百二十八.買い物は計画的に
「雨天とツリー・ネイチャーセイバーは共に重傷だって……峠は越えたらしいけど……しばらくは動けないみたい……」
ギルドに来たウテンの同僚の仮面女はそう言った。
俺は現状判明している事情を整理するために質問する。
「治療にあたっているのはムセンか?」
「うん……そう。あたし達諜報員は属性検定技術による『暗号通信』っていう資格技術を持ってて……離れた場所からでもステータスを介して文字のやり取りができるんだけど最後のメッセージにはそう書いてある……それで『いー君がシュヴァルトハイムにいるはずだから伝えて』って……」
ふむ、何があったかは知らないがムセンが治療にあたり技術を使って連絡がとれるくらいなら命に別状はないか。少なくとも現時点では。
イルムンストレアの船、ということはシューズが自国から迎えを寄越した。そしてシューズは自ら囚われ、それを救おうとしたムセン達とでひと悶着起こしたという事だろう。恐れていた懸念が現実のものとなったな。
「現状わかっているのはそれだけなんだな?」
「うん……」
「ならばさっさと向かおう、新キャラも来るか?」
「その呼び方やめてよ!……あたしは行けない、今ウルベリオン国でもちょっと問題が起きてて……仕事中に抜け出して急いで来たの。でもこっちの事は気にしないで、雨天を助けてあげて……」
ならば仕方ない。
戦力は大幅ダウンするがウテンとですわ騎士はもう連れていけないだろう、残った俺達でなんとかするか。まぁ人手のことは後回しだ、だもん騎士と骨っ娘を連れて急ぐとしよう。
俺は悩んでいるずっこけーズを今度こそ無視してギルドを出た。
「あっ! ナツイにゃん待ってっーー」
バタン
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◇<王都バルトルイム> →→ <ガラス街道>
俺は王都入口で待っていただもん騎士達と合流し、地竜車とやらに乗って街道をひた走る。走ってるのは竜だけど。
異世界に来て初めて竜というものを見た、荷車を引いて走るその姿は猛々しくも壮美である。ふむ、やはり竜は男のロマンだ。
形態変化した焼き鳥ほどではないが充分に速い、この調子なら一日もあれば着くだろう。
そういえば話の中に焼き鳥が出てこなかったがあいつはどうしたんだろうか、ムセンと一緒にいるのか?
「ナツイ、あの警備兵達は置いてきてよかったの? 手を貸してもらうんじゃなかったの?」
「そう考えていたが技術と経験が足りない、ウテンとですわ騎士を退けるような兵力の国を相手取るには力不足だ。いない方がいい」
「……ふふ、知ってる。ナツイはいつも口ではそんな事言うけど……彼らとこの国を巻き込みたくないからでしょ? 優しいんだから」
だもん騎士はまた勝手に人の事を過大評価する、あのずっこけ三人組の有り様を見てないからそんな事が言えるんだ。
「だけど……本当に大丈夫アルか? 騎士さえも簡単にはね除ける兵力を有する国をこれから相手取るアルよ? なにか算段はあるアルか?イシハラ様」
「あるわけないだろう、流れるままにその場その場で対応するだけだ。作戦を考えるのは面倒だからな」
「……めっちゃ不安アル……」
骨っ娘は隅っこで体育座りをしながら不安そうな表情をした。
ちなみにこの荷車を引く地竜は大陸の各拠点を記憶しており、戦闘力もあるため御さなくても最短ルートで障害を排除しつつ勝手目的地へ向かうらしい。だから俺達は全員で荷車内にいるわけだ。
なんて便利なやつだ、と俺は地竜の購入を検討する。
「まぁとにかく話はムセン達と合流してからだ、何が起きたのかもわからずに話し合ってても仕方あるまい」
「……まぁそれもそうアルね」
