百三十八.不可能の無い男 石原
「ニャんじゃこりゃあ?! 景色が変わってっ変な場所にニャった!?」
「ほっほっ、懐かしいのぅ……昔婆さんと行った演劇の舞台そのものじゃ」
「ばっはっはっ! これがジローの出身国ーー島国【キミガヨ】秘伝の【職業展開】さ!」
舞台正面の遠い観覧席からド=ゴーン達の声が届く。やっぱりファンタジー世界特有の日本的な国はあったんだな、しかし何だその国名。
まぁそんな事よりもだ、ダサいしふざけたようなフィールド展開技術だし、もういいかと思って棒役者との戦いを早く終わらせようとしたがーー中々にこれは厄介なものだった。
「ーー御免っ!」
棒役者は本物の侍のような速業で木刀を振るう、俺は躱そうとしたがいつも通りに体がよく動かんし技術も上手く発動しない。木刀が掠めた頬から血を浚う。距離を取ったが、いつもならすぐ治る傷口も中々完治しない。
ふむ、成程。これが自分のフィールドに相手を引きずり込んだ効果か、普段通りのパフォーマンスが発揮できないというやつだ。
「イ……イシハラさんが攻撃を躱しきれなかった……!? それほどに凄い剣捌きには見えませんでしたが……」
「ふん、それこそが【職業展開】の真髄さ。誰であろうと相手の職場内に引き込まれれば普段通りの技術を発揮できなくなる……動きも鈍る。今、イシハラの眼にはジローが剣の達人と錯覚する程に映っているはずだよ」
確かにな。
まぁ普通の剣の達人くらいならどうって事はないと思うが、この職場に入ると否応なしーー強制的に弱体化させられるというのがまた厭らしい。どうやらこれは状態異常には含まれないらしく【無の極意】も発動しない。相手を強制弱体したうえで自分を活性化するーーか。
棒役者は興が乗ってきたのか知らんが剣捌きの精度と速さをどんどんと増す、尻上がりスターターらしい。
「くく……左様である。某の天性職業……【役者】の技術【再現演技】はなりきった役の技術を完全再現する……『侍』であれば『侍』の技術を、『軍人』を演じれば『軍人』の技術を扱う事が可能……某が未熟であるが故に今回の役『侍』というものを理解再現するのに時間がかかってしまったが……もう掴んだ」
【『侍』技術ーー『五月雨』】
ガキィィィンッ!
「!!」
鋼同士が打ち合う音が響く、棒役者の技を食らう前に取り出したライトセイバーと木刀とが重なった音だ。
木刀は既に真剣のようになっているらしい、ライトセイバーも強度が落ちているせいか木刀を両断とはいかないようだ。
「何とっ……!! 光輝く刀っ……!! げに面妖な男であるな……某の職場に入りながらも怖気どころか覇気すら微塵も感じさせぬとは……明鏡止水の境地に至りしその精神……確かに大言を吐くだけはあるというもの……」
なんか小難しい事を言って俺の事を過大評価しているが勘違いだ、想像していたフィールド展開と違ったからやる気が無くなっただけ。
「いやぁ、だが本当に凄いぜ? 【職業展開】に初見であれだけ適応する奴なんざ見たことがねぇーーイシハラがいれば俺らの悲願もマジで叶うかもしれねぇな、そうだろツバキ?」
「…………認めるよ、あたぃが初めてあれを喰らった時は正にまな板の上の魚同然だったからね……技術も精神もあいつは一味違う……あれで警備兵だっていうんだから驚きさ。ジローが相手じゃなきゃ職業展開しても危うかったかもしれないね」
「でしょでしょ!? いやーあーしのおかげだよね、偶然だけど見つけてきたのはあーしだし……あれ? なんつーんだっけこーゆーの……人材発掘? 真なる眼? まぁなんでもいっかー。良かったねみんな! これで大会にも出場できるじゃん!」
「「「…………」」」
レジスタンスグループがわいわいと騒ぐ、人が鍔競り合いしてるのに喧しいな。それに対して何故か猫娘達は無言で神妙な面持ちをしている。
すると、またもやイライラした様子で騒ぎ出した人物がいた。ムセンとヤンキーだ。
「…………ちっ、気にいらねぇな。おい、勝負はまだついてねぇだろうが、なにもう終わった気でいやがる」
「……ビリー……?」
「……イシハラの実力は認めるさ、だけど職業展開に抗う手段は限られてる。今のイシハラじゃあ対応できないよ、この勝負はジローの勝ちさ。安心しな、あんた達はちゃんとレジスタンスに入れ……」
「ふざけんな。どんな相手だろうがあの野郎が簡単に負けるわけがねぇ、唯一負かせるとしたらそれぁこの俺ビリーだ! おい! 遊んでんじゃねえ! さっさと片付けちまえや!」
「ヤンキー君、そんな簡単な話じゃないよマジで。職業展開した相手に勝つのはさ……あれ? どうすんだっけリーダー?」
「まぁ……手っ取り早いのは【自分も職業展開する】のが一番だな。あれは精神力と体力で持続させるもんで慣れた奴でもいいとこ3分~10分が限界だ、当然、後出しできればそいつのが有利にはなる。それまでに持ちこたえられればの話だが……」
「成程、ここで旦那が職業展開できればひっくり返せるわけですかぃ」
「竜が喋った!? なんだぃこの生物!?」
「今更かよ!」
「イシハラさんっ!! 同じように職業展開すればいいそうですっ!! やっちゃってください!!」
ムセンからの檄が飛ぶ。
何を当然且つ簡単に俺が職業展開を使えると思ってんだこいつら、今日初めて存在を知ったんだぞ。無茶振りにも程がある。
「おいおい……何言ってんだ嬢ちゃん。イシハラはもう既に体力を削られてる、仮に使えたとしても展開できるだけの体力なんざ残っちゃ……」
「そんなわけないじゃないですか、よく見て下さい。ジローさんが木刀を両手持ちしてるのに対してイシハラさんは片手で剣を持って競り合ってます。あの人の体力は無限なんですよ?」
「!!」
しかしまぁ、だらだら戦うのは性に合わないし今はなろう時代だし何より今はこんなんに時間使ってる場合じゃないな。
さっさと終わらせてシューズ編を片付けよう。
「くくく、はははっ! 秘中の技術だと言っておろうが!! 真似できるものならしてみれば良い!! 展開には職業特有の印を結ばなければならぬ故にどうしても隙と溜めが必然となる!! その隙に刀の錆びにしてくれよう……」
そんな事をする必要は無い、何故なら既にその印は『出来上がっている』から。
やはり地球の警備員のポーズと言えば、誘導棒を前に突きだし横にして両手を添える『通行止めの印』。他にも車に止まってくれの意思を伝える意味もある。
鍔競り合いでちょうどライトセイバーは横になっている、後は左手を添えるだけ。頭を下げるのも忘れずに。
ーー【職業展開 職場開放】ーー
『環状交差点』
「「「「!?!?!?!?ーーなっ?!?!」」」」
出来た。
景色はラウンドアバウトと呼ばれるドーナツ形道路に変わる。
レジスタンス勢と猫娘は口を大きく開け唖然としている。ヤンキー、シャベリュー、爺さんも驚いた様子だったがその中でムセンだけ唯一、嬉しそうな顔をしていた。
「驚きませんよ、イシハラさんが負けるわけないって信じてますから。あの人はどんな不可能でも可能にできるんですから」




