百二十四.イシハラと魔女の計画②
「お兄さん……できた?」
「うむ、なんとかなった」
俺は鏡を魔女に見せる。
鬱陶しい散乱した髪は掃除機で吸った。
「……凄い……上手……」
鏡の中には銀髪の美少女が目を輝かせていた。
魔女の妖怪のような髪が鬱陶しかった俺が魔女の散髪を行ったのだ。
地球にいた時に美容院に行くのが面倒だった俺は自分で自分の散髪をやっていたからなんとかなった。
さすがに女性の髪を切った事はなかったが要領は大体同じだろう。
「ふむ、これで準備は整ったな。じゃあ娯楽探しをするか」
「……お兄さん、意外とマメ……もっと嫌がられるかと思った……」
「マメなわけじゃない、ただ気分によってメリハリをつけているだけだ。やる時は徹底的にやる、やらない時は何もしない。オンとオフを切り替えなければ人間はダメになっていくだけだからな」
そうでもしなければこの魔女みたいにゴミ屋敷に埋もれてただ無為に時間を過ごしていく引きこもりになるだけだ。
そうすると働く意欲が無くなり、何もやる気が起きなくなる。
そんなものは俺の欲する『だらだら計画』ではない。
「……なるほど……それがお兄さんの掴めなさの正体……全てはお兄さんの気分次第……今日はオンの日?」
「ここでは時間の概念がないんだろ? 今日は、じゃなく俺のやる気がなくなるか部屋の魔改造が終わるまでだ」
「……ちなみにやる気がなくなるようなスイッチは何があるの?」
「腹が減るか、眠くなるか、気分が悪くなった時くらいだ」
「……じゃあそれがこなければずっと動ける?」
「どうだろうな、仕事以外でそんな長い時間動いていた事がないからわからん。大体人間の体は18時間くらい経つと眠くなるようにできているからな」
俺はパリピじゃないから仕事以外でオールなんてした事がない、するわけがない。
人間のあるべき姿は夜は必ず寝るものだ、夜通し遊ぶなど狂気の沙汰以外の何物でもない。
一体何の話なんだこれは。
「だから俺のやる気がなくなるまでは部屋の改造に付き合ってやろう、ここを地球文化に染め上げてやる」
「……ひひ……久しぶりにワクワクしてきた……お兄さんといると凄い楽しい……うひひ……」
魔女は魔女らしい奇妙な笑いかたをしてはりきり出した。
俺は滋養強壮剤みたいなものをイメージして飲んだ、疲れそうな時はやはりこれに限る。
----------------------------
◇【遊園地】【プラネタリウム】【植物園】【映画館】【ボウリング場】【ビリヤード場】【フットサルコート】【庭園】【美術館】【海水浴場】【アスレチック場】【電気街】【カラオケ】
俺は恋愛シミュレーションゲームの選択肢みたいな娯楽施設を片っぱしからイメージして空間に乱立させた。
生物はイメージしても発現できないことから動物園や水族館は除外した。
マフィンフィールドはすっかり娯楽施設に埋もれている、ここの土地に家を建てようものなら子供に大人気になる事請け合いで資産価値は跳ね上がるであろう。
-------------------------------------------
∇『遊園地』
「お兄さんお兄さん! あれ何!? 巨大なティーカップの中で舵を回すの!?!? キャーっ♪」
魔女は初めて見る文化に虜になり、はしゃいでいる。
まるでさっきまでぶつぶつ言ってた奴とは別人のようだ。
髪を整え服装もファッション雑誌を読んで選んだせいか、まるで休日を過ごすただの中学生か高校生にしか見えない。
∇『映画館』
「ここは……大きな映像投影装置にお兄さんの記憶してる物語が流れるのね? やばい! これだけで20年は過ごせそう!」
実際この魔女は何歳なんだろうな、120年前とか言ってたしそれ以上は確実なんだろうけど。
毛ほども興味なかったので俺は考えるのをやめた。
∇『電気街』
「凄い! 長細い建造物だらけ! これが地球の街なのね!? 目がチカチカする! お兄さんお兄さん! この機械はなに!? なにこの円盤!? ここに情報が記録されてるの!? この機械で読み取ればいいの!?」
魔女は秋葉原を模した電気街をうろちょろしている。
人がいない電気街というのも乙なものだな、とりあえずここでゲーム機だの漫画だのを与えておけばあと100年は引きこもれるだろう。
本格的な駄目人間になりそうだけど。
------------------------------------------
----------------------------
--------------
∇『海水浴場(夜)』
おおよそ丸一日分くらいの時間の体感を遊び尽くした俺達は休憩のために海水浴場で砂浜に座る。
どうやら天候や時間経過による風景変化も可能らしく、落ち着くために星空が辺りを照らす夜の海をイメージした。
「やばい……やばいよ……お兄さん。人生の楽しみが増えすぎだよ……とりあえずアニメーション視聴制覇から始めなきゃ………一万作品も記憶してるなんて凄いねお兄さん」
「細部は曖昧だから完璧ではないがな。面白い作品は大体記憶できる」
「地球の食べ物も楽しまなきゃ……本を読めばイメージできるかな? 植物も管理しなきゃね、たまに息抜きでサッカーしてー、服は毎日変えてー、毎日星を見ながら寝てー……」
「楽しそうでなによりだ」
「……お兄さん、もうずっとここにいない……? お兄さんがいれば二人でする事もできるし、もっと色んな文化を取り込めるし……なによりお兄さんと二人でいるのが……」
「断る」
「……どうして? ここだったらお金も必要ないし……適度に働きたいなら仕事だってつくるし……ずっと時間を止めておけばオルスでの影響はないからお兄さんの目的も遂げられるよ……? 飽きたら出ていけばいいんだしさ……肉体的には歳もとらないよ?」
「それで? その後はどうなる? 娯楽のほとんどをここで遊び尽くして何になる、その後何の新しい発見もなく人生を過ごせと?」
「……あ」
「時間は有限だからこそ人生は楽しくなる、恐らく死ぬまでにやりたい事全てを体験するなど不可能だろう。どうしようもなく不自由で、イライラして、理不尽で、その場で最良の取捨選択をするしかない。そしてやりたかった事はできずに死ぬ、それが人生だ。だが、だからこそ必死に考えて生きる。死ぬまでに必死にやりたい事をやる、だから楽しい。要は俺は死ぬまでに退屈したくないんだ、だから断る」
「………………やりたかった事はできずに死ぬ、かぁ……私もそうだったらいいのに、な……」
「何がだ?」
「……ぅうん、何でもない。……ありがとねお兄さん、付き合ってくれて……私に生きる楽しみを与えてくれて……本物の地球はもっと楽しいんでしょ? 私、待ってるね。いつかお兄さんと一緒に地球に行ける日」
「そうか」
何やら悲しそうな顔をして魔女はそう言った。
「……お兄さん、疲れたでしょ? 私も眠くなってきちゃった……最後に一つお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「……隣で一緒に寝かせて……もう限界……おやすみ……」
そう言って魔女は人を押し倒して砂浜に寝そべらせて、重なるようにして勝手に寝た。
一日はしゃいで疲れたのだろう、俺も付き合わされて眠くなってきたな。
魔女は起きそうにないし、俺も寝るとしよう。
起きたらさっさと行くか、猫娘も待たせていることだしな。
あ、時間経過してないから別に待ってはいないのか。
ま、どうでもいい。気持ちの問題だ、ムセンもシューズも何かしらのバトル展開を勝手に巻き起こしてそうだしさっさと行かないとな。
仕事仕事だ、警備を始めるとしようか。




