百二十六.シュヴァルトハイムの警備兵たち
<王都バルトルイム『警備ギルド』>
俺と警備兵ずっこけ三人組は魔物討伐を終えて王都に帰還した。
ずっこけ三人組は遺跡で得た収穫物を色々換金したり、冒険者ギルドに寄って魔物増加の原因に自分たちが対処したとケンカを売りにいったり、王都兵士たちにその証拠である物証を提示しに行ったりと警備兵の功績をこれでもかと見せつけに行ったりするのに忙しなかった。
俺には関係ないしつまらないので一人で先にぶらぶらとギルドに戻る事にした。
ガチャ
扉を開くとそこには見知らぬ人物がいた。
眼鏡に銀髪のオールバック、一見すると温和で物腰が低そうで紳士的な優男といった感じの線の細いその男はちらりとこちらを一瞥する。
漫画で例えるなら『普段は理知的で頭脳明晰なアドバイザーだが裏では実は悪の幹部で主人公たちを苦悩の末に裏切っていた』的なポジションにいる感じの男だ。『ふふ……いけませんねぇ、昔の血を思い出します』とか言いながら眼鏡をクイっとさせて人を殺すのに躊躇しない感じのキャラ、簡単に言うとインテリヤクザだ。
「ふふ……いけませんねぇ、ここは関係者以外に立ち入り禁止ですが……仕事の依頼といった感じでもなさそうですし……何か御用でしょうか?」
本当に言った。
「俺はイシハラだ、よろしく。お前んとこの警備兵達から仕事の協力依頼を受けて解決して今帰ったところだ」
「…………そうでしたか、面倒をお掛けして申し訳なかった。報酬はエア達が帰ったら受け取ってください」
そいつは特に経緯などを聞くわけでもなく、全てを理解しているかのように、いや、違うな。理解する気など更々ないかのようにそれ以上なにも言わなかった。
俺も同類だから分かる、こいつには一切の活力がない。
予想するにこの男はこの警備ギルドのマスターかなんかだろうが、俺も興味なかったのでそれ以上なにも聞かずにそいつの対面に座って待つ事にした。
ところでだもん騎士と骨っ娘はどこ行ったんだか。
ガチャ
「あっ! イシハラ様帰ってるネ!」
「おかえりナツイ、お疲れ様。リィ君から経緯は聞いたよ。ご飯にする? 一緒に寝る? それともこのまま出発する?」
と、思ったら直ぐに帰ってきた。
相変わらずの喧しさで静かだったギルド内が一転して騒がし空間に変わる。
「首尾は上々か?」
「ええ、地走竜は借りてきたわ。ちょっと話し合いが難航しかけたけど何も問題ないわ」
よく見るとだもん騎士の鎧には返り血がついていた。
きっと話し合いと称したバトルかなんかを繰り広げたんだろう、それ以上聞くとなんかしらの新たな問題が発生しそうだったので思考をシャットアウトする。
「それに情報も掴んだわ、ウルベリオンの行商人が港町に向かう際にこちらに移動物資調達のために寄ったそうなんだけどそこで水色髪の女の子を一緒に見たって。もしも魔物に襲われてなければ時間的にもう港町にいるはずよ」
ふむ、街道の途中にある遺跡群には他に人はいなかった。
道中にいないという確証は得ないが、俺達ももう港町に直行してムセン達と合流した方が早そうだ。あとはムセン達の掴んだ情報に頼ろう。
「なら猫娘たちが帰ってきたら出発する、準備しておけ」
「わかった、リィ君。手伝ってくれ」
「わかったアル、それよりもそこにいる人誰アル」
バタン
俺は余計な事を聞こうとした骨っ娘を押し退けて扉を閉めた。
こいつが誰かなんか掘り下げても仕方あるまい、また面倒な問題でも発生したら堪らん。
「……君達は何者なんだ?」
すると突然、インテリヤクザが話しかけてきた。
「ウルベリオンの警備兵と愉快な一行だ。理由あってこの国に来た、お前んとこのずっこけ三人組を少し借りるぞ」
