■番外編.集結する悪意② ※無色の騎士【ミンネ】視点
私は今、ウルベリオン城にある執務室にいます。
目の前には騎士の階級制度が撤廃されてから総括の指揮権を与えられ統括者に任命された元騎士団長のジャンヌ様がおられます。
引退してからも国のために騎士の育成等に尽力してくださっていましたが魔王軍との戦争以来、前線に復帰し常時忙しそうに働いておられます。
今日は私に課された任務の中途報告のため、執務室には私とジャンヌ様の二人だけでした。私は手早く簡潔に、【アーサー】と【マリオン】が反旗を翻えすために辺境伯【マルグラフ】に接触しようと試みている事実を伝えます。
「成程……報告ありがとう。まさか貴女みずから動いてくれるとは思わなかったわ」
「……単なる贖罪です。防衛戦の時には……恐怖から逃げてしまいましたから……」
「けどその後、幹部の情報を迅速に伝えてくれたり怪我人を治療してくれたじゃない。貴女がいなければ間違いなく手遅れだった兵士もいるわ」
「………そんな事は……」
「自信を持ちなさい。貴女の腕を買ったのは私よ? 貴女は唯一無二の人材なんだから。とにかく……相手はあのアーサー、万が一の場合対抗できるのは貴女しかいないの。イシハラ君は別件でいないし、マグマやシャドウはやりたがらないしね。【無色の騎士 ミンネ・ミンストレブル】」
「……」
相も変わらず、ジャンヌ様は私に過度な期待を寄せます。
(私にはそんな実力など無いのに……)
序列制度があった時の私の序列は【特別色】といって十二人の精鋭騎士とは枠を画した存在とされていました。
放浪癖と逃げ癖があり、どう考えても騎士として向かない私をジャンヌ様が何故か買ってくださって十二色騎士団とは別の位置にいる……いわば【十三人目】として優遇してくださいました。
(私が騎士としては珍しい職業を兼任しているが故に過剰な期待をしているだけです……私に兵士達を率いる度量などありません……)
しかし、今は自身の自信の無さなどを考えている余裕などありません。元序列一位と元軍師、更には雄大な国境地帯を有する辺境伯が結託しての謀反。その可能性が起こりうる現実となるならば、それは新魔王軍と同等の脅威になりかねないのですから。
「本来ならば諜報員の仕事だけど……人手が足りないし、何よりアーサーの野性的な勘の前に諜報技術は通用しない。貴女の『技術』ありきの重要な任務よ。引き続き貴女にお願いするわ。マルグラフとマリオン達が接触するようなら阻止して頂戴。既にマルグラフの領地には一人『影』が潜伏してるから現地で合流して」
----------------------------
--------------
-------
〈ウルベリオン国 辺境の村 『オレオレオ』〉
ーーとの命令を受け私は早馬でマルグラフ候の領土端にある小さな村に到着します。周囲を森林にて囲まれたのどかな村で、町中央の広場では子供たちが無邪気に遊んでいます。
(……マリオンとアーサーはもうこの地に来ている……辺境伯と邂逅するのは時間の問題……すぐにでも行動しないといけませんね……)
私がこれからの行動を外椅子に座りながら考えていると道行く村人達が怪訝な眼差しをこちらへ向けていました。遠目から傭兵らしき男達が向かってくるのも確認します。
(マルグラフの私兵でしょうか? 村に来た余所者を片っ端から取り調べている……? 余程疚しい事があるのか……とにかく、逃げなければ……)
私は私兵達がこちらへ来る前に民家の裏へ逃げ込み、森林の中に身を隠します。
【最適性武器】を背負った箱から出し、構え、心を落ち着けます。
(大丈夫……大丈夫……この距離ならば届きます……自信を持って……)
そして、私は音を奏でます。
【吟遊詩人 適性武器リュート技術 『愛・盲目の旋律』】
------------------------------------------
・騎士 兼 吟遊詩人であるミンネの技術。奏でる音色を聞いた者に特殊な効果をもたらす。
------------------------------------------
ポロロン………
こちらに向かってくる私兵の足音は段々とゆっくりになり、やがて私の鼻先で止まります。複数人いるようで私は取り囲まれ……私兵達の視界に捕捉されました。
「おい、いたか? この辺に逃げ込んだ筈だ……虹色の髪をした特徴的な女なんだからすぐ見つかるだろう」
「いや、いない。この吟遊詩人の女は……虹色の髪色だからな……」
「そいつはどう見ても虹色の髪色だろ! そいつじゃない! ちっ。何処へ行ったんだ……他を捜すぞ!」
私兵らしき男たちは私を無視してその場を離れました。端から聞くと全く噛み合っていない会話、どうやら技術効果が上手く効いたようです。
(良かった……この旋律は聞いた者の目的を誤認識させる……あの私兵はこれでもう私をまったく認識しない……路傍の石ころと同じように……容姿が一致しても目的が私と捉えられない。これで村に溶け込めそうですね)
この音を奏でていれば私は堂々と対象に近づける、喩え私の顔を知っている者でも私だと認識できませんから。
「まずは……影と合流しなければなりませんね……辺境伯の所在を突き止めているはずです。そしてーー」
「ーーへぇ、すごいね。そんな技術もあるんだっ、見失うとこだったよ~!」
「!!!」
後ろから、凄く陽気な声が聞こえ、その声の持ち主を視界に入れる前に、私の記憶は途切れました。何か、熱さを感じた事だけは、記憶しています。
(そん……な……警戒……していたはず……なのに……まったく気づけなかった……何より……私の技術が……通用して……な………………………)
ドサッ………




