百十一.なりたいもの
「んふふ……よぉく見ても綺麗な……まるで強い女性のお手本みたいな顔立ちやねぇ……どんな風に食べてまうか……」
「………くっ……!」
だもん騎士はまたしても同人誌みたいに追い詰められていた。女騎士は夜な夜な『くっ……!』の練習でもしてるのだろうか。
「!?」
「えっ……ナツイ?! 目を覚ましたの!?」
あ、またやってしまった。変態がだもん騎士に気をとられて油断している隙に後ろから捕らえられれば楽できたのに。思わず声に出してしまった。
だもん騎士も変態もびっくりした顔でこちらを見つめた。
「……はぁっ……はぁっ……やっと出られたネ……出る時まで異様な神経を使うアル……イシハラ様の精神領域は……」
「リィ君、よくやってくれた。ナツイは一体どうしたというのだ?」
「……よくわからないネ……けどとりあえずあの魔物の事は任せてもいいと思うアル」
骨っ娘も意識を取り戻したようだ。とりあえずはこの変態をどうにかしようか。言葉は通じるんだしムセンに倣って対話でもしてみるか。
柄じゃないが、そうしないとこの魔物が何故魔王軍の思惑とは外れるような事をしているのかわからないしな。
俺は変態女の前に立ち、対峙する。
「……さすがやね、ウチのとっておきを使っても『魅了』されてへんかったんやね………悔しいわぁ」
「『あれ』がとっておきなのか? お前、実は無理してやってるだろ?」
「!!……な、なに言うてるんやかお姉さんわからへんなぁ?」
変態は明らかな動揺を見せた、やっぱりか。
「……イシハラ様、『あれ』って何アルか? イシハラ様がわざと魅了にかかった時に何をされたアルか?」
「『とびっきりの笑顔と握手、そして投げキッス』だ」
「「………………え?」」
だもん騎士も骨っ娘も目が点になるくらいにぽかんとした。さっき俺が魅了を食らった時、変態は俺の手を握り笑顔で投げキッスをしただけだ。
「やぁんっ! それはバラしたらあかんやつやん! ちょい黙っといて!!」
変態は動揺して羽根を使って空へ飛び上がる。そして空中から俺に向かって言った。
「いしはら君っ! それ以上言ったらお姉さん許さへんよ!? あんた達はウチらの敵! 敵は容赦なく排除せんとあかんねん! やから大人しく魅了されてぇや!」
「断る、俺は人の言いなりになるのが世界一嫌いなんだ。俺が言いなりになるのは自分にだけだ」
「………せやったら仕方あらへんな! あんた達も大人しく魅了されてれば死なずに済んだかもしれへんのに……ウチの邪魔するんなら死んでもらうやん!」
すると変態女の桃色の髪の毛が徐々に伸びて髪の先が鋭利で巨大な刃物みたいな形を造った。ふむ、あれも技術か。
【女夢魔技術『髪の剣』】
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・職業【サキュバス】の技術。髪を刃物のように鋭利にして操る。
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「……謝るんなら今のうちやで……? ウチは敵には容赦せぇへん……大人しく魅了されへんやったらほんまに殺してまうやん!」
「御託ばっか並べてないでするんならさっさとしろ、魔物ならそのくらい簡単だろう?」
「………もう、どうなってもお姉さん知らへんから……っ!」
変態の髪は剣のような金属音を鳴らして俺に向けられた。本当に金属のようになっているみたいだな。
そして、髪は更に伸び異様なまでの長さになった。あれならば空中からでも俺の元にまで届くだろう。
「やぁぁぁぁぁぁっ!」
変態は叫びながら髪の剣を伸ばす。剣は俺を突き刺そうと一直線に凄いスピードで向かってきた。しかし、変態は俺を見ていない。
何故か、思いきり目を閉じ固くつむっている。
「ナツイっ!!」
グサッ!!