願わくばこれ以上余計なサブイベントが起きないように祈るくらいだ、予想するにムセン達がシューズを取り戻そうと一戦交えたという事はインスタバエとかいう国でのシューズの処遇は死刑かそれに近いものだったと推測できる。
つまりは更なる時間的制約がかかったわけだ、さすがにすぐに処刑が行われるわけはないだろうがこれ以上他のイベントに構っている余裕はないだろう。
「あ、なんか建造物が見えてきたネ」
骨っ娘は荷車の窓から外の景色を見て呟く、遠景に見えるのは俺がついさっきまでいたフランクフルト遺跡だ。
魔物を産み出していた奴を排除したおかげで魔物の姿はほとんどなくなっている。
魔女はきっとあの中で地球の文化を楽しんでいる事だろう。
「ーーっ!!!???」
すると突然、叫びを漏らした骨っ娘の表情が一変した。
まるで何か予期していないものでも見てしまったかのような、ずっと探していたものでも見つけたかのような、驚きのような、怒りのようで喜びのような、どちらとも取れるような矛盾を孕む表情に。
その異変にだもん騎士も気づいたようで骨っ娘に声をかける。
「ど、どうしたのだリィ君。何かあったのか?」
「………」
骨っ娘は窓枠に手をかけ、俯いたまま声を発さず質問には答えなかった。
しかし数秒後、微かに聞こえるくらいの声量で何かを呟きーー
「ーー見つけたアル」
バッ
「!!」
ーーそして、荷車から飛び降りた。
だもん騎士はそれを予想していなかったようで驚き、固まる。
地竜車は止まらず、骨っ娘が上手く着地できたかどうかは知る由もない。
「ーーリィ君!!??」
少し遅れてだもん騎士は窓枠から顔を出し叫んだ。
一体何をやっているんだ骨っ娘は。俺達は地竜車を一旦その場に止め荷車から降りた。
「リィ君!!? 何をやっているのだ……あ、あれ!? いない?」
「あそこだ」
飛び降りた地点に骨っ娘はいなかった、もう既に目的地まで走って行ってしまっていたからだ。
俺は遺跡の方に指を差す、周囲を見回すだもん騎士もそれを見て遺跡の方を向いた。
骨っ娘は迷うことなく、遠目に見えるフランクフルト遺跡を目指して走っていた。
「あそこは……魔女の住む遺跡? 何故あのような場所にリィ君が?」
「知らん、そもそも興味もない。あいつが何を探しているのかもな」
とにかく目的の何かを見つけたのだろう、どうでもいいが。
それよりも構っている時間などない、さっさと行くとしよう。
「ま……待って! 置いていくの!?」
「当たり前だ、時間がないと言っている。骨っ娘の事情に関わっている余裕などない」
「……………」
だもん騎士は複雑そうな表情をする、あいつをここまで連れてきたのはだもん騎士だ。その責任を感じているのだろう。
仕方ないな、更に人手が減るがこんな状態で連れて行っても危険なだけだ。
「気になるなら行ってやれ、お前が連れてきたんだ」
「…………………でも私は……」
「民を救ってやるのが騎士なんだろう、そこに格差などない。職業と同じでな」
「……………………ナツイ………ありがとう………」
だもん騎士はそう言って、俺の頬に手をやり唇を重ねた。
長くそうした後、だもん騎士は瞳を潤わせ額に額を合わせながら言った。
「約束する、必ずちゃんと解決してナツイに追い付くから。その時は貴方の剣としてーー妻として今度こそ役に立ってみせるから」
「ああ、わかった」
俺はだもん騎士に一つだけ懸念している事を伝えて見送った。
はからずも一人になってしまったが仕方あるまい、人生というのはいつもままならず災難というものは必ず連続してやってくるものだ。
荷車に乗り込み、地走竜にGOサインを出す。
「……いやぁ旦那ぁ……モテモテでございやすねぇ……羨ましいかぎりでさぁ……」
「お前喋れたのかよ」
突然、竜がドスの効いた低い声で喋りだしたため俺は地走竜の購入の検討をやめた。




