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(5-12) お言葉

「はあぁぁぁ」

 いつもの洞窟のいつもの岩に座ったとたん、思わず大きなため息が出ました。

 再び聖竜王様のお背中の刺にしがみついて空を飛び、やっと洞窟に戻ってきたところです。今日はいきなり、予想外の展開でした。

 ま、まだ、ちょっと脚が震えてるかも……。


 その時、後ろから聖竜王様のお声が。洞窟の中で鳴かれるのは珍しいですね。

 あ、いえ、違います! ただ鳴いておられるのではありません。これは、私に何かを語りかけておられるのです!

 そうです。私は今や、聖竜王様から直接語りかけていただける立場なのです。


 えっと、浮かんできた言葉を……。え、お言葉がですか? はい、わかります! でも、こんな時はどうすればいいのでしょう? 聖竜王様から返事を求められた時はどうすればいいのか、ネルさんからも教えてもらっていません。

 反射的に頷きましたけど、これで理解していただけるのでしょうか? あ、わりと理解していただけてる……みたい……ですね。


 あ、次のお言葉が。

 えっと……。えっ、わっ、私の名前を!?

 シーナ……です。し……い……な。あ、はい。そうです! それで合ってます!!


 不思議な感覚ですね。普通に耳で聞くと、言われてみればシーナと聞こえなくもないかもという程度でしかないのですが……。それでも私には、はっきり私の名前を呼ばれていることが理解できるのです。

 聖竜王様から直接名前を呼んでいただける人間なんて、世界中探しても、そう何人もいないですよね。まさか私が、そのうちの一人になれるなんて……。あ、ちょっと涙出てきた。


 あ、次ですね。えっと……。人間の言葉を……ですか? え、ええ。かまいませんけど……。

 ということで、それではとりあえず、とっさに思い付いた『空』を、と思ったのですが……。うーん、難しいみたいですね。

 この場合は、聖竜王様の耳は使わずに、普通に聞いてわからなければ意味がないわけですよね。


 え、私に聖竜王様のお言葉を……ですか!? え、ええ。で、ではお願いします!

 聖竜王様が出される音を、必死で真似てみます。えっと、ご? あ、こ……のほうが近いかも。ん? んはんでいいですね。に……ですか? り? いえ、ち……かも。 あ? わ?

「こんにちは」

 これでいいのですか? あ、いいみたいです。私にも、聖竜王様のお言葉が話せました!

 聖竜王様の、挨拶のお言葉だそうです。でも、私なんかが、聖なるお言葉を話して大丈夫なのでしょうか? 聖竜王様に直接教えていただいたのですから、たぶん大丈夫だと思いますけど……。




 聖竜王様が、翼で私の体をそっと覆われました。おやすみなさい。

 ……とは言ったものの、今夜はしばらく寝られそうにありません。まだ、ちょっと興奮しております。


 あれから、さらに聖なるお言葉をふたつ教えていただきました。はいといいえ、肯定のお言葉と否定のお言葉です。そして、いろいろ聞きたいことがあるので、正しければ肯定、間違っていれば否定で答えてほしいと。

 質問のほとんどは、人間についてでした。私にとっては、考えなくても答えられるような当然のことばかりだったのですが、聖竜王様にはとても喜んでいただけました。


 肯定か否定かの簡単な受け答えだけとはいえ、聖竜王様とちゃんとお話できたのです。これって、すごいことですよね。

 明日も、またお話できるでしょうか? もっとたくさんの言葉を、教えていただけるでしょうか?

 いつの日か、聖竜王様の耳に頼らなくても、普通の耳だけで聖竜王様とお話できたりしたら、とても素晴らしいでしょうね。

 あ、まずい。寝ないといけないのに、ますます興奮してきたかも。

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