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【5-03】 マナ

 立ち話もなんなので……いや、一応座ってはいるけど、外ではなんなので、ルーザンに洞窟に入ってもらうことにした。

 巫女たちも、三人で集まって何やら話し込んでいる。時々笑い声も聞こえてきたりして、巫女どうしでわりと仲良くやってるみたい。


 ルーザンにお茶でも出したいところだけど、洞窟にはそんなものないな。お客さんに出せそうなものと言えば、川の水でも飲んでもらうか、それとも……。

「え、えっと……。何か、甘いものでも飲む?」

 手近な岩を舐めて、甘めの岩ミルクを少し出してみる。

「あ、それ、おいしそう。じゃ、もらうね」

 わりと遠慮しないタイプなのかな?

 それより、岩ミルクを見ても、ルーザンに驚いた様子はなかった。やはりこれは、ドラゴンにとっては見慣れた物らしいな。


 ぼくが出した岩ミルクを舐めているルーザンを見てふと考える。他のドラゴンが出した岩ミルクを飲むことは、ドラゴンの社会では特に失礼にはあたらないということか。

 でも、こういうのは文化によって考え方が大きく違うだろうから、人間の常識は通用しないことも多いだろう。ドラゴンの社会に入れてもらうなら、他のドラゴンに失礼がないように、そういうのを早く覚えないといけないよなあ。


 ルーザンが、ふと舌を止めて顔を上げる。

「そういえば、あなた、マナの出し方はもう知ってるのね」

「まな……?」

「これ、地のマナ」

 マナって、あのマナ? ファンタジー物によく出てくる?

「あ、出し方は知ってるけど、これが何かは知らなかったんだ」

 ルーザンの説明によると、ドラゴンの主食はマナだという。いや、主食どころか、活動のエネルギーから新陳代謝まで、マナさえあればいいらしい。だから、生きていくのにマナ以外のものを摂取する必要はまったくない。

 そして、この岩から出てくる白い液体の正体は、地のマナがドラゴンの召還に応じて実態を持って出現したもの。食べ残した液体がしばらくすると消えてしまうのは、召還を解除されたマナが実態を持たない本来の姿へと戻っていくから。


「地のマナということは、他のマナもあるの?」

「うん、例えば……」

 ルーザンが首を伸ばして、洞窟の床を流れる川の水を一口飲む。

「これが、水のマナ」

 なるほど。

 そういえば、白い液体をいくら飲んでいても、それとは別に水は飲みたくなるんだよな。水には、また別の栄養素(?)が含まれているわけか。


「それから、つのから吸収するのが風のマナ」

 ドラゴンのつのって、そのためにあるの!?

 ドラゴンが体の大きさの割に妙に小食なのは、口から食べる以外にも、つのから常に風のマナを吸収して活動エネルギーとしているかららしい。

 そういえば、洞窟に定住してから、放浪していた頃に比べて運動量は減ったはずなのに食べる量はむしろ増えたのが不思議だった。これは、洞窟の中でじっとしてることが多くなって、風のマナの吸収量が減ったからだったみたい。

 ということは……。ドラゴンが体内に蓄えたマナのエネルギーを使って歩いたり飛んだりすると、その一部が風のマナとなってドラゴンに還元されてくるのか? 何かのポイント制度みたいだな。還元率が高くなるキャンペーン期間とかあったりするかもしれない。


「あとは、火のマナ。山火事の時とか、火の中に座ってれば一日何も食べなくてもお腹空かないよ」

 ドラゴンにとって、山火事は食事の一種なの!?

 ドラゴンが炎を浴びても火傷しないことは気付いていたけど、実際はもっとすごかった。浴びても平気どころか、むしろ炎のエネルギーを吸収して自分の活動エネルギーにしてしまえるわけか。


 ところで、植物や動物の体にも、ある程度のマナは含まれているらしい。特に地面から直接養分を吸い上げる植物には、地のマナや水のマナがわりと豊富に含まれている。そして、植物を食べる動物から動物を食べる動物へと、だんだんマナが薄まっていくという。

 だから、植物を食べればある程度はマナを補給できる。ぼくがこっちの世界に来てしばらく、木の実だけで生きて来られたように。まあ、あのころは一日中森を歩き回ってたから、風のマナをかなり吸収できたのもあるのだろうけど。


 とはいえ、植物に含まれているマナの量にも限度はある。岩から純度100パーセントのマナを無限に手に入れられるドラゴンにとっては、そんな効率の悪い方法でマナを摂取する理由はない。ドラゴンも植物の実などを嗜好品として多少食べることはあるけど、本気でマナの補給のために植物を食べることは普通はないらしい。

 まして、積極的に狩りをしないと手に入らないうえにマナも少ない動物の肉は、そもそも食べ物だと思ってもいないくらいだとか。

残念ながらキャンペーン期間はありません。

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