side story6.表情 ※ムセン視点
ダラララララララララララララララッ!!
おおよそ港町に似つかわしくない薬莢の弾ける音が辺り一帯に響きます。
ネットさんの持つ剣の持ち手から銃身が飛び出し、ツリーさんに凶弾を放ったのです。
(そういえば……周囲の方々は何故私達を気に留めていないのでしょうか? 町中で争いごとをしているのに……って! 今はそれどころではありませんっ!)
連続で放たれた弾丸はツリーさんの操る蔦を軒並み破壊しています。二人の姿は銃口から大げさに生じた煙に呑まれて見えなくなってしまいました。私もウテンさんもその火力に圧倒されて動くことができません。
やがて、永い銃音は止み時間と共に煙を晴らしていきます。
「ふぅ……異界出身の【鍛治師】に無理を言って取り付けてもらった甲斐がありましたかね。しかし……いささか煙を出しすぎます。まだまだ改良の余地がありそうですね」
先に言葉を放ったのはネットさんでした、煙に覆われた影から見た限りでは蔦は完全に排除されています。
そして、見る限りツリーさんの影も何処にも見てとれません……もしかしたら……ツリーさんは凶弾に倒れてしまったのでしょうか……?
すると、そんな不安を一蹴するように煙を切り裂く翡翠の剣が姿を現します。その持ち主も。
ガキィンッ!!
ツリーさんは無傷のままに、ネットさんに斬りかかり二人は再び剣を交差させました。
「……無傷とは少々意外でした。避けられぬよう不意を突いたつもりでしたが……まさかあれだけの弾丸を全て剣だけではたき落とすとは」
「侮らないでくださいまし。貴女が軍事貴族である以上、銃などの異界文明も所持している可能性くらい念頭に置いていましたわ。くるとわかっていれば……弾丸を切り裂くくらい造作もありませんことよ」
どうやら……ツリーさんは迫り来る凶弾を全て剣捌きだけで弾いていたようでした。確かに足下を見ると切断されたような銃弾の破片があちこちに散乱しています。
あまりにも常識離れした二人の攻防に少し呆然としてしまいましたが……とにかくツリーさんが無事で良かったです!
そして、意外にも早く決着の瞬間は訪れました。
ヒュッ!!
「!」
「少しだけ……守護貴族の筆頭と名高い貴女の技術に期待して手の内を見ようと思っていましたが……正直失望しましたわ。単なる異界文明の火力に頼る技術でしたのね、遊んではいられませんし……もう充分ですわ」
驚いた表情のネットさんの身体を見ると……そこには先ほど銃撃により散り散りとなってしまった蔦達が大地に根付き、あちこちから伸びてネットさんに巻き付いていました。
まるで罪人を捉えて逃がさない怨獄の鎖が地面から飛び出し捕縛するかの如く……植物の蔦は身体に巻き付いて離そうとしません。
「この植物は群を抜いて生命力が強いことで知られていますの、散り散りにして分散させるのは悪手ですわ。可動範囲を拡げるだけですもの」
「…………」
ツリーさんは煙と埃を身体から払い、優雅な仕草で髪もはらいます。
捕らわれたネットさんは無表情のまま言葉を発しませんが、至るところに巻き付いた蔦により本当に動けない様子です。
「さあ、抵抗はやめて船上の兵達に命じなさい。セーフ・T・シューズを連れてくるのですわ。拒否するのであれば兵は全員あなたと同じように捕らえます」
「………………そうですね、貴女にならばそれができるのでしょう。貴女の言った通り……多少驕りがあったのかもしれません。猛省するべきですね」
不気味なほど、不自然なほどにネットさんは素直にそう言います。
その表情は無表情のまま変わらず、それが本心から発せられたものであるのか私には掴みきれませんでした。
その無表情は、私がよく見ていたシューズさんの仕草によく似ていたのに。
本心を隠し、周囲になにも悟らせないような……シューズさんの優しさゆえの所作によく似ていたのに。
もしも私がそれに気づけたのならば、状況は少しは変わっていたでしょうか?
ーーこの決着の結末もーー
「ーーそろそろいいでしょう」
ネットさんは無表情でそう言いました。
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