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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter2,『100年の眠りの先』
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9,

 “イツキ”と名乗った精霊護符タリスマンの青年に、天音は納得したようにうなずく。


「《死を運ぶ風(ウィンド・オブ・デス)》。聞いた感じでは……随分と厄介な能力をお持ちのようですね」


 飄々と言ってのける天音に、イツキは少し驚いたように眉を上げた。


「……怖いと、思わないのか?俺は……触れたもの全ての命を奪う」


 そう言うと、イツキは開け放されたままの窓に近づいた。彼の足元には、春先の強い風で飛ばされてきた桃色の小さな花びらが一枚、落ちていた。

 イツキはかがんで、黒い革手袋をした指でそれをつまんで持ち上げる。天音に見せつけるようにそれをかざした、その途端



 ――ざわり……



 一瞬、彼の指先が纏う空気が揺らいだように見えて……


『サァ―……』


 その花びらは、灰になって消え去った。


「っ……!」


 天音がその様子を見て目を丸くする。

 “恐怖”。少なくともイツキにはそう見えた。


 ――結局、こうなるのか


 イツキは、どこか虚しさを覚えながら両手を払う。


「手袋である程度制御していてもこのザマだ。だから言っただろ……。まず、修繕リペアなんて不可能、」



「……すごい、です……!」



 しかし、イツキを遮る天音の呟きに、彼は驚いて天音を見る。

 彼女は……イツキの所業に、目を輝かせていた。イツキはぎょっとする。


「一体、どうなってるんですか?どんな仕組みで、そんな技を!?」


 ズイッと一歩近づいてくる天音に、イツキは思わず後ずさる。


「いや……“精霊の加護(プロテクション)”だから、理屈とか原理とかは分からな、」


「でも……すごく気になります!もっと近くで見せてくださいっ」


 興味津々、といった面持ちでさらに距離を詰めてくる天音に、イツキは焦る。


「だからっ、近づくな!触れたら死ぬって言ってんだろ」


 思わずイツキはそう叫んでいた。天音が立ち止まって、キョトンとしたような顔をする。


「はあ……。話、聞いてたのかよ……ったく」


 イツキは顔を片手で覆う。



 ――俺に、


 触れることが出来るやつなんて、この世界には存在しないのに……



「……別に、心配する必要はありませんよ?」



 しかし僅かな沈黙の後、天音は首を傾げてそんな事を言う。イツキはわけが分からくて顔を上げた。


「何、言って……」


「何って、そのままの意味ですよ」


 そう言うと、彼女はさらにイツキに近づく。彼はまた退くが、終いには窓際に追い詰められた。


「何考えているんだ……自殺でも、するつもりかよ」


 額に汗を浮かべながらも、微かに嘲るような薄ら笑いを浮かべるイツキ。天音はまた首を傾げる。


「私の場合、これは自殺にはなりません」


 そう言うやいなや、天音はイツキの目の前で軽く背伸びをして……



 ――その手で、イツキの頬に触れた。



 一秒、ニ秒……。時間が経っても、天音の様子に変化はない。


「は?なんで……」


 イツキは困惑したように呟く。目の前の少女はたしかに自分に手を伸ばしているし、頬には今まで感じたことのない柔らかなぬくもりがある。しかし、


 ――何故、こいつは死なない……?



「私、“精霊の加護(プロテクション)”持ちなんです」


 天音の言葉は意外なものだった。


「いや……お前、人間だろ?」


 イツキの問いに、天音は首肯する。


「そうですね……通常、プロテクションはアーティファクトにしか発現しません。……でも私の()()はプロテクションなんです」


 天音はイツキの頬から手をどける。



「私のプロテクションは《神聖な贈り物(セイクリド・ギフト)》。この世の、ありとあらゆるものに自らの願いを叶えさせる能力です」

イツキ (見た目は20歳前後。製造は300年ほど前)


種族:アーティファクト(Ⅲ型)

プロテクション:《死を運ぶ風(ウィンド・オブ・デス)》触れたもの全ての生命を消失させる能力


銀の台座に赤色の宝石がはめ込まれた、『精霊護符(タリスマン)』の青年。

大戦で北方軍の機械兵器として利用されたが、その圧倒的な強さと能力から終戦とともに封印された。

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