232話 軽快下見旅 比叡山延暦寺
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【近江国/今龍城 斎藤家】
帰蝶の出産を見届けた信長は、主だった家臣と、斎藤家の家臣団を引き連れ、また、今川からは今川氏真、北条涼春、松平元康(徳川家康)、今川瀬奈、朝倉家からは朝倉延景、朝倉景鏡、朝倉景紀、富田勢源、真柄直隆、浅井家から浅井長政、織田於市、海北綱親、武田家から武田義信、今川里嶺、飯富虎昌、真田幸隆、山本晴幸ら錚々たる顔ぶれがそろった。
織田と斎藤以外は、地形把握に優れた1人でも構わないと通達したのに、この集合具合だ。
しかも斎藤家以外は当主直々の視察である。
バキィッ!
『今後の趨勢を決める大切な戦ですからな。当主として当然です』
などと、堂々と嘘を宣う始末である。
その証拠に全員、帰蝶に挨拶してからいく始末だ。
明らかに目当てが違う。
戦場視察のついでに挨拶ではない。
挨拶のついでに戦場視察だ。
信長も一言モノ申したい所だが、当日采配を執る当主が見るのはより確実なだけに、文句も言えない。
バキィッ! バキィッ!
さらにさらに、双子を生んだ凶事も、帰蝶が新斎藤家法度で、『文句があるなら私を倒してから言え』と追加したので、誰も何も言う事は無かったし、何なら斎藤帰蝶との繋がりが、一度に2人に増えた事は大変望ましい。
誰もが、自分の息子や娘に嫁がせたいと思っていたのだ。
生まれたのが1人だったら壮絶極まりない争奪戦、それこそ戦が繰り広げられる可能性もあるだろうが、2人なら、その争いは半分で済む――ハズだ。
バキィッ! バキィッ! バキィッ!
そんな長時間の帰蝶との会談をイライラしながらも、脛を木刀で叩いては悶絶する信長。
女性陣がキャアキャアと双子を愛でるも、視界の端で、信長の奇行を見ない様に見る。
バキィッ! バキィッ! バキィッ! バキャッ!
「グッ!!」
そんな様子を見守る、集合した面々。
もちろん男性陣も見ない様に見た。
「……あ、あの織田殿は何をなされているので?」
当然の疑問だ。
奇行にも程がある。
(さすがは『うつけの信長』だ)
誰もがそう思ったが、そうでは無い事は帰蝶がその都度、於勝丸(織田信正)に木刀で己の脛をブッ叩かせて証明した。
「あぁ、あれはね? こうやって私の訓練を真似しているのよ」
バキャァッ!
於勝丸渾身の振り下ろした木刀が折れた。
10歳で木刀を折る於勝丸が凄いのか、それを平然と耐える帰蝶が凄いのか。
一応、こういった部位鍛錬は、破壊してしまった方がダメージは少ない、が、それなりに痛いのは痛い。
一方、折れ飛んだ先端は、回転しながら運の悪さに定評のある松平元康の鼻先を掠め、地面に突き刺さる。
「ッ!?」
尻もちをついた元康を他所に、帰蝶が軽く説明をしたが、元康がPTSDを発症しかけたのは余談である。
「道中で聞いてみるといいわ。もう殿も出発したがっているみたいだしね《これでいいですね?》」
《あぁ。まったく緊張感の無い連中だ! 大半はお主目当てじゃろう!? これから日本最強の勢力との決戦地を見て回るというのに、頼もしいやら呆れるやら……!!》
《しっかり訓練の刻が取れたから良いんじゃないですか?》
《流石に痛いわッ! 痛いのも訓練か!? なら無駄な時間では無くて何よりだッ!》
訓練時間だけはたっぷりと取れたのが救いか。
皮肉100%だが。
そんなこんなでようやく琵琶湖を横断し延暦寺に向かう一行であった。
だが、まずは京よりも延暦寺。
ここを説得しなければならない。
軍隊が通過するが、攻撃の意思が無い事など、伝達事項は山ほどある。
願証寺は、そう通達してなお争いとなったが、要塞と化した比叡山に約束を反故にされては困る。(57話参照)
それに比叡山は防御が防御だけに厄介すぎるし、最悪、三好と挟み撃ちになる。
(必ず説得せねば、今だけはとても困るのだ!)
