの鉄の壁ではなく、背後の民衆の命という『重さ』を背負った彼女の大盾は、魔王軍の心臓を宿したキメラの暴力すら一歩も通さない。
「教団のイカレ野郎共! ガウェイン様が『仕事』を終わらせるまで、私と親父の盾が相手をしてやるわ!!」
ベリンダの背中で、恐怖に震えていた民衆たちがハッと息を呑む。
先ほどまで偽物だと石を投げていた男の連れが、命懸けで自分たちを守っているという現実に。
「アッシュ! エレン! 行けェェェッ!!」
ベリンダの叫びを背に受け、アッシュとエレンは石畳を蹴り、ガラハッドの待つ大時計塔へ向けて一直線に駆け出した。
「おや、ダメだよ。ネズミが塔に登ってきちゃ」
バルコニーから見下ろしていたパーシヴァルが、無邪気な笑顔のまま、その小さな手のひらをアッシュたちへ向けた。
第三位の絶対的な狂気。街一つを焼き払うほどの『神聖な光の爆炎』が、その手に収束していく。
アッシュとエレンが時計塔に辿り着く前に、広場ごと灰にされる。
そう直感した瞬間だった。
「――よそ見してんじゃねえぞ、クソガキがァァッ!!」
空気を引き裂くような咆哮と共に、上空から巨大な影が降ってきた。
円卓第十一位、モルドレッド。
彼は、アグラヴェインとの特訓で解き放った『周囲の全てを叩き斬るエゴ』を全開にし、ギザギザの大剣に極大の『叛逆の血雷』を纏わせて、パーシヴァルめがけて上段から叩き落としたのだ。
ズガァァァァァァァァンッ!!!!
パーシヴァルが反射的に展開した光の盾と、モルドレッドの血雷が激突し、時計塔の中腹が爆発的に吹き飛ぶ。
「アハハッ! 痛いじゃないか、モルドレッド!」
粉塵の中から、無傷のパーシヴァルが笑いながら飛び出してくる。
「いいよ! 君が僕と遊んでくれるんだね!」
「遊ぶ? 冗談キツいぜェ……。テメェのそのイカれた笑顔を、真っ二つに引き裂いてやるって言ってんだよ!!」
モルドレッドもまた、空中で瓦礫を蹴り、狂ったように笑いながら最強の第三位へと牙を剥いた。
空中で激突する、純粋な光の狂信と、血に飢えた狂犬。
凄まじい衝撃波が広場の上空を支配し、二つのバケモノの戦いは、時計塔の戦線から完全に分断された。
「……モルドレッド、ベリンダ……!」
エレンが、仲間たちの背中に向けて強く頷く。
「……上等だ。お前らがこじ開けた道、絶対に無駄にはしねえ」
アッシュは、自らの命を削りながら排熱弁をロックした右腕『黒陽シリンダー』をギチギチと鳴らし、時計塔の螺旋階段を一気に駆け上がる。
最上階のバルコニー。
そこには、下界の乱戦など意にも介さず、静かに白銀のロザリオを揺らす純白の男――第十二位ガラハッドが待ち受けていた。
「……仲間を切り捨て、自ら死地に飛び込んでくるとは。偽物の思考は理解に苦しむ」
ガラハッドの冷たい瞳が、息を切らして駆け上がってきたアッシュとエレンを捉える。
「切り捨てたんじゃねえ。……俺たちは、それぞれの『仕事』をしてるだけだ」
アッシュが、極限まで赤熱した名もなき大剣を構える。
その隣で、エレンが白銀のレイピアを抜き放ち、氷のように冷たく、しかし静かに燃える瞳でガラハッドを見据えた。
「絶対防御の聖杯の騎士。……貴方のその神聖な光の『底』を、私たちが暴いて差し上げます」
時計塔の頂上。
純白の絶対防御と、極限まで熱を圧縮した執念の溶断。
そして、0.2秒のラグを射抜く銀の知略。
白亜の空を焦がす、本物と偽物の最終決戦へと、彼らはその熱く重い一歩を踏み出した。
第54話、お読みいただきありがとうございます。
アッシュとエレンは、最強の絶対防御にどう挑むのか。
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