表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/116

(5-10) 空

「二人はここまで、聖竜王様に乗って来たんですよね?」

 ネルさんが頷きます。

「うちの聖竜王様、出かけるときはいつも私たちを連れて行くから」

 ということは、二人は普段からそのあたりを飛び回っているわけですか。すごいですね。

「シーナは、まだ聖竜王様に乗ったことない?」

「一度だけあるんですけど、体調が悪かったので、あまり覚えてないのです。普段のお出かけの時は、いつもお留守番ですし」

「ああ、エルンの聖竜王様は、あまり連れ歩かないタイプなのか」

「でも、心配ありませんよ」

 フィマさんが笑います。

「なんだかんだ言って、乗る機会はけっこうありますから。聖竜王修道院に入った以上、そのうち必ず、もう飛ぶのは飽きたって言わなければならないくらいになります」

 そうなのでしょうか? 楽しみなような、少し怖いような……。


 しばらく話していると、聖竜王様のお声が。フィマさんが顔を上げます。

「あ、そろそろ帰るみたいですよ」

「ああ」

 ネルさんも頷きます。二人とも、ごく自然に聖竜王様のお声に反応できるのがすごいですね。

「じゃあ、シーナ。次にいつ来られるかは聖竜王様の気分次第だけど、どうせまた近いうちに来ることになると思うから」

「ええ。お待ちしてます」

 二人が、ルーザンの聖竜王様の背中へ登って行きます。さすがに慣れたものですね。

 そして、どうやらうちの聖竜王様もお出かけのようです。ルーザンの聖竜王様と一緒に、どこかへ行かれるのでしょうか?


 ふと見ると、ルーザンの聖竜王様がこちらを見て鳴いておられます。これってもしかして、私に名指しで何かを語りかけて……? えっと、こんな時はどうすれば……?

 い、いえっ、慌てる必要はありません。『聖竜王様の耳』の使い方なら、先ほどしっかりと教えてもらったばかりです。えっと、余計な先入観はすべて捨て、ただ頭に浮かんだ言葉だけをそのまま受け入れ……。

 ええっ!? わっ、私も連れてっ!?


「ほら、シーナも乗って乗って」

「さっそく乗る機会がありましたね」

 ルーザンの聖竜王様のお背中で、ネルさんとフィマさんが笑っています。二人がああ言ってるということは、私の頭に浮かんた言葉は正しいみたいですけど……。でも……、本当に正しいのでしょうか?


 半信半疑のまま聖竜王様に近付いてみると……、聖竜王様のしっぽが私の背中に。これって、いつも背中を拭く時のあれ……ですよね?

 しっぽに体を預けてみると、ひょいと背中まで押し上げていただけました。どうやら、浮かんだ言葉は正しかったみたいです。


 たたまれていた聖竜王様の翼が、大きく開かれた……と思った直後、鋭い羽音とともに体が浮き上がる不思議な感覚が。

「ひゃわっ!」

 思わず変な声が出てしまいましたが、今は気にしている余裕はありません。森の木々が、あっという間に視界の下の方に消えていきます。地面がどんどん遠ざかっていきます。あ、あの、まだ心の準備が……。って、もう遅いですね。




 今、谷に沿って飛んでいるのですが……。両側にならぶ山の頂上と同じくらいの高さです。真下の地面まで、どのくらいあるのでしょう? いえ、あまり考えたくはないですけど。

 しかも、飛ぶ時の聖竜王様は首を少し斜め下に伸ばされるので、私の目の前には本当に空しかありません。

 横を飛ぶルーザンの聖竜王様のお背中で、ネルさんとフィマさんが冗談を言い合って笑っています。

「おーい、シーナ。落ちるなよー」

「大丈夫とは思いますけど、念のために背中の棘につかまっておいてくださいね」

 はい。言われるまでもなく、既に必死でしがみついております。というか、なんでこんなときに笑っていられるんですか!?

 でも、確かにそれほど揺れませんね。いえ、揺れるのは揺れるのですが、聖竜王様のお体が大きいからでしょうか。ゆったりとした優しい揺れ方で、あまりガタガタと振り落とされそうな怖さはありません。

 これならまあ、慣れればなんとかなる……かも。


 あ、少し降りてきました。前方には、ルーザンの聖竜王様の洞窟が見えます。あそこが目的地なのですね。

 聖竜王様が着地されたところで、思わず大きく息を吐きました。ただの地面が、こんなに頼もしく感じたのは初めてです。

 ルーザンの聖竜王様が座り込まれたところで、ネルさんたちが滑り降ります。ああやって座られるのが、降りろという合図なのですね。

 あ、うちの聖竜王様も座られました。急いで鱗の上を滑り降りると、地上ではネルさんとフィマさんが待っていました。

「はい、おつかれ。どうだった?」

 ま、まあ、気持ちいいと言えば気持ちいいんですけど……。慣れるには、まだしばらく時間がかかりそうです。




 他の聖竜王様の洞窟を見るのは初めてです。あちこち案内してもらったり修道院の備品を見せてもらったりして、いろいろと勉強になりました。

 そろそろ日が傾いてきたころになって、聖竜王様のお声が。えっと、浮かんだ言葉をそのまま受け入れ……。あ、ああ、帰るのですね。

 洞窟の外へ出て、ルーザンの聖竜王様とネルさんたちに見送られながら聖竜王様のお背中にまたがりました。

 ネルさんが、笑いながら手を振っています。

「じゃあ、シーナ。もうひと飛び、がんばれよー」

 は、はい。なんとか、がんばります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