第34話:黒の大地と、暴食の火砕流
ズズズズズズ……ッ!!
地平線が、文字通り「黒く」うねっていた。
旧大陸の荒涼とした大地を埋め尽くすように進軍してくる、魔王軍の超大規模な軍勢。重装甲のオーク、腐肉を纏った巨獣、空を覆う有翼の魔族たち。その数は一万を優に超え、地鳴りが『ガウェインの鉄靴』の分厚い装甲をビリビリと震わせていた。
「冗談じゃないわね……。いくら要塞の防壁があっても、この数を真正面から受ければ一溜まりもないわ」
エレンが白銀の細剣を抜き放ち、冷や汗を流しながら敵の陣形を睨む。
「ギャハハハッ! 上等だ! 端から全部ミンチにして、どっちが百匹先に殺すか競争しようぜェ!!」
モルドレッドは全く怯むことなく、ギザギザの大剣を肩に担いで甲板の縁に立った。
だが、二人の前に、黒い鉄塊のような巨体がスッと出た。
「……待てや、狂犬」
アッシュだ。
上半身裸のまま、異様な質量を放つ黒陽の右腕をギチギチと鳴らし、彼は獰猛な牙を剥いて笑っていた。
「テメェはさっき、俺の新しいオモチャの味見をしただろうが。……この大群は、俺の排気テストの的だ。横取りすんじゃねえぞ」
アッシュは、巨大な大剣を右手に提げたまま、要塞の甲板から数十メートル下の黒い荒野へと、一切の躊躇なく飛び降りた。
ズドォォォォンッ!!
すさまじい重量で荒野に着地したアッシュを、数千の魔王軍の先陣が「人間の愚か者が一人で落ちてきたぞ!」と嘲笑いながら、巨大な戦斧や槍を掲げて一斉に殺到してくる。
「……来いよ。まとめて灰にしてやる」
アッシュは、右腕の『黒陽シリンダーVer.2』の排熱弁を完全にロックした。
純結晶の装甲が超高圧の熱を喰らい、漆黒の表面にマグマのような赤い光脈を走らせる。骨が軋むほどの圧力が内部で渦巻き、その全エネルギーが、握りしめた大剣の刀身へと流し込まれる。
「圧縮、赤熱……!!」
ゴォォォォォォッ!!
大剣の極厚の刃が、一瞬にしてドロドロの赤熱状態へと変貌した。
周囲の空気が陽炎で歪む。だが、アッシュはそれを敵に向かって振るわなかった。
彼は、その赤熱した大剣を、足元の『黒い大地』に向かって、渾身の力で深々と突き立てたのだ。
「沈めッ!!」
ジュウウウウウウゥゥゥゥゥゥッ!!!!!
超高熱の刃が、硬い岩盤をまるで豆腐のように溶かしながら地中深くへと食い込む。
そして、アッシュは大地に剣を突き立てた状態のまま、右腕の極太の『排気管』の弁を、最大出力で全開にした。
「喰らい尽くせ……『蒸気の顎』ッ!!!!!」
――ドバァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!
大地が、爆発した。
アッシュの大剣から地中へと放たれた超高圧の蒸気と排気が、行き場を失って大地の内側を隆起させ、前方の扇状(前方180度)に向かって、火山噴火のような『火砕流』となって大爆発を起こしたのだ。
「ギガァァァァッ!?」
「グオォォォォォッ!?」
凄まじい轟音。
視界を完全に埋め尽くす、泥と岩の破片、そして極太の黒煙と黄金の火の粉の津波。
魔王軍の先陣数千体が、悲鳴を上げる間もなく、足元から吹き上がった数千度の熱波と物理的な岩の散弾によって、文字通り空の彼方へと消し飛ばされた。
「……なッ」
甲板で見ていたエレンが、信じられないものを見るように目を見開く。
「ギャハハハハハッ!! やりやがった!! 地面ごと吹き飛ばしやがったぞあのボイラー野郎!!」
モルドレッドが腹を抱えて大爆笑する。
本物の太陽のような「音もなく全てを光に還す」美しさはない。
ただひたすらに泥臭く、やかましく、黒煙で周囲を汚しながら、力任せに全てを蹂躙する『暴力的な大爆発』。
ざらついた鉄の重みと、荒々しい火の粉のが、黒い大地に強烈なコントラストを描き出していた。
「シューゥゥゥゥ……ッ」
黒煙が晴れる。
アッシュの前方数百メートルにあったはずの黒い荒野は、巨大な扇状のクレーターと化し、ドロドロに溶けた岩と灰だけが残されていた。
数千の軍勢が、たった一撃の『排気』で壊滅したのだ。
アッシュは、大地から赤熱した大剣をズボッと引き抜き、右腕の排気管から燻る煙を吐き出しながら、獰猛に笑った。
「……ハッ。最高だぜ、ガラムのおっさん。こいつはいくら圧力をかけても、ビクともしねえ」
だが。
その圧倒的な蹂躙劇を見てもなお、魔王軍の奥陣は「恐怖」で崩れることはなかった。
ズシン。ズシン。
焼け焦げた大地の奥から、生き残った魔王軍の兵士たちがモーセの十戒のように左右に道を空け、一つの巨大な影が進み出てきた。
身の丈は四メートル。
鋼鉄の分厚い重装甲に身を包み、両手にはアッシュの大剣すら小さく見えるほどの『巨大な双頭の戦斧』を握った、傷だらけの巨漢の魔将。
『――見事な熱量だ、人間の戦士よ。だが、貴様は太陽の騎士ではないな?』
地鳴りのような、重く響く声。
その大魔将の全身から放たれる『濃密な血と闘気の匂い』は、先ほどのネクロや幻影とは全く違う、純度百パーセントの「武の暴力」を体現していた。
アッシュは赤熱した大剣を肩に担ぎ、その圧倒的な質量のバケモノを真っ向から見据える。
「……太陽じゃねえよ。俺はただの、火の粉を吹く鉄屑だ」
アッシュ一行の前に立ち塞がる、最強の武闘派将軍。
本物の太陽を知る歴戦の巨漢を前に、アッシュは怯むことなく、赤熱した牙を向けて吼えた。
第34話、お読みいただきありがとうございます。
新たな牙による圧倒的な火砕流。
だが、本当の戦いはここから。
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