第32話:地獄の再鍛造と、赤熱する大剣
「ギャァァァァァァァァッ!!!」
深夜。荒野を爆走する移動要塞『ガウェインの鉄靴』の最下層、灼熱の炉心室から、アッシュの絶叫が響き渡った。
分厚い鉄の拘束台に全身を縛り付けられたアッシュの右腕に、狂鍛冶師ガラムが容赦なく巨大なドリルと溶接機を突き立てているのだ。
「ヒッヒッヒ! 喚くな泥人形! 前のボルトと装甲を引っこ抜いて、この『黒陽の純結晶』をテメェの骨に直接焼き付けてやってんだ! 噛み締めろォ!!」
「い、イカれてるッ……麻酔もなしで骨を削りやがって、このクソジジイがァッ!!」
火花と血飛沫が飛び散る地獄の解体手術。
入り口で見守っていたエレンは、あまりの凄惨な光景に胃を押さえて顔を背け、逆にモルドレッドは「ギャハハハッ! いい声で鳴くじゃねえか!」と酒瓶を片手に大笑いしていた。
ガラムが持ち帰った『黒陽の純結晶』は、尋常ではない質量と耐熱性を持つ悪魔の石だ。
それを強引に装甲の形に加工し、アッシュの焼け焦げた右腕に直接接合していく。骨が軋む。肉が焼ける。アッシュは幾度となく意識を失いかけ、その度にガラムが容赦なく冷水をぶっかけて彼を叩き起こした。
数時間にも及ぶ凄惨な悲鳴の後。
「……終わったぜ。俺の、いや、テメェの新しい『牙』だ」
拘束を解かれたアッシュは、荒い息を吐きながら、ドサリと冷たい鉄の床に崩れ落ちた。
全身が脂汗で濡れている。だが、彼は震える左手で体を支え、新しく生まれ変わった己の右腕をゆっくりと持ち上げた。
「……ッ」
アッシュは息を呑んだ。
スマートさなど欠片もない。以前よりもさらに分厚く、禍々しいまでに巨大化した『黒鉄の拘束具』。
黒陽の純結晶によって構成されたその装甲は、一切の光を反射せず、周囲の熱を吸い込むように鈍く沈んだ色をしている。幾本もの太い排気管が剥き出しになり、関節部には巨大なボルトが何十本も打ち込まれていた。
まさに、骨が軋むほどの重装甲。
「重てえ……。前の倍はありやがる」
アッシュが顔をしかめると、ガラムが機械の義手でニヤリと葉巻を指した。
「ヒッヒッヒ。当たり前だ、純結晶の塊だからな。だが、その『重苦しい檻』のおかげで、テメェは限界まで熱を内部で圧縮できる。……試してみろ。傍らに置いてあるその大剣に、テメェの全圧力を流し込んでみな」
アッシュは、立ち上がり、足元にあった自分の巨大な大剣の柄を、新しい右腕で握りしめた。
そして、内部の排熱弁を完全に閉じたまま、極限までボイラーの熱量を引き上げる。
「(……漏れねえ。以前ならとっくに自壊してた圧力でも、この装甲はビクともしねえッ!)」
黒い純結晶が、アッシュの生み出す超高熱を『喰らい』、装甲の隙間からマグマのような赤い光脈を走らせてさらに強度を増していく。
「大剣に流し込めェ!!」
ガラムの怒号。
アッシュが、右腕に溜まり切った超高圧の熱を、握りしめた大剣の刀身へと一気に解放した。
――ゴォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
轟音と共に、大剣の極厚の黒鉄の刃が、一瞬にしてドロドロの『赤熱状態』へと変貌した。
刃そのものが超高熱のノコギリのように空気を焼き斬り、周囲の空間が陽炎で歪む。
純結晶の装甲が熱を逃さないため、アッシュの腕自体は焼け焦げることなく、全ての熱量が刃の先端へと完璧に伝導しているのだ。
「な……なんて圧倒的な熱量」
エレンが目を見開く。
「……だが、こいつは『ボイラー』だ。完全密閉し続けりゃ、いつかは爆発する。限界が来たら、あるいは最大出力を叩き込む時は、その剥き出しの排気管から一気に圧力を抜け!」
ガラムの言葉に従い、アッシュが大剣を振り下ろしながら、右腕の排熱弁を全開にした。
――ガギィィィィィィィンッ!!!!
プシュゥゥゥゥバチバチバチッ!!!!!
大剣が炉心室の分厚い鉄の床を、まるで豆腐のように真っ赤に溶断する。
それと同時に、限界まで圧縮されていた圧力が解放され、右腕の太い排気管から、凄まじい勢いで『黄金の火の粉と黒煙』が爆発的に吹き出した。
「うおおおッ!? 煙てえ!!」
モルドレッドがむせて酒瓶を落とす。
視界が完全に覆われるほどの、泥臭く、しかし圧倒的に力強い黒煙と火の粉の嵐。
「……ハッ。最高に重くて、最高にやかましい鉄屑じゃねえか」
黒煙が晴れた後。
赤熱した大剣を引き抜き、火の粉を撒き散らしながら獰猛に笑うアッシュの姿があった。
洗練された魔法の光には遠く及ばない。だが、その泥臭い重装甲と、圧倒的な熱量のコントロールは、かつてガラスの大地で打ちのめされた偽物が、新たな高みへと確かな一歩を踏み出した証だった。
「行くぞ。あのクソ忌々しい太陽の残滓を、俺のこの火の粉で、完全に焼き尽くしてやる」
偽りの英雄は、生まれ変わった黒陽の右腕を高く掲げ、獰猛な産声を上げる。
だが、その新しい『牙』の威力を試すかのように、翌朝には最強で最悪の狂犬が、彼に容赦のない試し斬りを仕掛けてくることとなる。
第32話、お読みいただきありがとうございます。
ガラムによる地獄の再手術と、新たな右腕の産声を書きましたが、いかがでしたか?
アッシュくんにはこれからも魔改造予定ですが、どういう方向にしていくかは思案中です。
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