「……それは正式な依頼と言う事でいいのかな? そうでなければこちらがそれに了承するわけないだろう」
「知っている、正式な書類など何もない。そっちの用事を手伝えばそれに応じるというただの口約束だ、あとはずっこけ三人組とお前さんの裁量と判断に任せるさ」
「………うちの警備兵を使って何をしようというのかな?」
「大した事じゃない、同僚に借りたものを返すためにちょっと国に戦争を仕掛けるかもしれないだけだ」
「………ふっ、何の事かはわからないけど大層な仲間意識というわけか。忠告しておくよ、きっと上手くはいかないと」
インテリヤクザは乾いた笑みを浮かべながらそう言った。
どうもこいつの感情はいまいち読めないな、無気力で全てを諦めたようなどうでもよさそうな無表情と眼をしている。
まるでブラック企業勤めのサラリーマンのように夢も希望もあったもんじゃない。
すると再度、ギルドの扉がけたたましく開いた。
「ただいまーニャ♪ あっ、ナツイにゃん! 帰るなら一言くらい言ってニャ! 何処行っちゃったかと……あっ、局長……帰ってたニャ」
「うっす! マスター! 聞いてくれよ、クソどもの鼻を明かしてやったぜ!? オレ達で遺跡にいた魔王軍の魔物をブッ飛ばしてやったんだ!!」
「ほっほっ、久々に酒の肴を買えるわい。めんこいオナゴとレッツパーリーじゃ」
ずっこけ三人組が上機嫌で帰ってきた。
この様子だと成果は上々、この国の警備兵を蔑んでいた連中に多少なり復讐事ができたみたいだな。
「おかえり、エア、ビリー、ジレ。早速で悪いけど説明してくれるかな? 僕がいない間に色々問題を起こしたそうだけど……弁明はあるかい?」
「あ…………えっと……」
インテリヤクザが声をかけると三人は一転、急転、嘘みたいにテンションを下げた。
勝手に街道で検問みたいな事をしたを言っているのだろう。
「キミ達が『最初の警備兵アラン』を崇拝しているのは知っている。だが、功を焦って越権行為のような真似をするのはいただけないな。ギルドのためを思っての行為だろうと逆効果にしかなっていないよ」
「……で……でも……!」
「仕事を依頼されて動くのが警備兵だ、出過ぎた真似は許されない。そんな事をしても誰からも感謝なんかされないし迷惑がられるだけだといつも言っているだろう。受けた仕事だけを完璧にこなしていればいいんだよ、君達の行為は単にありがた迷惑なだけさ」
「…………」
三人は反論しようとするができずに口をつぐむ、ヤンキーなんかは反抗してケンカにでもなりそうなもんだが大人しい。どうやらインテリヤクザには逆らえないようだ。
まぁ仕方あるまい、だってこいつの言う事は正論なんだから。
「そして外部に助けを求め、その功をあたかも自分達の功績のように振る舞って今度は勝手に余所の事情に手を貸そうとしている。これ以上恥の上塗りをやめて大人しくしているんだ、彼にはお引き取り願って君達には別の依頼を用意する」
「ま……待ってニャ! 局長っ……!」
「そうか、ならば仕方ない。ちゃんと仕事しろよ、ずっこけ三人組。それじゃ」
俺はインテリヤクザの言う事を了承して席を立ち上がった。
約束はしたが仕方あるまい、元々口約束だしずっこけ三人組にとってはこれからやる事は自分のギルド、ひいては自分の国にまで影響を及ぼしかねない、こっちの事情だ。
こいつらにはこいつらの事情もあるだろう、上には逆らえないだろうし放っておいてやるか。
人手が必要だったが別の手段でも考えるか、と思いながら俺がギルドを出ようとした時──意外な人物から待ったがかかった。
「──待てよ」