信長は青アザだらけの脛をさすりながら湖上を船で横断した。
【近江国/延暦寺】
「ようこそお越しくださいました。事前に聞いては居ましたが……こうして見ると随分と大人数ですな」
「あぁ。そこは申し訳ない。ただ、次の戦は誰もが決戦になると思っての事じゃろう(それでも多すぎなのは否定せんが)」
「(でしょうなぁ)では、ご案内しましょう。人数も人数ですので、根本中堂(本堂)にご案内しましょう。ご休憩は大丈夫ですか? 道中の整備は抜かりありませんが、それでも慣れぬ者にはキツイ道中だったハズですが……」
以前にも述べたが比叡山は天然の要害である。
現代はロープウェイで快適だが、敷地内を歩き回れば湿布必須の筋肉痛が脹脛を襲う。
微妙な上り坂の連続や急すぎる階段など、私は調査だけで足腰が悲鳴をあげた。
ましてやロープウェイなど無い戦国時代である、
山の麓から頂上まで歩いて登るしかない。
歴史改変のおかげで要塞化され、お陰で道が整備されていたのが唯一の救いか。
ただ、それでも、鍛えた武将たちの呼吸は荒かった。
正直、信長も精一杯我慢しているが、本当は口で思いっきり呼吸をしたいのは、天下を狙う身として物凄く我慢している。
「我らが護衛僧も悲鳴を常にあげている道中であれば、いったん休息としましょう。その間に想定外の人数なれば場を整えておきます」
「そうだな。全く情けない奴らめ、と言いたいが、申請以上の人数で押し掛けたのも事実。お言葉に甘えましょう。皆、息を整えよ。水場は……」
信長の『お言葉に甘えましょう水』の言葉で既に武将たちは水場に向かって走っていた。
「元気じゃのう。水一滴と言えど、人間の力をここまで引き出すか」
信長は呆れながら、近くの巨石に腰かけた。
信長一行が一通り水を飲んで体内に活力を取り戻した頃、ちょうど延暦寺側も準備が整い、会談が始まった。
信長は最後に要点をまとめ、願い出た。
「――と言う訳で、延暦寺は手出し無用、我らの勝敗に関わらずに傍観を決め込んで頂きたい。その上で我々は、延暦寺を守りながら三好軍を倒すのでな」
信長の言葉に覚恕は唾を飲み込んだ。
織田の使者来ると聞いてはいたが、援軍の申し込みだと思っていたら全く逆だった。
あと、何故かよろよろとぎこちなく胡座で座る信長にも疑念を持った。
脛を叩きすぎたのだが、覚恕が知る由も無かった。
「ついに決戦と言う訳ですか……」
覚恕は心配そうに話す。
心配が本心かどうかは不明だが、少なくとも近隣で争いが起きるのは歓迎していない様子であった。
ただ、それは誰もが思う当たり前。
現代でさえも近隣諸国が物騒では困るのだから、戦国時代なら当然の感情だ。
それで延暦寺だが織田には借りがある。
覚恕でさえ忌々しく思っていた破戒僧を滅してくれた恩義がある。(149-1話参照)
大和国の残党軍を跳ね返してくれた恩義がある。(226話参照)
協力も吝かではないと思っていた程だ。
「そうじゃ。東には延暦寺、西には本願寺が戦力を保持しているが、三好軍に加担するは当然、我らを助ける動きも禁ずる。僧兵が動く場合は、三好軍が延暦寺をどさくさに紛れて攻撃する場合だけになるだろう」
「織田殿と一緒に東大寺の大仏を焼いた三好殿ですね」
覚恕が皮肉気味に念押しした。
「うむ。ワシと一緒に大仏を焼いた長慶じゃ」
信長は悪びれるでもなく即答した。
(ッ!! 流石悪鬼と魔王と噂される信長と長慶か!)