「「「…………え?」」」
変態の髪の剣は俺の右腕に刺さった。本当に刃物みたいになってるな、この髪の毛。刺さった箇所からはポタポタと血が流れ出し徐々に俺の腕を伝い地面に垂れだした。
ふむ、あのサラサラそうな髪がこんな風になるとは。これぞまさに剛毛というやつか。
だもん騎士と骨っ娘は驚いた様子でその光景を見ていた。しかし、一番驚いていたのは、自ら剣を(髪の毛だけど)振り降ろした変態自身であった。
「……なっ、なんで避けへんのっ!? 簡単に避けられるんちゃうの君やったら!?」
「なんでってお前が攻撃したんだろうに」
「そらそやけどっ……」
「まぁ、なんとなく今のでお前が何を考えてるのかはわかった。それを更に確かめるために今からお前に攻撃する、セクハラだとか騒ぐなよ?」
【一流警備兵技術『絶・対敵無力化』】
「………え?」
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俺は『流風の極意』とかいう技術で腕の傷を『痛いの痛いのとんでけー』と治した。
傷は一瞬で完治した。
「……バ、バケモノネ! 何アルかそれ!? なに当然のように刺し傷を完治させてるアルか!? もう理解できないネ!」
骨っ娘は元気を取り戻したのか突っ込みの嵐をいれる。それはまるで『突っ込み役は俺だ!』と言わんばかりに。
「……………あ………えっ……えっと……ナツイ…………」
だもん騎士も元気になったようだが、何故か顔を紅潮させて恥ずかしがっているように見える。トイレでも我慢しているのか?
「……絶対違うアル……それよりも……その魔物……一体どういう事アルかイシハラ様……ずっと泣いてるアルけど……」
「……くすん……くすん……裸を男の子に見られてもうた……もうお姉さんお嫁さんになれへん……」
変態は俺のマントに身を包みながらずっと泣いていた。
いつもお馴染み『絶・対敵無力化』はいつも通りに変態の数少ない面積の布地を破き、既に半裸だった変態を全裸にした。それで戦う気が削がれたのかこうしてマントにくるまったままずっと泣いているのだ。
しかし、なぜ変態の癖に半裸から全裸になったくらいで気力が削がれているのか?
答えは簡単、こいつは恐らく無理をして恥ずかしい格好や恥ずかしい技術、恥ずかしい言動を繰り返していたのだ。
サキュバスのくせにそういう18禁的な事が苦手なのだろう。『魅了』の技術を使う時も直接的な18禁行為をせず、握手や投げキッスのような行為しかしていなかった。
端的に言うと恥ずかしがり屋だ。
「……よくわからないアル……サキュバスって魔物は……その、そ……そういう行為を好きでやる魔物じゃないのアルか……?アクア」
「……う、うむ。前魔王時代の資料や文献には確かそう書かれていたはずだが……」
だもん騎士も骨っ娘も困惑している。
まぁこれ以上はこの偽変態に聞くしかないだろう。
何故無理矢理そんな事をしているのか。町民をどうやって懐柔したのか。一体何がしたいのか。
すると、体育座りで泣いていた偽変態が顔を上げて俺に言った。
「……その前に一つ聞かせてくれへん……? いしはら君……なんでウチの攻撃をわざと避けへんかったん……? ぅうん、キミなら避けるどころか……その光の剣で髪を斬るくらいできたんちゃうん……?」
「まぁ、できただろう。だが、そんな事する必要がないし髪は女の命というからな、斬るのに抵抗があっただけだ」
「……なんで? 魔物なんかにそんな優しさ……かける必要ないやん」
「お前こそ人間相手に手加減する必要なかっただろう。町民には手を出していないしだもん騎士と骨っ娘にかけた魅了もすぐに解いた。殺すとか言っておきながらまるで戦おうとはしていない」
「…………それは……」
まぁ、なんとなくもう理由はわかってるけど。
「お前、なんかやりたい事があるんだろう? それを魔王軍に隠れてやろうとしている。誰も傷つけないように」
「……!………なんでそう思うん……?」
「なんとなく、その眼を見てそう思っただけだ。しかし自分がサキュバスという魔物だという事実と魔王軍に在籍している現実からは逃れられない。だから何かを隠れて行っている、それがさっき言ってた『実験』とやらか?」
「………………………」
偽変態は沈黙した後、隠すのを諦めたような爽やかな顔で言った。
「……なるほど、これは敵わんわぁ……ほんますごいわ、いしはら君は。噂に聞いてた通りやね、お姉さん……キミにだったら全部打ち明けてまうやんか……ウチな。……【魅了師】になりたいねん」
【魅了師】? なんかどっかで聞いたワードだな。確か、アマクダリかなんかに講習会の時に聞いたんだったっけ?
俺は講習会での会話を思い出す。
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「ちなみに異界から持ち込まれた職業で市民権を得たのってどんなんだ?」
「そうですね……最近その名をよく聞くのは【魅了師】という職業ですね。遥か遠い国では【アイドル】という職業を目指す人が多く見られるようですね」
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5月3日現在、『一流警備兵』一話から改稿中です。
次話はもうしばらくお待ち下さい。