東大寺と宗派は違うが延暦寺はほとんどの宗教、宗派の始祖だ。
殆どが延暦寺で天台宗を学び、新たな宗教を起こした。
それが延暦寺の怒りに触れた時もあれば、子分として傘下に置いたこともある。
残念ながら東大寺は延暦寺からの派生ではない華厳宗だが、日本のオーパーツたる大仏には一目置いている。
それを徹底的に破壊焼却した信長と長慶には、神仏の放つ神聖とは違うが似た様なモノを感じてしまう。
「その三好だが、延暦寺はこの要塞だからな。我らとの連戦後では守って戦う方が楽だろう。その時は我らは負けて蹴散らされている訳だが」
「……正直申しますとこの要塞は対織田殿を想定していましたのに、まさか相手が三好に代わるかもしれないとは……。未来は本当に読めないモノですな」
事ここに至っては、覚恕も、笑うでも怒るでも悲しむでも楽しむでもない、複雑な顔をして白状した。
「フフフ。本当にな」
信長は覚恕の素直な反応に笑って答えた。
「ワシも本当に本当に、よ~ぉっく実感するわ。《なぁ?》だがまぁ、先が読めれば楽じゃが、その結果の代償はきっと重い。未来を厳選すればする程、人生の楽しみは失われていくであろう。最後に待ってるのは虚無なんじゃないかと思いますぞ」
「ほう! 面白い考えですな! おっと失礼をば……」
信長の(非常に実感の籠った)薫陶に、覚恕は驚いた。
ついでに信長に引き連れられてきた武将も驚く。
信長を為政者と認めつつも、所詮は戦国大名と思っていたが、信長の思わぬ一面を発見し覚恕は驚いた。
「拙僧も浅はかながら未来が読めていたら選択を間違えなかっただろうに、と思う後悔が多々あります。しかし、未来を知って楽しみどころか、待っているのは虚無ときましたか。成程、仮に成功する道を知ってしまえば、達成感が失われますな」
「そうじゃな。最初は我が道を行くが如くでも、障害が無くては人生つまらん。まぁ余計な障害は無いに越した事はないのじゃが、順風満帆過ぎても……な、と思ってしまってな。無論、民には順風満帆に生きてもらいたい。障害は精々夫婦喧嘩ぐらいが程良かろうて。ハッハッハ!」
「そうですなぁ。本当にそう思いますぞ(人の噂がこうも当てにならんどころか外れるとは。見ると聞くでここまで乖離した人間もおらぬのではないか!? ……い、いや、噂は真実だから見ても聞いても同じなハズじゃが、まるで違う様に見える!)」
覚恕には信長の噂が、信長とは別人の噂に聞こえて仕方がない。
こんな知的な話が出てくるとは思ってもいなかった。
「うむ。政治で民に害を及ぼしてはならぬ。その民には無論、お主等僧侶も含まれる。安心するがよい」
「配慮、忝し。ご武運をお祈り申し上げます」
「よし。では京の都を見学に参ろうか」
信長がそう言うと、背後で控えていた男女の団体が立ち上がり去っていった。
「一応、女人禁制だったのじゃが……今更そんな事を言える立場でも無いな。斎藤殿が産後で無ければ絶対来るしか無い訳で、やむを得ないか」
覚恕が独り言で言い訳をするが、確かに仕方ない話。
帰蝶がいないのは偶然で、女性武将もいる軍隊である以上、会談を仏法で断る訳にはいかない。
別に根本中堂じゃなくても比叡山の麓でも良いのだが、あえて山頂に招いた。
何せ仏法を最初に破っているは自分達なのだから。
それに思惑もある。
「むしろあの女人こそが我に代わって骨を折ってくれておる。やはり本気で改革を断行せねばなるまいな……」
本来なら女人禁制の聖域だが、かつて要塞を築く前は、延暦寺は荒れ放題の酒池肉林だった。
ただ、本山に女を連れ込む事はしていない。(多分)
戒律を守ったからだ、ではなく、山を登るのが面倒くさいのが理由だ。
ただ、責任者たる覚恕にとっては、もう戒律など破られたも同然とみている。
だからこそ好機と見ているのだった。
「堕落した破戒僧は未だに多い。何とかついでに消してしまえぬだろうか?」
覚恕の思惑はこれだ。
援軍は禁じられている。
なら、以前のように還俗僧兵ならどうだ?(142-2話参照)
「あの時は敵だったから良かった訳で、味方の還俗僧兵は織田も扱いに困るか。……それはそれで一つの弱点か?」
何があっても傍観しろと言われた延暦寺であるが、覚恕も本気で傍観するつもりはない。
来年、決定的な好機が訪れるかもしれないのだから。




